韓国で大ヒット「サヨナラの引力」のク・ギョファン×監督が語る、「良い別れ」を描く恋愛映画が求められる理由【インタビュー】

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韓国で「記憶を揺さぶられるロマンス映画」「自分を重ねずにはいられなかった」と口コミで人気が広がり、恋愛映画としては7年ぶりに観客動員数200万人を突破した映画がある。日本で7月3日から公開されている「サヨナラの引力」だ。

主演は、Netflixのドラマ「誰だって無価値な自分と闘っている」も話題のク・ギョファンさんと、「女神降臨」のムン・ガヨンさん。同じ大学に通う友人から恋人となり、それぞれの夢を追う中で別れることを選んだ2人の関係性や心情の変化を、細やかに表現した。

社会全体の不安定さや経済的な低迷などにより、恋愛映画の興行が厳しくなったと言われる今。本作では、学生から大人になるまでの恋愛を、単なるロマンスではなく、就職やお金など現実的な問題にも寄り添う形で描いた。

本作はなぜ大きな共感を呼んだのか。6月に来日した主演のク・ギョファンさんと監督のキム・ドヨンさんに、インタビューで詳しく聞いた。

観客が「共同の主演になれる」ストーリー

「サヨナラの引力」は、2018年に公開された中国の恋愛映画「僕らの先にある道」のリメイクで、舞台を北京からソウルへと移した。同じ大学に通う、ゲーム作家を目指すウノ(ク・ギョファンさん)と建築家を目指すジョンウォン(ムン・ガヨンさん)が、気の合う友達から、互いの夢を応援し合う恋人となり、別れ、別々の人生を歩んで10年が経った時に偶然再会する。

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主演のク・ギョファンさんは、元々はインディペンデント映画の監督でもあり、高い演技力と唯一無二の存在感で、韓国で今もっとも引く手あまたの俳優の1人だ。映画「脱走」や「群体(原題)」、Netflixで配信中のドラマ「誰だって無価値な自分と闘っている」や「D.P. 脱走兵追跡官」など話題作への出演が続いている。

そんな多彩なキャリアを歩んできたク・ギョファンさんにとって、本作が初めての恋愛映画主演となる。

ク・ギョファン「本作が広く愛されたのは、主人公であるウノとジョンウォンの2人だけではなく、観ているみなさんが共同の主演になれる、自分の人生のストーリーを重ねることのできる映画だからだと思います。だからこそ、みなさんと一緒に作り上げた作品だという感覚が、いっそう強くあります

メガホンをとったキム・ドヨン監督は、ク・ギョファンさんとは逆のキャリアで、長く演劇俳優として活躍したあと、40代半ばで映画学校に⼊学。社会現象になった小説「82年生まれ、キム・ジヨン」の映画化で長編監督デビューを飾った。ク・ギョファンさんが本作への出演を決めたのも「立派な演出家であると同時に、俳優としても尊敬するキム・ドヨン監督から、演技のディレクションを受けてみたい」という気持ちが大きかったという。

Ayako Masunaga

現在43歳で、「サヨナラの引力」で演じたウノとは同世代。ジョンウォンを大切に思うと同時にゲーム作家になるためにもがくウノに、ク・ギョファンさん自身も共感する思いがあった。

ク・ギョファン「僕もウノと同じように、夢と目の前の現実との間で悩み、焦りや不安、自分の未熟さを感じながら20代を過ごしました。夢や愛は、普遍的で、避けては通れない当然の悩みですし、20代に限らず、今もそうかもしれません。

そうした僕自身のリアルな感覚を呼び起こすために外見的な描写にもこだわり、撮影では自分が若い頃から捨てずに持っていたヴィンテージの服を着たりもしました

2010年前後のカルチャーを取り入れた理由

劇中、ウノとジョンウォンがともに過ごすのは2010年前後の時代。イム・ヒョンジョンさんのラブソング「愛は春の雨のように、別れは冬の雨のように」や、今はなき韓国の元祖SNS「サイワールド(Cyworld)」など、映画の随所に当時のカルチャーが散りばめられている。

キム・ドヨン「『愛は春の雨のように、別れは冬の雨のように』を取り入れてはどうかと提案してくれたのは、音楽監督さんでした。私は元々『僕らの先にある道』がとても好きなのですが、韓国でリメイクするにあたり当時のカルチャーがあることで、自然とその時代に戻ることができます

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それらのカルチャーは、当時を知る人たちのノスタルジーを呼び覚ますだけではなく、若者たちにも新鮮に届いた。『愛は春の雨のように、別れは冬の雨のように』は音楽チャートを23年ぶりに逆走して上位にランクイン。また、ク・ギョファンさんとムン・ガヨンさんの自然体な仲の良さや、舞台挨拶時のさりげないカップルコーデが注目され、劇中だけでなく現実でも「ムン・クー」カップルと呼ばれて愛された。 

