埼玉県所沢市に7月1日、LGBTQ+関連の書籍や資料を主に取り扱う私設図書館「ライフカスタマイズラボ」がオープンする。
1軒家を改造したこの場所には、LGBTQ+関係の本や漫画、映画、CDだけではなく、ミニコミ誌や当事者団体のニュースレター、会報誌など約2万点が所蔵されている。
長年読み継がれている書籍もあれば、今では手に入らない数十年前の貴重な資料もある。
例えば、現在の東京プライドパレードの前身である「東京レズビアン&ゲイパレード」の2002年のパンフレットを開くと、ピエール瀧さんらが応援メッセージを寄せていたことがわかる。

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この図書館を作ったのは、自らもLGBTQ+コミュニティの一員で会社員の今将人(いま・まさと)さんだ。
開設の背景の一つに、インターネットの普及により、LGBTQ+に関する間違った情報が広がっていることへの危機感があったという。
蔵書の約半分は今さんが購入したもので、残りの半分はNPO団体から寄贈された。今後も増える予定だ。
利用は有料で、完全予約制。個人情報を含む資料や、古くて取扱注意の本、成人向けのコンテンツなどもあるため「開架書庫」と「閉架書庫」に分けられている。
閉架書庫の利用は18歳以上で、開架書庫にも中学生以上という年齢制限を設けている。
主な利用者は研究者や大学のゼミ生らを想定しており、専門性の高い資料室としての性質を持つ。
図書館オープンを後押しした背景
本好きの今さんにとって、書庫を作るのは子どもの頃からの夢だったという。
しかしライフカスタマイズラボのオープンを後押しした背景には、夢だけではなく誤情報への危機感がある。
日本では、2000年代に「LGBT」という言葉がメディアなどで広く使用されるようになった。
性的マイノリティ当事者や権利運動に光が当たるようになった一方で、誤った情報も広まりやすくなった。
今さんが懸念を感じたのが、ある団体の代表がインタビューで口にした「2010年頃までレズビアンコミュニティとゲイコミュニティには接点がなくトランスジェンダーはほとんどコミュニティもなかった」という発言だ。
今さんは、2000年から関西のLGBTQ+団体に参加してきた。トランスジェンダーが主催したり、様々なセクシュアリティの人が集ったりする場が当たり前だったため、「なかったことにされた」という衝撃は大きかったという。
「私たちセクシュアルマイノリティ当事者が、以前よりも生きやすくなっているのは、先輩たちの努力と戦いの結果です。その運動の歴史が軽んじられていることに、大きな危機感を持ちました」と話す。
今さんがもう一つ懸念するのが、生成AIの普及だ。
多くの人がAIを日常的に使うようになった今、事実と異なる内容をもっともらしく示す「ハルシネーション」により、LGBTQ+当事者や歴史について、誤った認識が広がる危険が高まっていると感じている。
また、AIを使って導き出した誤った情報をあたかも正しいかのようにSNS上に投稿して拡散させるという行為が珍しくなくなり、誤りを指摘した専門家が攻撃される事態も起きている。
生成AIの回答は、学習に用いられたデータや、利用時に参照できる情報の範囲に左右される。インターネット上で公開されていない資料や、学習データに含まれない資料の内容を、正確に反映できるとは限らない。
だからこそ、今さんはライフカスタマイズラボをインターネット以外の媒体にしかない情報を残す場所にしたいという。
今さんによると、ライフカスタマイズラボには、LGBTQ+当事者が手がけたミニコミ誌など、国立国会図書館の蔵書検索では所蔵を確認できない資料も含まれるという。
その中には、個人情報やセンシティブな内容が含まれているなどの理由から、デジタル化が難しいものもある。
これらの書籍や資料を閲覧することで、インターネット上にない資料・情報の貴重さも知ってほしいと今さんは考えている。
ジェンダー規範の押し付けに苦しんだ
今さんは性自認が女性でも男性でもないXジェンダーで、幼い頃から性別だけではなくジェンダー規範の押し付けにも違和を感じてきた。
最初に性別違和を感じたのは、保育園で似顔絵を描いた5歳の時だ。
完成した似顔絵の縁を塗るため、2色あった絵の具のうちピンクではなく青を選ぶと、先生から「青だから男の子の絵かと思った」と言われた。
「好きだから青を選んだのに、なぜ性別と結びつけられるのだろう。世の中は私を女の子と決めつけ、女子ならこうすると言うけれど勝手に決めて欲しくない」と思ったという。
そのジェンダー規範は、成長するにつれ今さんをますます苦しめるようになった。
中高生になると周りから「恋愛するのは当たり前」と言われ「誰でもそうだと決めつけないで」と思った。しかしそういった“当たり前”を否定したり、他の女子と違う行動をとったりするうちに、いじめにもあった。
そんな今さんが中高時代に夢中になったのが心理学だったという。
「フロイトやユングの本を読むうちに、“真っ当な大人”というのは、男は男らしく、女は女らしく生き、異性を好きになり子どもを持つのが当たり前で、そのことに疑問を持たないらしいと考えるようになりました」
「『私も真っ当な人間になればいじめられずに済む、自分を治そう』と思って大学では心理学を専攻しました」
しかし、心理学を学んでも納得のいく答えは得られなかった、と振り返る。
「勉強しても勉強しても、周りが当たり前だと思ってることが自分にはそう思えなかったんです。なぜだろうと思い社会学の本を読むうちに、おかしいのは周りの期待の方ではないかと気づくようになり、大学院では社会学、中でもジェンダー研究に転向しました」
LGBTQ+の本だけではない理由
大学院で学んだジェンダー論は、今さんに大きな影響を与えた。
ライフカスタマイズラボにある資料は多くがLGBTQ+をテーマにしたものだが、フェミニズムやメンズリブ、障害者の権利獲得運動、哲学書など、性的マイノリティとは一見関係がないように感じられるものも置かれている。
しかし、今さんは「私にとって近代的なセクシュアリティやジェンダーのイシューは、LGBTQ+と切っても切り離せないもの」と話す。
「フーコーの『性の歴史』やジュディス・バトラーの『ジェンダー・トラブル』などを読むうちに、ジェンダーとは単純に男らしさ女らしさではないと気づき、『男らしさ、女らしさが社会的に作られているとはどういうことなのか』を自分なりに問い直すようになりました」
伊藤公雄さんの1996年の著書『男性学入門』からは、男性は賃金労働、女性にはケア労働が押し付けられている構造を男性の側から問い直そうとする運動があることを知った。
「フェミニズムを通して女性が抑圧されている側面に目を向けて来ましたが、ジェンダー論を学んだことで、女性には女性の、男性は男性の生きづらさを生む社会構造を理解するようになりました。例えば『結婚して子どもを持って一人前になれる』とゲイ男性が言われることのつらさや反発も同じ構造から起こっていると理解できるんです。大学院での研究を通して色々な人たちとのつながりや連帯を意識するようになりました」

