子ども連れの旅行や長期出張で、荷物運びは多くの人にとって悩みの種だろう。スーツケースやバッグを複数持ち運び、移動するだけで疲れてしまうことも少なくない。そんな課題を「磁石でくっつく」「2つに分離できる」というユニークな発想で解決したのが、ドン・キホーテのオリジナルブランド「情熱価格」から発売されたスーツケース「マグピタキャリー」だ。
開発を担当した中川貴博さんに話を聞くと、その背景には父親として実感したリアルな困りごとと、デザイナー出身ならではの使いやすさへのこだわりがあった。

misaki hashimoto / HuffPost Japan
「子どもと手を繋ぎたい」空港での親の悩み
現在、キャリーケース市場を支える大きな存在の一つが訪日外国人だ。都市部のドン・キホーテでは、土産物の購入で荷物が増え、その場でキャリーケースを買い足す光景も多い。コロナ禍で大きく落ち込んだ市場はその後回復し、現在のバッグ・キャリーケース市場は年間約1.6兆円規模となっている。2022年には、一時2兆円近くまで拡大した。
こうした市場では、単に価格が安いだけでは選ばれにくくなっている。ドン・キホーテの売り場でも、軽さや使いやすさ、保証期間の長さといった付加価値が重視されており、手ごろな価格帯でも3年保証を付けるなど、安心して購入できる点が支持につながっている。
その中で生まれたのが3月24日に発売された「マグピタキャリー」だ。2つのキャリーケースを磁石で連結し、一体化した状態で持ち運べるのが特徴だ。開発者の中川さんは、前職から約20年にわたり開発に携わってきたベテラン。価格競争が激しくなる市場で、既存商品と差別化できる商品について日々考えていた。
「マグピタキャリー」の発想は、4歳の子どもを育てる中川さん自身の悩みから生まれたという。
「子どもを連れて電車や飛行機で出かけるたびに、いつも究極の選択を迫られていたんです。大きなスーツケース1つに荷物をまとめれば、移動は楽になります。しかし、飛行機ではカウンターで預ける必要があり、移動中に子どもが『おもちゃを出して!』『着替えたい!』と言い出しても、すぐには対応できません。かといって、機内持ち込みできる小型のキャリーケース2個に分ければ便利ですが、一人で2つを転がすのは簡単ではなく、片手がふさがるため子どもの手もつなぎにくくなります」(中川さん)
“大きなケースの安心感”と“小さなケースの機動力”の両方を一つにできないかーー。そこで、磁石の力で合体させて運び、空港に着いたらサッと分けて機内に持ち込めるキャリーケースという発想に至ったという。

misaki hashimoto / HuffPost Japan

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磁石で連結。20kgの荷物に耐える設計
市場を調べると、一部の高級ブランドでは似た発想の商品も存在していた。しかし、一般の消費者が気軽に購入できる価格帯ではなかった。
そこで中川さんは、手に取りやすい価格での商品化を目指すとともに、単なる便利さだけではない、製品としての見た目の良さと合体時の一体感を追求した。
「合体させたときに、一つの大きなスタイリッシュなケースに見えるようにしたかったんです。ただ上に載せるだけでは面白くありません。前に出っ張ったり、表面がデコボコしたりしないように、面のそろえ方や溝の形まで、ミリ単位で調整を重ねました」(中川さん)
開発期間は約2年。一般的なキャリーケースは2回ほどの試作で量産に進むことが多いが、今回は4回にわたる試作を行った。最大の壁となったのは、磁石で合体させる際に起きる本体のたわみだ。
ケース同士を近づけると磁力で引き合うが、荷物の重さや本体のしなりによってわずかに形がゆがみ、吸着位置がずれてしまう。これではスムーズに合体できない。
「何度工場に足を運んだか分かりません。最終的には内部に適切な補強を入れて解決しましたが、工場側からは『あと何回作り直すのか……』と思われていたかもしれません(笑)」(中川さん)
完成した「マグピタキャリー」は、縦型(35L)と横型(40L)を組み合わせると、専用設計の大型ケースのような仕上がりになる。磁力も十分に強く、各ケースに10kgずつ、合計20kgの荷物を入れた状態でも外れない設計だ。
一方で、安全面への配慮も徹底した。
「磁力はとても強力ですが、安全のため、階段などで磁石だけを頼りに持ち上げるのは禁止しています。落下事故を防ぐため、持ち上げる際は必ずそれぞれのハンドルを持っていただくよう、注意書きも徹底しています」(中川さん)

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2個セットで2万円。利益より“ドンキらしさ”
「マグピタキャリー」の魅力は、磁石で合体する機能だけではない。中川さんは分割してそれぞれ単体で使う場面まで想定し、基本性能にもこだわった。キャスターには、ストッパー付きの双輪キャスターを採用し、さらに取り外し式にすることで、交換も可能にした。

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「キャスターはスーツケースの中でも特に壊れやすい部分です。お客様ご自身で簡単に交換できれば、一つの商品をより長く使っていただけると考えました」(中川さん)
分割後の各ケースは三辺合計111.5〜114cmに収まり、機内持ち込み基準に対応している。もちろん、機内に持ち込めるのは分割した状態のみで、合体したままでは持ち込めない。ただ、自宅から空港までは大容量のまま移動し、搭乗前に分けて持ち込めるため、荷物の持ち運びがしやすくなる。
そして、この商品の“ドンキらしさ”を最も象徴しているのが価格設定だ。2個セットで19,999円(税込21,999円)の攻めた価格を実現した。
「正直、利益はほとんど取っていません(笑)。この仕様のキャリーケースなら、通常は1個で1万2000円から1万3000円ほどしてもおかしくありません。それを2個セットで約2万円の価格にしたのは、お客様にドン・キホーテらしい“驚き”を感じてほしかったからです」(中川さん)
こうした価格が実現できた背景には、既存商品の販売力もある。主力の拡張機能付きモデルは、月間約2万台を販売するヒット商品。その実績があるからこそ、工場との価格交渉でも強い条件を引き出せたという。
ビジネス層から想定外の支持。需要広がる
発売前の展示会では、中川さんの想像を超える反響が集まった。
「もともとは私のように、荷物が多くなりやすいファミリー層を主なターゲットにしていたのですが、『出張先で大きな荷物はホテルに預け、必要な書類やPCだけを入れた横型キャリーで商談に向かえそう』『機内に持ち込みたい精密機器と預けたい衣類を分けて収納できそう』など、合理的な使い方を重視するビジネスパーソン目線の意見が多かったことに驚きました。そのため、これまで接点の少なかったビジネス誌からも取材依頼が多く寄せられました」(中川さん)
中川さんは今後、「マグピタ」機能のシリーズ化を検討している。
「磁石パーツを活用して、サブバッグを付けたり、ペットボトルホルダーや傘を装着できたりするアクセサリーを展開したいと思っています。今考えている名称は“マグピタシリーズ”です。キャリーケースを中心に、移動そのものをカスタマイズできる体験を提供していきたいです」(中川さん)

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