刑事ドラマのお決まり「スーツで現場にズカズカと…」これってホント?元捜査1課が明かすリアル

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刑事ドラマを見ていると、必ずと言っていいほど出てくるシーンがある。事件発生直後、現場にスーツ姿の刑事たちがズカズカと入り、遺体に手を合わせる——あの場面だ。

しかし、このシーンはどこまで「リアル」なのだろうか。ドラマの描写と実際の現場に、大きなギャップはないのだろうか。そもそも現場では、どのような作業が行われているのか。

そんな素朴な疑問を、長年現場に立ち続けてきた元警視庁捜査1課理事官・副島雅彦さんに聞いてみた。

副島さんは刑事警察に25年携わり、うち16年は捜査1課で殺人や強盗などの凶悪犯罪を担当してきた。2026年5月からはハフポスト日本版で、現場で見てきた現実と刑事警察の課題を綴るシリーズ『捜査の神様』が与えてくれたものを展開している。

副島さんから返ってきたのは、ドラマとは異なる「現場のリアル」だった。

(聞き手・相本啓太 / ハフポスト日本版)

元警視庁捜査1課理事官の副島雅彦さん(左)と、ハフポスト日本版の相本啓太記者(右)
元警視庁捜査1課理事官の副島雅彦さん(左)と、ハフポスト日本版の相本啓太記者(右)

Sumireko Tomita/ HuffPost Japan

ドラマ「刑事が臨場」シーンって本当?

——刑事ドラマでは、遺体がある現場に刑事たちが臨場し、その場で手を合わせるシーンがよく描かれます。実際にそのようなことはあるのでしょうか。

まず警察の基本的な動きを説明します。

事案が発生すると、最初に警察署の刑事が現場に行きます。その刑事が「事件性がありそうだ」と判断した場合、「ここに入るな」「一切触るな」と呼びかけ、“現場保存”を最優先で行います。

「事件性がありそうだ」というのは、「首に絞められたような痕がある」「現場が荒れている」といったケースです。

そう判断した刑事自身もすぐに現場の外に出て、捜査1課と鑑識に電話をします。それ以降は誰も現場に入ることができません。

「現場を壊さない」ことが何より重要であるため、刑事たちが土足でズカズカと現場に入ることは実際にはありません。

——ドラマでは、スーツ姿の刑事がヘアキャップもせずに土足で現場に入っていますね。

そのようなことがあれば大変なことになります。髪の毛1本を落とすだけで、「現場を壊している」ことになるからです。

最初に現場に入るのは、「現場鑑識」です。現場の状況を写真に残す作業が終わるまで、刑事は現場に入ることができません。

ただ、“昭和の名刑事”としてドラマ化もされている「平塚八兵衛」の時代は、真逆のことが行われていました。

一つの例が、1968年に東京都府中市で発生した「3億円事件」です。従業員のボーナス(約3億円)が積まれていた現金輸送車が、白バイ警察官を装った人物に持ち去られた事件で、1975年に時効が成立しています。

この事件が起きた当時は、現場保存が今ほど徹底されていませんでした。まず刑事が現場を見た後、「よし、鑑識も入れていいよ」という順番だったと聞いています。

背景には、鑑識作業で得られる証拠のレベルが現代より低かったという事情があります。

その後、科学捜査が発達し、DNAや指紋などの証拠の重要性が飛躍的に上がりました。

現場は「証拠の宝庫」と言われるようになり、現場保存の重要性も高まった結果、「鑑識が先、刑事は後」という現代の順番に変わっていきました。

強盗事件の現場付近で鑑識作業をする警視庁の捜査員(2017年4月21日、東京都中央区銀座)
強盗事件の現場付近で鑑識作業をする警視庁の捜査員(2017年4月21日、東京都中央区銀座)

時事通信社

現場に入れる「管理官」とは

——では、鑑識作業が終われば、刑事たちもドラマのように現場に入ることができるのですね。

いいえ、基本的には遺体のある現場に刑事たちが入ることはありません。警視庁の場合、捜査1課の中で現場に入ることができるのは、「庶務担(臨場)管理官」以上の“幹部”に限られます。

ただ実際には、幹部が大勢押しかけると鑑識作業の妨げになりかねないため、現場に入るのは「庶務担(臨場)管理官」のみ、というケースがほとんどです。

庶務担(臨場)管理官は、現場を見て事件かどうかを見極め、その上で捜査1課を投入するかどうかを判断します。私自身も2016年からこの役割を経験しましたが、決していつでも堂々と現場に入れるわけではありません。

現場鑑識に「もう大丈夫ですか?」と聞き、「写真を撮っているので待ってください」「いま足跡を採取していますので」と言われれば、その作業が終わるまで待ちます。許可が出て初めて現場に入り、必要なものを確認したらすぐに離れます。