ク・ギョファン「映画や音楽が本当に偉大だと思うのは、時間が経った後にまたそれらに触れると、当時の思い出が蘇ってくるところです。自分自身を当時に連れて行ってくれるタイムマシンのようなもので、『サヨナラの引力』もそうした映画として愛されていたら嬉しいです

恋愛に影を落とす、社会の問題

「サヨナラの引力」が共感を呼び起こしたのは、2人の恋愛の背景にあった当時の社会状況や、それに伴う生活や心境の変化がリアルに描かれている点にもある。

2008年の夏、ウノとジョンウォンが出会う高速バスターミナルのテレビでは、アメリカのリーマン・ブラザーズの経営悪化を伝えるニュースが流れており、その数カ月後、世界的な金融危機が襲う。

地方出身の2人がソウルで暮らしていくのは容易くはなかった。ウノは2浪の末入学、ジョンウォンは児童擁護施設で育ち、奨学金をもらうため、希望の建築学科ではなく福祉学科に通っている。

経済的な暗いニュースは、2人の生活にも徐々に影を落とす。高い住居費、熾烈な就職競争、地方に住むウノの父親の病、将来への焦り──学生として出会った2人が大人になる過程で、2人の恋愛感情だけではどうにもならない「社会」に衝突する。 

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特に重要なモチーフになるのは2人が暮らす「家」の変遷だ。付き合う前から友達として一緒に暮らし始めたウノとジョンウォンにとって、家は、2人の居場所であり夢であり、裕福な生活を送る友人と比べた時には、格差の象徴にもなり得る。 

キム・ドヨン「この映画には、主に3つの空間が出てきますよね。上京したばかりのジョンウォンが暮らすコシウォン(考試院)は、もともとは受験生などが仮住まいする場所で、保証⾦なしで暮らせる代わりに、狭くて壁が薄く、窓がない場合もあります。その後、ジョンウォンが引っ越して2人で暮らし始めるウノの部屋は、光が差し込むワンルームですが、2人は保証金が払えなくなり、半地下の部屋に移ります。これらの空間は、2人の経済的な貧しさだけではなく、感情的な状態も表しています

「映画が感情を手放すための助けになる」

互いを支えようとしたウノとジョンウォンだが、うまくいかない苛立ちや、経済的な不安定さなど現実の壁の前で心はすり減っていく。痛ましい別れを迎えたあとも、働きながら、ウノはゲームを作り続け、ジョンウォンは建築家になるための勉強を続け、自分の人生を選び取ろうとする。それから10年という時を経た2024年夏、飛行機の中で偶然再会した2人。ウノはジョンウォンに「もしもあの時…」と問い、過去の選択に向き合う。

Ayako Masunaga

近年、坂元裕二さん脚本の「花束みたいな恋をした」や、アカデミー賞にもノミネートされた、韓国系カナダ人のセリーヌ・ソン監督の「パスト ライブス/再会」など、かつて実った恋が失われていく過程や、その終わりを描いたラブストーリーが口コミでヒットすることが続いている。

ク・ギョファンさんは、ウノとジョンウォンが迎える結末は「ハッピーエンド」だと思うと話す。インタビューの最後に、2人が考える「良い別れ」とはどういうものかと尋ねると、ユーモアを交えて教えてくれた。

ク・ギョファン「長い時間が経って再会しても──たとえば日本の渋谷のスクランブル交差点で20年後に会っても、懐かしんで笑いながらすれ違うことができる間柄のことだと思います。結末がどうであれば、お互いの人生にあって良かったのだと肯定できるということですね

キム・ドヨン「別れるというのは、身体的に離れ離れになること以上に、感情的に手放すことだと思います。だから、胸の中に溜め込むのではなく、全ての感情を洗い流さなければいけない。別れた当時はあまりに悲痛でも、ウノとジョンウォンのように10年の時が経ったことで、良い別れになることもあります

ク・ギョファン「そういった偶然や奇跡を作り出したり、感情を手放すための助けになったりするのが、映画というメディアが持っている力ですよね。…だから、みなさん。昔の恋人に電話をかけてみてくださいという映画ではないですよ(笑)。わざわざ昔の恋人と再会する必要はなくて、映画を観て、そういう感覚を覚えてもらえれば十分ですからね!

Ayako Masunaga

(取材・文=若田悠希/撮影=増永彩子) 

◾️作品情報

『サヨナラの引⼒』

7月3日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

監督:キム・ドヨン

脚本:ヨム・ムンギョン、キム・ハナ

出演:ク・ギョファン、ムン・ガヨン

提供:KDDI

配給:日活/KDDI

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