トランプに切り捨てられるという不安妄想。欧州各国が「プーチンと直接話さなくてはならない」と言い出した理由

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ロシアを孤立させることにより、国際秩序を守ろうとしてきたはずの欧州。しかしここに来て、各国首脳の間に「プーチン大統領と直接話さなくてはならない」という声が広がり始めています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、この突然の「方向転換」の背景を解説。さらにウクライナと欧州が直面しかねない「最悪のシナリオ」を提示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:ロシアの復権?!‐ロシアの支持を取り付けようとする国際社会のジレンマ

安全保障会議で繰り返し出された欧州の「都合の良い主張」

もちろん戦争当事者であることから、ロシアがそのまま国際社会の表舞台に復帰してくることには、ネガティブな側面も多々ありますが、ロシアが行ったのと同じく、主権国家が隣の主権国家を力に任せて蹂躙し、力による正義を押し付ける手法を公然と取り始めるアメリカに対する対抗軸・バランサーとしてのロシアの役割を欧州各国が再度模索し始め、自ら(欧州)をその間に位置する“究極のバランサー”という役割に就かせようという、非常に都合の良い主張が繰り返し出されました。

現在、この「プーチン大統領との仲直り」的なお話しについて、欧州全域で共有されているわけではありませんが(ロシアの次のターゲットと言われるバルト三国やポーランドなどは非常に否定的)、フランスやイタリア、そして英国がプーチン大統領との直接対話を再開すべきと考えていて、今回の会合でもその必要性を強く主張しており、その主張の輪がじわりじわりと広がっているのを感じました。

例えば、ドイツ(メルツ首相)はこれまで頑なに「プーチン大統領とのチャンネルを再開することは、プーチン大統領に力を与えるだけで、何ら得することは無いので、ドイツは与しない」とフランスとイタリアの意見に反対し続けてきましたが、今回のMSCの場で、フランスのマクロン大統領と共に独仏間での核共有論についての協議を始める旨、公表してからは、ちょっと反対の強度と意味合いが変わってきているように見えます。

独仏の核共有の議論については、実際の中身はこれから詰めるとのことですので、続報を待ちたいと思いますが、両国が核共有の議論を行う背景にはいろいろな理由・要素があります。

1つは「アメリカの核の傘、NATOによる核共有への過度の依存からの脱却と欧州独自の安全保障体制の強化」という観点です。

ドイツについては、まだアメリカとの特別な関係による恩恵に期待しつつも、その反面、一向に一貫しないトランプ政権の対欧州の態度への不安から、フランスが掲げる欧州独自の安全保障体制の強化というアイデアにも与して、迫りくるロシアからの軍事的な脅威に備えるという意図があります。

今回の微妙な方針転換は「独仏が組むことによって、対ロ核抑止が強化される」ということを期待しての政治的な判断と言われていますが、ここで「ロシアからの迫りくる脅威の軽減のためには、ロシアと真っ向から対立するだけではなく、抑止の体制を強化しつつ、直接的な対話のチャンネルを再開させる必要がある」という思惑も強調されていることがポイントで、ドイツが対ロ姿勢を緩和させる兆しだと捉えることができると考えます。

そしてこれはまた、ロシアのプーチン大統領がアメリカのトランプ大統領の方しか見ておらず、欧州には目もくれないという現状に対して、「欧州は自らの安全保障、生存の危機がかかっているにも関わらず、それを保証するための枠内から除外されている」という、非常に強い“取り残されてしまった感”・懸念を有していることの表れとも理解できると考えます。

「ウクライナ問題と迫りくるロシアの脅威は直接的に欧州の安全保障上の懸念でもあるのだから、欧州の声が聞き入れられるべきだし、いかなる決定の過程にも全面的に参加していなくてはならない」という原理原則に気付き、その実現のために、あえてロシアを引き込むという、なんとも奇怪な策に打って出ようとしているのではないかと、勘繰りたくなります。

欧州各国が消し去ることのできない「トランプ絡みの不安」

トランプにとっても必要である「プーチンとの対話」

では“ロシアが必要”または“プーチン大統領との対話が必要”なのは、欧州だけでしょうか?

