トンネル効果とは「別の世界線へ引っ越す」ことだったのかもしれない

2 ヶ月前 19

トンネル効果は応用が進んでいるのに実はよく分からない

トンネル効果は応用が進んでいるのに実はよく分からないトンネル効果は応用が進んでいるのに実はよく分からない / Credit:川勝康弘

「物理の授業で『本来は越えられないはずの山を、粒がトンネルを掘って抜けてしまう』なんて話、聞いたことありませんか。

先生は真面目な顔で説明しているのに、こっちは心の中で『それ、ただのチートじゃん…』と思ってしまうあの感じです。

テスト前には式だけ覚えて乗り切れても、なぜそんな“壁抜け”が起きるのかまでは、モヤモヤしたまま終わってしまいがちです。

でも実は、そのモヤモヤの正体は、研究者たちにとってもずっと気になってきた問題でした。

現在の教科書的な説明(コペンハーゲン解釈など)では、1つの粒子は空間にぼやけた確率の雲として存在しており「壁があって入れないはず」の領域にも、確率の雲がじわっとにじみ出ることで、壁の向こう側で粒子がみつかるのが「トンネル効果」であると考えられています。

現実の世界でも、共鳴トンネルダイオード(とても高速な電子部品)やトンネル電界効果トランジスタ、走査型トンネル顕微鏡(原子をなぞる顕微鏡)、さらには放射性崩壊や核反応(原子力にも関わる反応)など、20世紀の技術を支える大事な働き者になっています。

とはいえ『式を計算すれば確率は出るし技術的な応用も実現している』けれど、『実際には何が起きているの?』という問いは残ったままです。

粒子は本当に壁の中を“通過”しているのか、それとも別の説明の仕方があるのか?

そこで登場するのが、もう一つの解釈「エヴェレットの多世界解釈」です。

この考え方では、「観測した瞬間に波が一つの結果に崩れる」という従来のイメージを捨てて、測定のたびに「こうなった世界」「別の結果になった世界」といった、たくさんの枝に分かれていくと考えます。

どの枝も同じくらい“本物の世界”で、私たちはその中の一本の世界線に自分がいる、と感じているだけだとみなします。

ここでいう「測定」は、白衣を着た研究者が装置をカチッと動かすときだけを指しているわけではありません。

もっとずっとささやかな出来事――空気の分子が粒子にぶつかること、壁からゆらいだ光が当たること、テーブルを通じてほんのわずかな振動が伝わること――そうしたありふれた相互作用が、すべて“小さな測定”として働きます。

量子の世界では、環境そのものが巨大な測定装置で、私たちが見ていないあいだにも、粒子たちは環境との出会いを通して、ひっそりと世界を枝分かれさせ続けているわけです。

たとえば、壁に向かって飛んでくる電子を想像してみてください。

古典力学なら、「跳ね返る」か「ぶつかって止まる」かしかありません。

でも量子力学では、電子は波でもあり、エネルギーが足りなくても“トンネル効果”で壁をすり抜ける可能性が残されます。

多世界的に言い直すなら、「反射して戻ってくる世界」と「壁をすり抜けて向こう側に現れる世界」が同時に存在し、その両方に、それぞれ“未来の自分たち”が住んでいる、ということになります。

今回の論文の著者は、この多世界解釈の立場に立ち、「量子トンネル効果を“反射した世界線”と“トンネルした世界線”への枝分かれとして扱い直すと、何が見えてくるのか?」を徹底的に追いかけさ「トンネルする確率は、その“トンネル済み世界線の太さ”で説明できないか」「トンネル時間は、世界が分かれきるまでの時間として定義し直せないか」とまで踏み込みます。

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