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また、池田久美子さんの1999年の本『先生のレズビアン宣言 つながるためのカムアウト』には、在日韓国・朝鮮籍の人や障害のある人など、他のマイノリティとつながり、お互いの困りごとを解決することで、自分の困難も解決できると書かれていた。
今さんは「本を通して、自分の困りごとだけを解決すればいいわけではないという運動のあり方を知った」と語る。
今さん自身、性的マイノリティだけではなく、他の立場の生きづらさも経験してきた。
今さんは大学院で研究をしていた25歳の時にうつ病を発症し、その後アルコール依存症と診断されて、40歳まで工場のピッキングなど非正規の労働を転々としてきた。
路上警備員をしていた時には、通行人から嫌がらせをされるなど社会に根付く仕事に対する偏見も経験した。相談にいった生活保護の窓口で「もうちょっと自分でなんとかできるのではないか」と追い返されたこともある。
ライフカスタマイズラボには、その間に集めた資料も置かれている。

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「LGBTQ+の生きづらさは、女性や男性、在日外国籍、民族的マイノリティ、障害者の生きづらさともつながっています。ライフカスタマイズラボにはそういったテーマの本もあるので、色々な生きづらさや差別の構造を変えていくための土台になってほしいと思っています」と今さんは話す。
「ライフカスタマイズラボ」に込められた思い
非正規の仕事を続けていた今さんの転機となったのは40歳の時。
アルバイト先の企業で「労働時間分の賃金を払いたくない」と言われた。「こんな扱いをされたまま人生をすり減らしてはいけない」と感じて、就職活動をしてIT企業に嘱託社員として入社した。
しかし、この会社で上司から「LGBT当事者であることは社内で言わない方がいい」と忠告されたことで、自分をオープンにできない環境に疑問を感じ退職。その後ダイバーシティ関連のポジションで採用をしていた損害保険ジャパンに転職した。
損保ジャパンでは現在、DEI推進、特にLGBTQ+活躍支援に従事している。LGBTQ+当事者であることをオープンにして働いており、カミングアウトしていない性的マイノリティの社員からアドバイスを求められることもあるという。
正規雇用で働くのが難しく、生活が安定しない性的マイノリティ当事者の生きづらさを知っているからこそ、会社員としてオープンに働くこともできるということを伝えたいと思っている。
図書館の名前にも、その思いが込められている。
「ライフカスタマイズラボという名前には、自分の人生を自分で選ぶ力を身につける場所になってほしいという意味が込められています」
「親に言われたから、周りがそうしているからではなくて、自分が本当に生きたい人生はどんなものなのだろうと考える場所になってほしいなと思っています」

2 時間前
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