ギリシャの地下に住む生物たち
Credit: Radea C, Protopapas D, Parmakelis A, Koskeridou E (2026) Subterranean Biology 57: 1–21. https://doi.org/10.3897/subtbiol.57.189090 / CC BY 4.0ギリシャは、地面の下にもうひとつ国土を持っている国です。
その理由は国土の約41%を締める石灰岩の存在です。
石灰岩には水に溶ける性質があり、雨水が何万年、何十万年と降り注ぐうちに、岩はヒビに沿って少しずつ削られていきます。
隙間が広がれば、そこへまた水が入り込み、さらに岩を溶かします。
こうして長い時間をかけて地下につくられるのが、穴や管、空洞が複雑につながった、巨大なスポンジのような構造です。
ギリシャで確認されている洞窟の数だけでも1万を超えます。
そこにどんな生き物が住んでいるかまで調べられたのは、そのうち550ほどにすぎません。残りは、入口の位置がわかっているだけの状態です。
地下水の中だけで一生を終える生き物は、洞窟の壁を歩く生き物と違って、人間が立ち入れる場所にほとんど姿を見せません。
研究者が彼らに会えるのは、地下水が地上へこぼれ出す泉のような、ごく限られた接点だけです。
ある意味で未発見の新種の宝庫ともいえるでしょう。
しかし今回発見されたカタツムリの親戚は、特に異質なものでした。
カタツムリと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、雨上がりの葉の上をゆっくり進む、あの姿だと思います。渦を巻いた殻を背負い、二本の触角の先には小さな目が乗っています。
ですが今回、ギリシャ南部の山あいで見つかったこの貝からは、そのほとんどが抜け落ちていました。
まず、色がありません。殻は薄く、採れたてのものはガラス細工のように透きとおっていて、中の身にも色素がなく、白っぽいクリーム色をしています。
また触角は生えているのに、目があるはずの根元には何もついていません。
また殻の幅は大きい個体でも1.46ミリほどで、米粒の3分の1程度しかありません。
このような特徴は、光が届かない地下で生活する多くの生物にみられる特徴です。
地下水の中は、場所が違っていても似たような条件にさらされているからです。
光が届かないためエサも乏しく、植物も育ちません。
生き物たちは、地上から流れ込んでくるわずかな有機物を頼りに暮らすことになります。
そんな「同じ問題」に、まったく血縁のない別々の家系が、それぞれ独立に取り組むことになります。
すると、別々の家系であるにもかかわらず、似たような答えにたどり着くことがあります。色素を作るのをやめ、目を作るのをやめ、体も小さくなるのです。
結果として、地下の巻貝は、家系がまるで違っていても、驚くほど似た姿をしていることがあります。
この世界では、多くの生物学者が頼りにしてきた「外見」が、身分証の役に立ちません。
実際、ギリシャの地下水性巻貝の中には、殻の形だけを根拠に名前をつけられた結果、分類学的な位置づけが未解決のまま宙づりになっている種がいくつもあります。
名前はあるのに、身元がわからない。
そういう状態が、いまも続いています。






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