(CNN) 米国による商業用原油タンカーへの攻撃でインド人船員3人が死亡したことを受け、インド国内で怒りの声が広がっている。それでなくても緊張状態にあったインドと米国との関係に、新たな摩擦が加わった形だ。
10日午前、タンカー「M/Tセッテベッロ」はイラン産原油を積載してオマーン湾を航行中だった。そこへ米軍機が同船の機関室に精密誘導兵器を撃ち込み、火災が発生。煙が空高く立ち上り、大規模な救助活動が展開される事態となった。
オマーン湾を航行中のパラオ船籍のタンカー「M/Tセッテベッロ」を米中央軍が無力化する様子(U.S. Central Command )
パラオ船籍の同船への攻撃では、その後3人の死亡が確認された。イランの港湾を封鎖する作戦の一環として行われた米国の攻撃で死者が出たのは初めて。これによりインドでは、自分たちと無関係の戦争で自国民が巻き添えになっているのではないかとの懸念が高まっている。
米軍はこの攻撃について、封鎖を実施していた米軍部隊の指示に乗組員が再三従わなかったために行ったとしている。
米国・イスラエルとイランとの戦争の中で自国の船員の安全に対する懸念を強めているインド政府は、現在米政府に向けて、船舶への攻撃を停止するよう求めている。「起きている攻撃は止めなければならない」と、インド外務省の報道官は11日、記者団に語った。これより前、インド政府は米国の臨時代理大使を召喚していた。
今回はタイミングが特に微妙だ。これから数日のうちに、インドのモディ首相はトランプ米大統領と会談する見通しだからだ。来週フランスで開催される主要7カ国(G7)首脳会議がその機会となる。
モディ氏に対しては、一部の労働組合がこの攻撃を非難するよう圧力をかけている。
「外国の軍隊が公海上でインド人労働者を殺害した場合、インド政府は声高に、そして断固として発言しなければならない」。インド労働組合センターは12日の声明でそう述べた。
インド前進海員組合(FSUI)は、米海軍の取った行動を「残虐な攻撃」と糾弾。死亡した3人は「献身的な海事のプロフェッショナル」だったと主張した。
インドの政治学者カンティ・バジパイ氏は、「インドの手掛ける海上輸送への攻撃でインド人船員3人が死亡したことは、不安定な(印米)関係における厄介事に既になっている」と述べた。
インド人の犠牲者がさらに発生し、「国内で国民の怒りが噴出」すれば、モディ政権が事態を抑え込むことはより困難になるだろうとバジパイ氏は指摘した。同氏はインド社会経済進歩センターの客員上級フェローを務める。
インド外務省によると、セッテベッロに乗船していた28人の船員の大半はインド国籍だった。
その前日にも、別の商業用原油タンカー「M/Tマリベックス」がオマーン湾で米軍の攻撃を受け、乗船していた24人のインド人船員が救助される事態となっていた。
米中央軍によると、11日にはイラン産原油の輸送を試みたとしてギニアビサウ船籍のタンカー「M/T ジャルビール」の機関室に米軍がミサイルを撃ち込んだ。同船にもインド人船員が乗っていたが、全員の無事が報告されている。
家族は答えを求める
死亡した3人の遺族は深い悲しみに暮れながら、愛する家族が最期にどのような状況に置かれていたのかについて説明を求めている。
「私が求めているのはただ一つ、息子の遺体が帰ってくることだ」と、船員の一人の父親であるラジェシュ・シャルマ氏はインドの通信社ANIに語った。「息子の最期に何が起きたのか知りたい。救助活動は行われたのか。どのような状況が、わが国の乗組員3人の死につながったのか」
FSUIのマノジ・ヤダブ事務局長によると、インドは世界最大級の商船船員供給国の一つであり、世界中に30万人以上の船員を送り出している。その多くは不安定な地域で運航する外国船籍の船舶で働いており、緊張が高まると特に危険にさらされる。
ヤダブ氏は、最近の攻撃によってインド人船員の間に「パニックと恐怖」が広がっていると明かす。紛争が始まって以来、多くの船員が湾岸地域で足止めされているという。
またヤダブ氏は、弾薬を積載していない商船をなぜ米軍が攻撃する必要があったのか疑問を呈し、「必要であれば船に乗り込み、拿捕(だほ) することが容易にできたはずだ」と指摘した。
インドの野党は、この死亡事案をモディ氏の外交的影響力の試金石と位置付けている。
インド国民会議派は声明を出し、「(モディ)首相は、ドナルド・トランプ大統領本人との親密な関係を外交上の成果として繰り返し強調してきた。その関係がインド国民の命を守れなかったときには、責任を取らなくてはならない」と主張した。
インドの港湾・海運相は、政府は「遺族に固く寄り添う」と述べた。
米印関係に試練
インドと米国は共に日米豪印の戦略対話「QUAD(クアッド)」の加盟国だが、かつて強固だった両国関係は、過去1年の間に悪化した。政治的・経済的な緊張が、両国の戦略的パートナーシップを覆い隠し始めているためだ。
摩擦はトランプ氏が昨年5月、短期間ながらも死者を伴ったインド・パキスタン間の紛争において、自らが仲介役を務めたと公に主張したことで激化した。インド側はこの主張を否定しているが、カシミール地方をめぐる印パ対立への第三者の関与には敏感な問題が付いて回ることを改めて浮き彫りにする事例だった。
緊張はさらに、インドの輸出品の多くに対して米国が課した高関税によって深まった。
政治学者のバジパイ氏は、摩擦をさらに深める要因として、米国が「パキスタンとの関係を急速に強化している」点に言及した。パキスタンはインドの重要なライバルだが、トランプ氏はパキスタンの国防トップであるアシム・ムニール元帥を繰り返し称賛。ムニール氏は米国とイランの交渉における重要な仲介役として頭角を現している。
米国は最近、駐インド大使を任命した。また先月にはルビオ国務長官が訪印するなど、インドとの関係修復を図っている。
しかし、船員たちの死亡をめぐる国内の圧力を抑え込もうとする中で、今やインド政府は米国にさらなる譲歩の姿勢を求めなくてはならないかもしれない。
「米国による何らかの公的な遺憾の表明があれば助けになるだろう」とバジパイ氏は述べた。「インドは米国といわゆる四つの基盤的軍事協定を結んでおり、それらの協定の精神を維持するには双方の努力が必要であることを、米側に改めて認識させる必要があるかもしれない」
政治レベルで何が起ころうとも、犠牲者の家族は残された現実に向き合い、その後始末を引き受けなければならない。
死亡した船員の一人の父親であるラームジー・チャウラシヤさんは、船舶が攻撃を受ける前日に息子と話をしたとANIに明らかにした。
「息子は、すべて順調だと言っていた」。そう話すと、チャウラシヤさんは泣き崩れた。
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本稿はCNNのレア・モーグル記者による分析記事です。

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