『おしかくさま』(河出書房新社) - 著者: 谷川 直子 - 陣野 俊史による書評

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おしかくさま
『おしかくさま』(河出書房新社)著者:谷川 直子

したたかなユーモアに抱腹

久しぶりに腹の底から笑った。笑える小説に出合った。

離婚をきっかけにウツ病に陥り、長い間引きこもっていたライターのミナミは、ある日、76歳になる父親を尾行するよう、母親に頼まれる。浮気が疑われるというのだ。

だが、父親が入り浸っていたのは「おしかくさま」というお金の神様を信じる4人の女性(60代から70代まで)の集団だった。

最初、警戒を解かず、「おしかくさま」に距離を置くミナミだったが、何かを賭けてみたい気になる。4人の女性とともに「おしかくさま」のお告げに従ってみようとするのだったが……。

タイトルの「おしかくさま」とは、銀行のATMのこと。この身も蓋もないところがいい。毒を含んだユーモアが全篇(ぜんぺん)を貫いて、確かな作品世界を構築している。

もう一つ。この小説は震災以後を強く意識して書かれている。「3・11」以後、私たちの社会に漂っている歪(ゆが)みをこんなユーモアで表現した小説は、他にないのではないか。

ユーモアの勝利である。そして、このユーモアはなかなかにしたたかである。
【初出メディア】
日本経済新聞 2012/11/21

http://www.nikkei.com/
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