脳のすぐ外側に、誰も見ていなかった空白があった
脳のすぐ外側に、誰も見ていなかった空白があった / マウスの頭蓋骨の骨髄にリンパ節に似た構造(シアン色)を発見した。この構造は、脳内で迅速な免疫反応を引き起こす上で重要な役割を果たしている。/Credit:Jang Hyun Park . Newly found ‘immune organ’ inside skull directs brain defense学校で習った人体の図には、心臓も肝臓も腎臓も、名前つきで並んでいました。
あの図に描き足すものがまだ残っているとは、ふつう思いません。
そのなかで頭蓋骨は長らく、脳を収める硬いケースとしてしか扱われてきませんでした。
しかしキプニス氏の研究室は以前、頭蓋骨と硬膜(脳を覆う最も外側の膜)を貫く細い通路を突き止め、免疫細胞や老廃物が脳と骨のあいだを行き来できることを示していました。
通路があるのなら「何か」が起きているはずです。
そこで今回研究者たちは、マウスの頭蓋骨を透明化し、骨の内部を丸ごと覗き込みました。
骨が光を通さず白く見えるのは、脂肪やカルシウムなど性質の違う成分の境目で、光がいちいち跳ね返ってしまうからです。
そこで薬品でカルシウムや脂を抜き、残った成分の光の通し方をそろえてやると、光は跳ね返る先を失い、まっすぐ突き抜けるようになります。
すると、後頭部にあたる骨の中身、つまり骨髄に、免疫細胞がびっしりと寄り集まった一角が見つかりました。
集まっていたのは、敵を狙い撃つ武器(抗体)をつくるB細胞、その働きを後押しするT細胞、そして倒すべき相手の特徴を見せる細胞(抗原提示細胞)でした。
本来、この三者が顔をそろえる場所といえば、リンパ節のような免疫の拠点と相場が決まっています。
そこでは、まだ敵を知らない免疫細胞に「この敵を倒せ」という教練がほどこされ、戦える兵が育てられているからです。
その一式が、兵を送り出すだけの工場と思われていた後頭部の骨の中に、そっくり収まっていたことになります。
しかも胸骨や太ももの骨を同じように調べてみると、教練所の骨組みにあたる細胞は、頭蓋骨の骨髄でしか見つかりませんでした。
「これまで健康な骨髄でこのような構造を見たことはありませんでした」と、筆頭著者のパク・ジャンヒョン氏は述べています。
というのも骨髄は、兵を生み出す工場ではあっても、教練所を置く場所とは考えられてこなかったからです。
教練をほどこすには、倒すべき相手の情報がなければ話になりません。
身体中にあるリンパ節では、その情報が向こうから流れ込んできます。
すり傷をつくったとき、血が止まったあとににじんでくる透明な汁があります。
あれは血管からしみ出した液で、全身の細胞はいつもこの液に浸って暮らしています。
細胞が壊れればそのかけらは液の中に落ち、病原体が忍び込めばその破片も液に混じります。
この液は全身のすみずみから細い管に吸い上げられ、そしてその流路の要所に検問所として置かれているのが、リンパ節です。
運ばれてきた液は必ずここを通され、中身に不審なものが混じっていないかが改められます。
風邪をひいたときに首のあたりでぐりぐりと腫れる、あの粒がまさに稼働中の検問所にあたります。
同じものが脇の下にも脚の付け根にも、全身に数百個。
異変が向こうからやって来るのを待つ器官である以上、液の通り道に沿って配っておくほかありませんでした。
ところが骨髄は、その通り道から外れた場所にあります。
硬い骨に囲まれ、体の異変を集めて運ぶあの流れだけは届いていません。
では、その閉ざされた後頭部の骨の中へ、異変はどうやって届くのでしょうか。






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