これまで、誰も越えられなかった壁
生き物を一から作る——これは合成生物学者たちが、数十年ものあいだ夢見てきた目標でした。
そのやり方は、大きく二つの道に分かれていました。
一つは「削る」道です。
もともと生きている細菌から、要らない遺伝子をどんどん取り除いていき、「生きるのに、これだけは絶対に必要」という部品だけを残していく方法です。
2016年には、ある細菌の設計図を473個の遺伝子まで削り込んだ研究が話題になりました。ぎりぎりまで削り込めば、生命を保つのに最低限必要なものだけが残るはずだ——そういう引き算のアプローチです。
でも、この道には、もどかしい弱点があります。
出発点が「すでに生きている細胞」なので、なぜそれが生きているのか、その仕組みが完全にはわからないままなのです。
実際、極限まで削って残した遺伝子の3分の1近くは、いまだに「何をしているのか不明」でした。
そこで一部の研究者は、まったく逆のアプローチに挑みます。
生きている細菌を出発点にするのではなく、生命のない部品を生物学的な技術を駆使してゼロから組み上げて「細胞のようなもの」を作ろう、というボトムアップの発想です。
設計図がないのではなく、自分たちで設計図を書きながら組み立てるのです。
DNA、細胞膜、タンパク質、RNAなど、生命を構成するために必要な要素を人間側が事前に部品ごとにストックしておき、最後に細胞膜を模した袋の中に詰め込んでしまう方法です。
ところが、この方法には長いあいだ立ちはだかる壁がありました。
「タンパク質を作る」「DNAをコピーする」といった個々の部品を袋に入れて生命っぽいことをさせるのは、比較的簡単でした。
でも、多種多様な部品をまとめて袋に詰めて「食べ・成長し・DNAを複製し・細胞分裂して・増殖し・環境からの選択を受ける」という、高度な生命の真似事をさせるのは困難でした。
ある機能に最適な条件と、別の機能に最適な条件が、食い違ってしまうからです。
ソロ演奏が得意な音楽家を集めただけでは、生命というオーケストラを点火させられないのと似ていたのです。
部品は揃っていたのに、それらが協力して「細胞らしいふるまい」を生み出すことは、なかなか実現しませんでした。
ただし、ボトムアップには一つの強みがあります。
入れた部品がすべてわかっているぶん、何が何とぶつかり合っているかも見えやすくなります。
そして原因が見えるなら、条件を一つずつ擦り合わせていくことができるはずです。
今回のチームは、試行錯誤を重ね、その強みを武器に壁へ挑みました。







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