ロシアのウクライナ侵攻開始から4年。元新聞記者の近藤遼裕さんは2025年からウクライナを複数回訪ねて、戦争のある日常が当たり前と化した“戦時下の暮らし”を見つめてきた。今連載では、ロシア国境からわずか30kmに位置し、現在も攻撃が続くウクライナ第2の都市・ハルキウの現地ルポを3回にわたり届ける。
午前3時半、白く光る室内
午前3時半、地鳴りのような低くて重い音で飛び起きた。
スマートフォンを見ると、「Explosion reported」の文字が表示されている。とりあえず窓際に置いていた荷物を、部屋の入口付近まで移動させる。ウクライナ人の友達に教えてもらった通り、窓から荷物を遠ざけ、自分も離れた。
その時だった。
一回目よりもさらに大きな爆発音が鳴る。直後、窓の外が白く光った。真っ暗だった部屋の中が、一瞬だけ白く照らされる。
「さすがにまずいな」そう思ったーーー。
その日は、朝から雪が降っていた。風も強く、4月とは思えないほど寒い。警報の音で目を覚まし、布団から出た瞬間、思わず「寒っ」と声が漏れた。
スマートフォンで気温を確認すると3度。真冬のような寒さだった。
昼前に一度外へ出たが、雪と風が強すぎて、とても長時間歩けるような天気ではない。早々に引き返し、その日は宿で過ごすことにした。
ホストに、いざという時のシェルターの場所を確認する。宿から歩いて5分ほどの地下シェルターだった。
その後は、テレビをつけたままベッドに横になっていた。言葉は分からない。だが、どのチャンネルでも軍事関連のニュースが流れている。
戦車が砲撃する映像。武装した兵士たち。煙を上げる街。画面には、ドニプロやザポリージアと並んで、「Харків(ハルキウ)」の文字が何度も表示されていた。
自分が今いる場所は、そういう場所なのだと改めて思う。それでも、どこか現実感は薄かった。
自分が滞在しているのは中心部だ。テレビに映っているのは前線に近い場所。同じハルキウでも、別世界の出来事のように感じていた。
夕方、近くのガソリンスタンドに併設された小さなコンビニへ向かった。鶏肉とパンだけ買って帰るつもりだった。
その途中、昼間、ホストに教えてもらったシェルターを見つけた。地下へ続く階段。簡単な案内表示。
「ここか」
その時は、それくらいにしか思わなかった。
深夜の爆発音、動かない身体
その日の深夜、冒頭の爆発音に目を覚ました。突然大きな音が鳴り、眠っていた身体が反射的に跳ね上がる。
直後、もう一発。
二回目はさらに大きかった。窓の外が一瞬だけ白く光る。かなり近いのかもしれない。心臓の音が急に早くなる。
シェルターに行かなければ。昼間に確認した、歩いて5分ほどの場所にある地下シェルターに。反射的にそう思ったが、身体はすぐに動かなかった。
外は雨が降っている。気温は4度。真っ暗な中を階段で4階から降り、シェルターまで歩かなければならない。そう考えた瞬間、ためらいが生まれた。
命が危険にさらされるかもしれないのに、それでも深夜に突然起こされ、判断を迫られる状況の中では、身体も心もすぐには反応できなくなる。
その時、少し分かった気がした。なぜ警報が鳴っても避難しない人がいるのか。みんな危険を軽視しているわけではない。
何度も警報が鳴り、そのたびに眠りを中断され、避難するかどうかを迷い続ける。そんな積み重ねが、人の行動を少しずつ鈍らせていくのかもしれない。
部屋を出て廊下へ出ると、宿泊客か住人かはわからないが、7~8人が自分と同じように外へ出ていた。みんな、何となく落ち着かない様子で立っている。
だが、誰もシェルターへ向かおうとはしない。
自分もそれにならい、部屋のドアに背中を預けて座り込んだ。廊下は静かだった。誰かが小声で話している声だけが聞こえる。15分ほど経つと、一人、また一人と部屋へ戻っていく。避難解除は、まだ出ていなかった
頃合いを見て、自分も部屋へ戻る。結局、その夜、シェルターへ向かった人は一人もいなかった。その後もしばらく眠れなかった。
午前3時半に最初の爆発音で目を覚まし、その後も断続的に音が鳴り続けた。結局ベッドへ戻ったのは、空が少し明るくなり始めた午前5時半過ぎだった。
当然、すぐには寝付けない。ベッドに横になりながら、何度もスマートフォンを確認していた。
それでも、その時の自分にはまだどこか「中心部だから大丈夫だろう」という感覚が残っていた。爆発音は確かに怖かった。だが、テレビで見るような“本当の戦場”とはまだ別の場所にいる——そんな意識があった。
崩れ落ちる「安全圏」
12時前に目が覚め、外を見ると、昨日の雪は止んでいた。空も少し明るい。昨日の物騒な空気が嘘のように、おだやかな昼間だった。
ベッドの上でYouTubeを開く。
やはり昨晩、ハルキウ、ドニプロ、ザポリージアの3都市がロシア軍の一斉攻撃を受けていた。特に被害が大きかったのは、ハルキウ以外の2都市だったらしい。少し安心した自分がいた。
とりあえず外へ出る。中心部とは反対方向、宿から東側へ向かって歩いてみることにした。歩いて10分もしないうちに、空爆で破壊された建物が目に入った。
昨日の攻撃によるものではない。それでも、何が起きた建物なのかは一目で分かった。向かいの通りにも、窓ガラスが割れた建物がある。さらに進むと、今度は上層階が大きく崩れ落ちた建物が現れた。

Ryosuke Kondo
その瞬間、頭の中で何かが切り替わった。
「中心部だから大丈夫」
どこかで、ずっとそう思っていた。昨晩の爆発音も、「近かったな」で終わらせようとしていた。でも、違った。

Ryosuke Kondo
昨日、自分が聞いた爆発音もほんの少し場所が違えば、こうなっていたのかもしれない。急に身体の奥から恐怖が湧き上がってくる。
昨晩、シェルターに行くのを「寒いな」「面倒だな」とためらった自分を思い出した。自分の認識の甘さを思い知らされた。そんなことを考えていられる場所ではなかったのだ。
壊れた建物の窓が、妙に静かにこちらを見返しているように感じた。
(この記事はnoteに投稿されたルポを編集・転載しています)

2 時間前
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