『余りの風』(みすず書房) - 著者: 堀江 敏幸 - 陣野 俊史による書評

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余りの風
『余りの風』(みすず書房)著者:堀江 敏幸

作家の核心を掴んだ批評文

タイトルは小島信夫の言葉から採られている。「余る」ものがあるのだ、と小島は話す。理論や全体から「余る」ものがあって、それを書きたい、と。堀江は深く共鳴する(「共感」ではなく)。

この新しいエッセイ集は堀江の好む作家をめぐる散文を集めている。大学時代の師であった平岡篤頼に始まり、藤枝静男、須賀敦子、小島信夫、古井由吉、吉田一穂、田村隆一と続き、W・G・ゼーバルトやジャック・レダへと到(いた)る。

あえて「批評」と呼びたいこれらの散文は、大仰な言葉で出来ていない。何かを書くとき、人は、多少でも読者の心を揺さぶろうと、激しい言葉を探してみたくなるのだが、堀江にはそうした卑俗な野心がない。

作家の筆の動きに寄り添うようにして書かれた文章は、的確に作家の核心を掴(つか)んでいる。

たとえば藤枝静男が妻との死別の一瞬までを描いた『悲しいだけ』。この作品をめぐり紡がれた文章は、小説の最後の一文を書き写し、その世界を少しだけ拡張する。ほとんど書き加える、といってもいいかもしれない。こんなことは他の誰にもできない。堀江敏幸の批評文の真骨頂である。
【初出メディア】
日本経済新聞 2013年1月9日

http://www.nikkei.com/
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