2016年の熊本地震をきっかけに開発された、「電気を必要としない」日本発の簡易型保育器が、アフリカの母子保健の現場で役立てられている。
電気がない場所で、保育器を必要とする新生児の命を守るのは、「沸騰させた水」ボトル3本分だ。
「湯たんぽ」のように、赤ちゃんを温めることが出来るという。
都内で8月末に開かれた「国際保健」についてのイベントで、この保育器が導入されているアフリカの医療現場を取材した記者が登壇。開発担当者も構想の背景を語った。

Sumireko Tomita/ HuffPost Japan
被災地や、停電が頻発する発展途上国で赤ちゃんの命を守る「簡易型保育器」
朝日新聞のニュースサイト「with Planet」が開いたトークイベントで紹介されたのは、電気を必要としない簡易型保育器「MedThermo Box(メドサーモボックス)」だ。
重さはわずか2キロ。持ち運び可能のため、停電が頻発する発展途上国や災害時の医療現場で、赤ちゃんの命を守ることができる。
この日、イベントには、開発者である鹿児島市立病院新生児内科の平川英司医師が駆けつけ、開発のきっかけなどについて語った。
平川さんは「沸騰した水は、汚い水であっても世界中どこでも手に入りますし、火を使えば電気を使わずに温められます」と説明。
沸騰した水を保育器内のボトル3本に入れると、約20分で器内は37度に温まる。6時間ほど温め続けられるため、この簡易型保育器の利用により「村からの長距離搬送などもできる」という。

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平川さんは、開発のきっかけとなった、2016年の熊本地震での災害医療現場の経験も語った。地震発生後の混乱の中、平川さんは鹿児島県ドクターヘリでの新生児搬送を担当。公園の木の下で抱かれて避難を待っていた早産児を空路搬送したという。
停電する中、体重わずか1キログラムの新生児を、看護師が抱っこして体温を守っていた。
電気がなければ保育器も使えない。震災時の経験が「電気がいらない保育器」の構想の発端になった。
その後、シエラレオネやラオスのNICU(新生児集中治療室)を訪問し、簡易保育器の必要性を実感したという。
「医療資源が限られた環境でも使えるという視点で、電気を使わない保育器を開発しました」(平川さん)

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朝日新聞「withPlanet」編集部の今村優莉記者は、シエラレオネ南部・ボーで、メドサーモボックスが導入されている政府病院を取材。
電気や下水道も整備されていない医療現場も多くある中で、「現地の事情に合わせ、必要とされる医療に形を変えながら、皆に届くように」支援が行われていたと語った。
電気が安定供給されておらず、通常の保育器は使えなかったり、故障時に修理する人や部品がなかったりすることで「小さな命が救えない現実」を目の当たりにしたと話した。
その中で、メドサーモボックスが日本から遠く離れたアフリカの地で、確実に小さな命を守り、母子保健に役立っている様子を報じた。
世界で広がる「母子手帳」
もう一つ、アフリカの国々をはじめとする海外諸国に広がりつつある日本初の支援ツールが、「母子手帳(母子健康手帳)」だ。
日本では、妊産婦手帳と乳幼児体力手帳が統合されて1948年に活用され始めた母子手帳。妊娠期の記録から予防接種の情報までが1冊にまとまっている、大切なツールだ。
JICA(国際協力機構)は長年にわたり、発展途上国への母子手帳の導入・普及を支援してきた。
その結果、JICAの支援で36カ国に広まり、現在では約50カ国・地域で使われているという。
アフリカ諸国でも広く活用されており、今村さんはシエラレオネでの導入の様子も取材した。
長期化した内戦の影響で十分な教育を受けられなかった人たちも多く、識字率が高くないという現状があるため、シエラレオネの母子手帳はイラストを多用し、一目見るだけでわかりやすいデザインになっている。
妊娠生活での注意点や、妊婦に何か問題が発生した時の対応などが、どんな人にもわかりやすいように、イラスト入りで説明されている。

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トークイベントには、国際保健研究者で、母子手帳が与える影響などについての研究をしてきた東大大学院の柴沼晃さんが登壇。母子手帳は「たった1冊の本ですが、保健システム全体を変える力になっている」と話した。
「母子手帳があれば一貫していつ何のケアを受けるべきかわかるし、記録もきちんとつけられる。必ずしも電子化した立派な仕組みができてなくても、記録によって簡単な形でケアをつないでいけます」
さらに、妊婦健診の回数などについて記載がある母子手帳は、「このようなサービスが受けられるという、国からの約束でもある」と説明した。

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母子保健めぐる「格差」、世界で今も
今村さんはイベント冒頭の挨拶で、withPlanetのパンフレットを掲げ、表紙になっている赤ちゃんの写真を紹介した。

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シエラレオネの保健施設で撮影したという生後5カ月の女の子で、10代だった母親は出産後に大量出血で死亡したという。
シエラレオネの妊産婦死亡率は日本の100倍を超え、雨が降れば病院まで数時間かかったり、妊婦健診は無料でも、病院まで行く交通費がなかったりする女性たちもいる。
今村さんは「私たちが当たり前のように使っている道、電気、水がないことが、お母さん、時には赤ちゃんの命を失う理由になっている現実があった」とし、こう話した。
「この女の子の写真を撮りながら、お母さんの命と、生まれてきた子どもが健康に暮らしていくことがどれほど大事かを感じ、それを守り支えていくことが母子保健の本当の意味だと実感しました」
今、世界ではトランプ政権下での米国際開発局(USAID)の解体などにより、発展途上国の支援現場では援助が縮小・停止し混乱が広がっている。
日本では、発展途上国への国際協力を疑問視し、批判する声が強まっている。しかし、世界で母子保健をめぐる格差が広がる今、命を守る国際協力の重要性が再認識され、いかに国民の理解と支持を得た持続可能な国際協力を構築していくかが問われている。
(取材・文=冨田すみれ子)

1 ヶ月前
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