母親から地方都市の国立大学医学部への進学を強く求められ、自分が本当に望む進路を選ぶことができない高校生・諸星桜。
鳥トマトさんの漫画『二月に殺して桜に埋める』は、教育虐待を受ける少女と母親の関係を描く一方で、単なる「毒親被害」の物語にはとどまらない。
主人公の桜は、母親の言いなりになる娘ではなくなっていく。
「医学部に行かん娘なんか、産んだ意味ないんよ」と言う母親に対して「アンタの産んだ意味げな知らんよ」と言い返し「毒娘」へ覚醒。その反撃はどのような道を切り開いていくのだろうか…。
地方特有の閉塞感や「毒親」を生み出す社会構造、強烈なキャラクターについて聞いた前回に続き、今回は毒親を描いた過去の名作漫画との違いや「毒親VS毒娘」というバトル構造について鳥トマトさんにきいた。
名作が切り開いた道の上に「毒親漫画のゾルトラーク」の先の挑戦
漫画史上の傑作『天人唐草』(山岸涼子さん、1979年発表)や『イグアナの娘』(萩尾望都さん、1992年発表)などでは、親の歪んだ価値観に苦しめられ、娘の内面が崩壊したり諦念へと至ったりするストーリーが描かれてきた。
それに対し、本作の主人公・桜はぶつかるという形をとりながらも母親と対峙し、知恵と意志で反撃を仕掛けていく。一方的な被害者の悲劇で終わらせない斬新なバトル構造の反逆劇を選んだ理由はどこにあるのだろうか。
<マイノリティを主人公にした作品というのは、えてしてマイノリティが死んだり、病んだり、可哀想な目に遭って終わり、という物語があまりにも多いと常々感じておりました。それはその方が(作品として)安易に感動できるからだと思うのですが、毒親ものもそのフォーマットに落ち着きがちな傾向があると思っています。
ただ、今は「毒親漫画」というものが一つジャンルとしてありますが、『天人唐草』や『イグアナの娘』が発表された当時は、「比較的恵まれた環境で育った女の子でも、内面が傷つくことはあるんだ」ということをエンタメの形で社会に訴えたという意味において、偉業だと思います。毒親漫画の「ゾルトラーク」(編集部注:漫画・アニメ『葬送のフリーレン』に登場する、人体を直接破壊する強力な魔法。そこから転じ、当時は革新的であったが現在は普遍的・一般的になったものを指す比喩)ですよね。
自分は先人と同じことをやっても仕方がないので、「比較的恵まれた環境で育った女の子でも、内面が傷つくことはあります、それはそれとして、これからは自分の人生は自分で取り戻していきます!」という物語に挑戦できたら新しいかなと思い、挑戦している形です。これは全て先人の先生方の切り開いてくれた道の上にある話だと思うので、斬新だと言ってもらえると、意図が伝わっているようでとてもありがたいです>(鳥トマトさん、以下同じ)
過去の漫画や映画で影響を受けた作品はあるのだろうか。
「『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』という映画があって、マイノリティーが主人公の映画なのですが、主人公のヘドウィグ、かなりかわいそうなのですが、それを上回る勢いで本人がめちゃくちゃなので最終的には『なんだこいつは…?何を見せられたんだ…?』という不思議なバランスに仕上がっているんですよね。
最近観たので、こちらは参考にしているというわけではないのですが、あのめちゃくちゃな感じは読後感がかなり近いかもと思いました。この漫画が好きな人におすすめです!」
「今は誰もあなたを認めてくれなくても、そのうち理解してくれる人がきっと現れます」
本作では、母親から精神的拠り所である本を破られ、殴られながらも、桜は「本を作る仕事がしたい」という自らの夢と意志を手放さない。過酷な状況にあっても、たくましく立ち向かうその姿は、家族や学校、地域といったコミュニティの息苦しさに悩む多くの読者の背中を押しているだろう。
いま親との関係や居場所のなさに悩む読者に向けてメッセージを求めると、鳥トマトさんは自身の歩んできた道のりを重ね合わせながら、力強い言葉を寄せてくれた。
「自分も10年前まではおよそ自分が漫画で生計を立てることになるなんて考えたこともありませんでした。20年前までは出版業に関わることすら夢のように思っていました。
人間は変われるし、成長できるし、今は誰もあなたを認めてくれなくても、そのうち理解してくれる人がきっと現れます。自分もまだまだ成長過程にいると思っていますので、一緒に頑張りましょう!」
『二月に殺して桜に埋める』は、2025年11月に「ヤングアニマルZERO」で連載スタートし、2026年5月に単行本第1巻が発売。単行本第2巻が10月29日に発売された。
<鳥トマト>1992年生まれ。福岡県出身。一橋大学卒。講談社にてライセンス営業職勤務経験を経て現在、漫画家、たまに小説家。現在漫画『私たちには風呂がある!』、漫画『二月に殺して桜に埋める』を連載中。近刊に小説『漫画でイけ』。

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