
大学図書館でノートパソコンと本を手に研究に励む女性教授。写真提供:Andrey_Popov(Shutterstock経由)
By Sean Salai – The Washington Times – Thursday, July 16, 2026
人工知能プログラム(AI)に倫理を教え込むため、哲学者の需要が急増しているとの報道が最近出ているが、人材市場の専門家は実態以上に誇張されていると指摘している。
米カーネギーメロン大学でビジネス倫理を教えるデレク・レーベン准教授は「これは実際に起きている流れではあるが、同時に過熱報道でもある」と話す。
同氏によると、哲学に関連する職種はAI関連求人全体の約5%にすぎない一方、哲学分野の求人の約26%がAI関連となっている。
レーベン氏は「とはいえ、その多くはテック企業ではなく大学での仕事だ」と説明する。
他のアナリストらも、実際に採用されているのはごく少数の哲学研究者や、哲学的素養を持つ金融・法律の専門家に限られるとしている。
ニューヨークの求人検索会社メタイントロの最高経営責任者レイシー・カエラニ氏は、「私たちのデータでは、人間がAIの思考を監督する仕事への需要は、ほぼゼロから一つの職種として成立するまでに拡大した。ただし、その中心は金融と法律分野だ」と話す。
同氏は「哲学を学んだ人材は、体系的な倫理的思考を求められる仕事であるため、この需要を容易に満たすことができる。しかし、求められているのは哲学の学位そのものではない」と語った。
米ニューヨーク・タイムズ紙は今月、アンソロピックやグーグル・ディープマインドなどのAI企業が、人工知能ユーザーやチャットボットが倫理的なジレンマについて議論できるよう、伝統的な道徳体系をAIの「憲法上の規則」に落とし込むため、プロの哲学者に年25万~40万ドル(約4000万~6400万円)を支払っていると報じた。
労働統計局のデータによると、これは哲学や宗教の学位を持つ全米の労働者54万3810人の平均年収6万5000ドル(約1040万円)を大幅に上回る額である。
同様の記事はビジネス・インサイダーやタイムズ・オブ・インディア、科学誌ニュー・サイエンティストなどでも掲載されている。
しかし学界では、こうした報道が、毎年米国で哲学の学士号を取得する約7000~8000人に大規模な雇用ブームが起こるとの誤解を与えかねないと警告している。
メリーランド大学哲学科長のファブリツィオ・カリアーニ教授は「一部のAI企業が高度な哲学的専門知識を求めていること自体は注目すべきだ。しかし、哲学専攻の新卒向けに大規模な採用ルートを設けたという証拠はほとんどない」と話す。
同大学では今秋、「人間中心のAI」を専攻する学士課程を新設する予定だ。
カリアーニ氏は、哲学専攻の卒業生向けAI関連の求人の正確な件数は把握されていないとした上で、「実際に採用されているのは博士号を持ち、豊富な研究実績を持つ一握りの哲学者に限られている」と説明する。
アナリストによると、AI企業で特に需要があるのは、倫理学、論理学、言語学、精神科学、認識論、意思決定理論、政治哲学を専門とする哲学者だという。
人材市場の専門家は、AI企業が採用しているのは新卒ではなく、倫理学者や弁護士、金融の専門家であることを確認している。
アトランタに拠点を置くAI人材分析会社キャリア・ノマドのCEOパトリス・ウィリアムズ=リンド氏は「哲学専攻という肩書だけで高待遇を得られる期間は長くない。価値があるのは論理的思考力であり、それこそが市場がまだ自動化できない役割の価値として評価されている」と話す。
最近のニュースの見出しからは、AIに適切な応答を教えるための進歩が十分ではないことが示唆されている。
昨年、連邦取引委員会(FTC)は、AIコンパニオンが子供やティーンエイジャーに及ぼす悪影響、そしてそれらと強い感情的な「関係」を築くことによる悪影響について、市場調査を開始した。
また今年3月に医学誌「JAMA Psychiatry」へ掲載された研究では、ChatGPTの全バージョンが妄想や幻覚、被害妄想を評価する質問に対し、不適切な回答を示す割合が高かったことが判明した。

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