
『バスク七色』(東京パブリッシングハウス)著者:港 千尋
贅沢な造本、味わい深い文章
トウキョウ・パブリッシング・ハウスという小さな出版社から魅力的な本が出た。紹介するのは、3冊同時刊行の叢書(そうしょ)の1冊。港千尋の紀行文だ。手に取ると、物質としての質感にしばし読むのを忘れて陶然とする。布クロス製、箔押し、透明ケース。本を開くと、上質な紙と、写真の美しさに魅せられる。
港の文章は、いつもそうだが、簡潔だが味わい深い。むろん写真も(港は写真家だ)。バスク地方は、フランスとスペインの間にある山岳地帯で、著者はピレネーから少しずつ移動する。ツール・ド・フランスの伝説の王者の名にちなんだ料理など、食欲も刺激される。
極私的ともいえる写真が素晴らしいのは当然だが、過度に贅沢(ぜいたく)にならない旅と、この造本の贅沢さがなんだか奇妙に合っている気がした。
電子書籍が本格的に普及し始めた今年。細部まで徹底的にこだわって作った本、というのがちょっと嬉(うれ)しい。ダウンロードした「書物」も結構な量、読むけれど、手にして開いて、愛(いと)おしく思える存在は捨てがたい。一度、触れてみることをお勧めする。書物の未来とは案外、こんな形なのかもしれない。
【初出メディア】
日本経済新聞 2012年12月12日
http://www.nikkei.com/

1 時間前
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