アメリカのトランプ政権は10月9日、国際刑事裁判所(ICC)を制裁の対象に指定した。
これまで、赤根智子所長ら個人を制裁の対象にしてきたが、組織そのものへと拡大。今後、ICCは、アメリカに拠点を置く企業との取引ができなくなるなど、運営が大幅に制限されるおそれがある。
同日、2003年〜08年までICC判事を務めた元国連人権高等弁務官ナバネセム・ピレイ氏がノーベル平和賞を受賞しており、その直後にICCへの制裁が表明された。
これを受け、赤根所長は動画で声明を発表。「いかなる脅しにも屈しない」「制裁を断固として拒否する」とし、締結国に支援を求めた。
全文は以下の通り。
ICC赤根智子所長の声明全文
本日、アメリカは歴史上前例のない措置として、国際刑事裁判所(ICC)という機関そのものに制裁を科しました。これは、正義の実現に尽力する13人の裁判官や検察官への一連の制裁指定に続くものです。
裁判所は、これらの制裁を断固として拒否します。
私はICC裁判官の1人として、裁判所が政治的な動機に基づいて動くことはないと断言します。私たちは独立した公平な司法機関で、法と証拠のみに基づいて行動しています。司法機関がその権能を全うすることを妨げようとする行為は、決して容認できません。
それは、裁判所を設立した主権国家への攻撃であり、さらに広く言えば、国際法秩序への攻撃です。何年も、時には何十年も、大規模な残虐行為の責任者に対する裁きを待ち続けている、被害者への攻撃でもあります。
裁判所に対するいかなる措置も、こうした被害者たちに影響を及ぼします。
裁判所は、各国の司法制度に取って代わるものではありません。ICCは最後の手段としての裁判所であり、国家が真摯に捜査や訴追を行う意思や能力のない場合にのみ行動できます。その裁判所の管轄権は、世界のあらゆる法制度に共通する原則に基づいています。
すなわち、国家は、自国の領域内で罪を犯した者や、自国籍の者が犯した罪について、裁きにかけることができるという原則です。ローマ規程への加入により、締約国は、こうした権限を、裁判所を通じて共同で行使することを選択したのです。
はっきりと申し上げます。ICCは、いかなる外部からの脅しにも屈しません。そうした脅しによって利益を得るのは、国際社会が懸念する最も重大な罪を犯した者だけです。被害者のために、独立性と公平性をもってその権限を遂行するという裁判所の揺るぎない決意を、改めて表明します。
今回の制裁は、裁判所の業務を妨害し、裁判所で働く人や協力する人々を威嚇することを目的としたものです。裁判所として、決してひるむことはありません。公式声明でも、制裁指定は裁判所の運営を妨げ、職員や協力者を威嚇することを狙ったものだとし、裁判所はひるまないと表明しています。
しかし、裁判所は単独で立ち向かうことはできません。その行方は、裁判所を設立した各国にも委ねられています。ローマ規程は、国際社会全体が懸念する重大な犯罪は、決して処罰を免れてはいけないという共通の約束です。その重みは、それを誓った人々の決意の強さに他なりません。
困難はあるかもしれません。けれど、裁判所は締約国とともに、その活動の継続性と強靭性のために、多大な努力を重ねてきました。各国に対し、活動を続けるために必要な手段を確保することを含め、具体的な行動をとり続けるよう求めます。
これは、ひとつの機関を守るというだけではありません。法の支配に基づく国際秩序そのものを守るということです。
私たちは今、力が正義を決める世界か、それとも、法の支配のもとで被害者が司法を求められる世界か、選択を迫られています。こうした攻撃を前にして、私たちは無関心でいるわけにはいきません。
締結国をはじめ私たち全員に、力ではなく、法のために立ち上がり、国際秩序を守るために行動するという法的、道徳的な義務があります。
今日どういった選択をとるのか、私たちは歴史の審判を受けることになるでしょう。ICCは「正義は必ず実現される」という強い決意のもと、いかなる脅しに屈することなく、活動を継続していきます。
ありがとうございました。
「遺憾に思い、強く反対」日本も英仏らと共同声明を発表
日本の外務省は10日、カナダ、デンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国の7国とともに、外相による共同声明を出したことを発表。制裁について「遺憾に思い、強く反対」するとし、制裁は「裁判所の業務、スタッフやその家族に重大な影響を及ぼす」と指摘した。
ICCへの支持において一致団結し続けるとし、「引き続き協力し合い、裁判所の重要な活動を支援し、ルールに基づく国際秩序を守り、責任追及を推進していく」と表明している。
ICCは2002年にオランダに設置された。国と国の紛争を扱う国際司法裁判所(ICJ)とは異なり、重大な罪を犯した個人を処罰する。対象は、戦争犯罪やジェノサイド(集団殺害)、人道に対する罪、侵略犯罪だ。ICCには日本を含む125の国・地域が加盟しているが、アメリカや中国、ロシア、イスラエルは加盟していない。日本は国際社会での「法の支配」を重視する立場から、最大の分担金を拠出してきた。
赤根氏は、1980年に東京大学法学部を卒業し、82年に検事に任官。その後は、横浜、津、名古屋、仙台、札幌地検検事、東京高検検事、函館地検検事正、最高検察庁検事、法務省法務総合研究所所長などを歴任した。2013年〜2014年には、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)所長を務め、2018年に国際刑事裁判所(ICC)判事に、24年3月に所長に就任した。

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