
『大正天皇』(コトニ社)著者:草森 紳一,平山 周吉
芸術、政治…才に富んだ君主
大正天皇は時の政治家の操り人形だったのか。いや、天衣無縫にして自然の極致。文人、書家であり、馬を愛した人であった。奇行や病弱のレッテルを貼られてきた天皇像をくつがえす本書は、草森紳一の原稿に呼応して、かつて、草森の担当編集者だった平山周吉が新たに論を立てる刺激的な共著となった。
草森は、博覧強記で知られる中国文学の学徒。サブカルチャーに本質的な価値を見いだした。ここでは天皇御製の漢詩や書を足がかりとする。「不幸にも芸術家的体質が備わっていた」とする。天才的な才質があるからこそ、君主らしく生きる辛(つら)さがもたらされたと読める。さらに、天皇を「操り人形」にともくろむ宰相伊藤博文の魂胆を、明晰(めいせき)な天皇が見抜く構図を打ち出す。また、草森は、人を笑わせる才に富んだ天皇を深く愛し、共感している。
第2章では、まず、茶人でかつ多趣味の高橋箒庵(そうあん)を紹介する。高橋は三井財閥の幹部を早々に退いて風雅の道へと進んだ。けれど、天皇の退位は容易には許されない。摂政を立てられるだけだ。高橋と天皇の立場の対比に打たれた。
やがて厖大(ぼうだい)な分量の「原敬日記」の精読に行きつく。無趣味な原と、天皇の交情。明治美術会の展覧会を背景に、天皇、高橋、原、三者の生き方が交錯するが、この章は未完である。
昭和史、映画史を深く読み解く名手、平山による第3章。意外にも、思想家保田與重郎(よじゅうろう)を呼び出す。天皇の和歌について「畏れながら、かなしい。しかも藝術的に見れば、繊細絶妙絶佳の名品である」。君を仰ぎ見る保田の評であった。
第4章、天皇は大胆に政治に介入する。「軍部大臣現役武官制」から、現役軍人であることを削った官制の改正に、天皇が政治的意思を強く働かせた。天皇の内心を描いてスリリングである。
徹底した文献調査。日記の行間に、想像力を働かせる方法論。さらに横滑りを怖(おそ)れず、周辺の人物を召喚していく手際。雑文家としての誇りが、本書を貫いていた。
【初出メディア】
東京新聞 :2026年4月4日/中日新聞:2026年4月5日
http://www.tokyo-np.co.jp/

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