「せめて、一刻も早くエアコンをつけてください」
「死者が出たらどうするんですか」
「熱中症で泡を吹いて倒れて救急搬送された人もいるんです」
8月6日、私は埼玉県庁の一室にいた。
県の社会福祉課の職員と対峙するのは反貧困ネットワークの瀬戸大作氏、反貧困ネットワーク埼玉の猪股正弁護士、そして共産党の城下のり子県議、埼玉県市民ネットワークの山田ゆう子県議、共産党埼玉県議会議員団事務局長の馬場民子氏。
この日私たちが県庁に乗り込んだのは、第770回の原稿で書いた「悪質無料低額宿泊所」の問題を訴えるためだ。
生活保護費の大半を食費や施設利用料として取り上げる、キャッシュカードなどを預けることを強要される(断ると退去と脅される)、本来であれば短期滞在のはずの場所なのにいつ出られるかわからず「放置」されているような状況――。
住まいがない状態で生活保護申請をすると、福祉事務所の案内でこのような悪質無料低額宿泊所に入れられることがあるのだが、あの原稿を書いた後、驚くべきことを知った。
なんとこの酷暑だというのに、一部の施設にはエアコンがないという。部屋によっては扇風機さえないそうだ。今や北海道や東北だってエアコンは必須である。それなのに、「日本で一番暑い」と言われる熊谷市がある埼玉県で、そのようなことがまかり通っているのである。
そんな悪質無料低額宿泊所が社会問題として注目されたのは今回が初めてではない。2010年頃にも問題となり、埼玉県では条例ができる、国の社会福祉法も改正されるなどして一時は改善が進んだ。その過程で淘汰された施設もある。
が、貧困によって家を失う人が絶えず、住まいのセーフティネット強化も進まない中、再び悪質な無料低額宿泊所が出てきているというのが現状だ。
ということでこの日、県庁で話し合いがもたれたわけだが、まずは瀬戸さんから問題のエアコンのない施設についての実態が語られた。
問題の施設からすでに何人も救出している瀬戸さんだが、7月末にも男性からSOSが来たという。施設に入るなりキャッシュカードを取り上げられたという男性は、入居から5日目、SOSをくれた。きっかけは、前日、熱中症で隣の部屋の男性が泡を吹き、救急車で運ばれたことだったという。
瀬戸さんは普段から福祉事務所に、このような悪質な施設に案内しないよう求めているそうだ。が、福祉事務所は「県に言ってくれ」という対応。
次いで無料低額宿泊所問題に以前から取り組んできた猪股弁護士も話したのだが、すべての言葉に耳を疑った。
例えば役所から保護費が振り込まれる口座の通帳、キャッシュカード、印鑑を施設側に取り上げられ、暗証番号も聞き取られ、施設利用料などの名目で費用を取られていたものの明細もなく十分な説明も受けられずに書類に署名捺印させられていること。
ある施設の風呂場では、今年に入って二人亡くなっていること。
入居者が施設関係者の仕事に無償で従事させられ、13時間働いてもジュース一本程度しか与えられなかったこと。
外部との連絡を厳しく制限され、電話を使用する際はスピーカーモードにすることを求められ、施設管理者がケースワーカーとの会話を記録していること。
体調不良の際に救急車を呼ぼうとしても、許可がなければ呼べないこと。
「逃げたら追い込みをかける」「見つけたらぶっ殺す」などの脅迫的発言が施設関係者から入居者に繰り返されていたこと。
また、年金を全額取り上げられていた女性や電灯もない部屋に入れられていた人、暴力を受けたあとに所在不明となった人もいること。
こうして書いていて、とても現代の、そして日本の話と思えないのは私だけではないだろう。時代も場所も、「設定、間違えてない?」と思うほどに、人権侵害のオンパレード。なぜ、このようなことが放置されているのか。
ちなみに今年6月には悪質無料低額宿泊所について、この日同席した城下県議が埼玉県議会で質問している。
動きがあったのはその直後。埼玉県内のいくつかの市の福祉事務所は、職員が直接施設まで迎えに行って入居者を退去させたという。福祉事務所としても「ヤバい」という認識があるのだろう。
無料低額宿泊所に入る人は、住まいがなく、他に頼るところもなく、決して強いとは言えない立場の人たちである。そんな人たちが所持金もほぼないままに「屋根がある場所」を求めたらあらゆる搾取と暴力に晒されるなんて、許されていいはずがない。しかも、そこは社会の目がもっとも届かない場所でもある。そのような事態から困窮者を守ることこそ、県や福祉事務所の仕事ではないのか。なのになぜ、福祉事務所はわざわざそんな場所を頼り、また県はそれを放置しているのか。
無料低額宿泊所は届出制だ。話し合いの場で、県の職員は「届出制なので、条件を満たしていれば受けざるを得ない」と終始「受け身」のスタンスだった。が、受けた以上、しっかり指導し是正させるのが義務だろう。というか、すでに埼玉県は悪質な施設に行政監査指導を出している。にもかかわらず、改善されているとは言い難いからこうしてわざわざ訴えているのである。
悪質な施設では、死亡退去も多いという。
このままエアコンがないなら、この夏、さらに死亡退去者が出てしまうのではないか。
「一刻も早くエアコンを」
この日何度も訴えたものの、職員は「指導事項が多い施設なのは事実だ」としつつも、これまでも「指導している」、そして「今後も指導していく」という返事だった。
今この瞬間も、命の危機にある人がいる。
どうやったらこの声が届くのか。毎日、埼玉県の気温を見ては気を揉んでいる。

1 時間前
1





English (US) ·
Japanese (JP) ·