服装は現場鑑識と同じです。ヘアキャップを被り、足カバーをつけ、マスクとゴム手袋をして、その上から帽子をかぶる。髪の毛1本、汗1滴も落とさない状態で現場に入ります。

動く動線も決まっていて、証拠がある場所を避けて歩きます。こうしたルールを守って現場に入り、「これは事件だな」と判断します。

——どのように事件かどうかを判断しているのでしょうか。

現場では、「粗(あら)検視」を行います。

「検視」とは、犯罪の有無や身元などを確認するために遺体を調べる刑事手続のことです。「粗検視」はその名の通り、遺体をざっくり確認する簡易的な検視を指します。

例えば、遺体に刺し傷があるのにもかかわらず、現場に凶器が残されていない場合、何者かが被害者を殺害した後、凶器を持ち去ったと考えるのが自然です。

遺体の真下に刃物が隠れていて、自殺の可能性が出てくるケースもあります。ただ、それを確認するために遺体を動かすようなことは、粗検視の段階では行いません。

証拠の採取など、現場でやるべきことが終わると、遺体は警察署に運ばれます。そこで行われるのが「本検視」です。

捜査に従事する刑事たちが遺体に手を合わせるのは、多くの場合、この本検視の場面です。

元警視庁捜査1課理事官の副島雅彦さん
元警視庁捜査1課理事官の副島雅彦さん

Sumireko Tomita/ HuffPost Japan

刑事たちが手をあわせるのは「本検視」

——刑事たちは本検視には立ち会うのですか。

検視のプロである検視官を筆頭に、捜査1課の刑事、警察署の刑事などが本検視に立ち会います。

こうした体制になったのは、実はそれほど昔のことではありません。平成の始め頃までは、検視官ではなく警察署の係長が検視を担当するのが一般的でした。

しかし、「事件性なし」と判断したにもかかわらず、後になって事件だと判明する「誤認検視」が問題になり、検視のプロである検視官を増やす流れが生まれました。

私自身もその頃、警察署の係長(警部補)として検視をしていましたが、とても遺体の前で手を合わせる余裕などありませんでした。

現代の本検視では、検視官がまず「今からご遺体を拝見させていただきます」と言って手を合わせます。すると、周囲の刑事たちも手を合わせ始めます。

そして、「◯時◯分、検視開始」と号令をかけて始め、検視が終わった後も同じように手を合わせます。このような慣習は、自然と根付いてきたものです。

根底にあるのは、「死者に対する礼を失しない」という考え方です。遺体を調べるわけですから、人としての礼を尽くすというけじめとして広がっていったのです。

「礼を失しない」やり方は人それぞれ

——副島さん自身も手を合わせていたのでしょうか。

私は、手を合わせればいいというものでもないと考えています。

ある現場で、遺体の写真をどうしても上から俯瞰して撮影しなければならない状況があったのですが、若い鑑識課員が遺体をまたぎ、腰をかがめて上から近づくときに、「失礼します」と声をかけていました。

遺体に手を合わせたわけではありませんが、それも彼なりの「死者に対する礼を失しない」方法です。手を合わせるだけが礼ではありません。

私は警部補の時代も、捜査1課の時代も、手を合わせたことはありません。手を合わせろと言われたこともありませんでした。

その代わり、全ての事件を通して貫いていたことがあります。必ずスーツを着ることです。どんな暑い日でもネクタイを締めていました。

当時、警察署で検視を担当した係長は、悲しんでいるご遺族にその結果を説明する必要がありました。その時に、検視の作業着のままでは失礼だろうと考えていました。

安物のスーツでもいいので、きちんとした格好で説明する。そんな思いから、どんなに損傷がひどい遺体であっても、私は必ずスーツを着て検視を行っていました。

私にとっての「死者に対する礼を失しない」は、スーツを着ることだったのです。手を合わせることはありませんでしたが、それは礼を欠いていたということではありません。

大切なのは、手を合わせること自体ではなく、それぞれが、それぞれの方法で、「死者に対する礼を失しない」姿勢を貫くことなのだと思います。

◆副島雅彦さんプロフィール

福岡市生まれ。1985年、警視庁に入庁。刑事警察に25年携わり、うち16年は殺人や強盗などの凶悪犯罪を扱う捜査1課に在籍した。

警視としては、警察署の刑事組織犯罪対策課長や、知能犯を担当する本部捜査2課の管理官を歴任。

2016年から捜査1課管理官(殺人・庶務)。2019年から捜査1課ナンバー2の理事官として、捜査1課長を支えた。

2020年に退職。

これまでに、「ルーシー・ブラックマンさん失踪事件」や「船戸結愛ちゃん虐待死事件」など、数多くの重大事件の捜査に携わってきた。

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