それはトランプ大統領のアメリカも同じだと考えます。

ロシアがロシア・ウクライナ戦争の当事者であり、プーチン大統領の決断無くしては、いくらトランプ大統領が派手に吠えまくっても、戦争を終結させることが不可能であることもあるため、その解決を実現するためにプーチン大統領が必要だというのはクリアだと思いますが、トランプ大統領が“ピースメーカー”として2025年に仲介に乗り出した数々の紛争案件の解決についても、その当事者となっている国々おおよび非政府組織の協力を得るためには、それらの国々・組織に影響力を有するロシアの大きなワンプッシュが必要になります。

例えば、核協議を行っているイランについては、背後に中ロがいることは何度も触れている通りですが、中国が主にイランの経済面での支援を担っているのに対し、ロシアはイランの軍事面を支えており(恐らく双方向で)、今後、イランの核開発が一気に進展するか、それとも止まるか、のカギを握るのが「ロシアからの原子力関連の対イラン支援の有無と規模」だと考えられます。

他にパキスタンや北朝鮮というワイルドカードは存在しますが、ロシアの比ではないとされ、中国は一応、表向きは「能力はあるが、軍事的な支援は行わない」方針があるため、核協議というアリーナでは、あまり重視しなくていいのかもしれません。

とはいえ、中国もイラン核合意の当事国の一つですので、無視すると後で痛い目に遭いかねません。何しろ、バイデン政権時に、アメリカ政府に知られることなく、水面下でサウジアラビア王国とイランの歴史的な和解を仲介して見せ、アメリカ政府の顔に泥を塗ったのは、誰でもない中国なのですから。

イランとその背後にいる中ロに圧力をかけるべく、ネタニエフ首相をワシントンに招いてイラン問題を協議してみたり、ジュネーブでの米・イラン核協議を行いつつ、トランプ大統領が突然「そう遠くないうちにイランへの攻撃を行うかもしれない。その場合には先日の核施設への攻撃以上の結果をもたらすだろう」と口撃してみたりしていますが、中ロも“そのイラン攻撃”が与える国際情勢への破滅的な影響をアメリカも理解しているはずだと踏んで、現時点ではまともに捉えていない模様です。

ここで触れた“破滅的な影響”についてですが、昨年、バンカーバスターを用いたイランの核施設への空爆以降、アラブ諸国のアメリカへの風当たりが強くなっており、最近もイスラエルと結託して再攻撃に踏み切る恐れが持ち上がってくると、サウジアラビア王国を筆頭に「イランへの攻撃を実施する場合には、アメリカおよびイスラエル軍機の領空通過を拒否する」と宣言し、仮に攻撃時に自国領内に被害が及ぶような事態が起こった場合には、迷わずイスラエルに対する報復攻撃を行うと公言していますので、本当にアメリカ(とイスラエル)がイラン攻撃に踏み切った場合、アラブ諸国の反撃に直面することになり、アメリカはアラブを失うことになってしまう可能性が一気に高まります。

そうなると、イスラエルはいきり立つ敵に囲まれ、再度、生存上の危機に直面することになりますが、その際にイスラエルがどのように対応するかによっては、ここが世界戦争の発火点になり得ると考えます。

これまで以上に鮮明になりつつあるアメリカのロシア寄りの姿勢

その関係者たちが掲げた拳を下すタイミングを逸している状況においてアメリカは、もしかしたらイランに圧力をかけることができるプーチン大統領にイランを抑止しつつ、関係が深まってきているアラブ諸国に対しても影響力を駆使してもらいたいと願い、水面下で米ロ間の対話を活発化させているのかもしれません(実はMSCにおいても、米ロがいろいろと協議しているのを目にしましたのでこのような想像をしてみたくなりますが、あくまでも私の希望的観測も混じっていますので、ここで但し書きしておきます)。

この米ロ間の接触と並行して、ロシア・ウクライナ戦争の“停戦”に向けた協議が継続していますが、ここではロシア・ウクライナ双方の代表が直接協議を行い、そこに仲介役として米国の代表が参加するという形式上は和平協議が淡々と進められているように映りますが、実際にはアメリカのロシア寄りの姿勢はこれまで以上に鮮明になっており、ウクライナ側がアメリカの提示する領土割譲案に抵抗する姿に苛立ちを隠さなくなってきており、このままではトランプ大統領とプーチン大統領がアラスカで首脳会談を行った際に欧州各国とウクライナが抱いた恐れ、つまり【ウクライナと欧州抜きで米ロがウクライナの運命を決するという最悪のシナリオ】が現実のものとなってしまうかもしれません。

もしそのようなことになると、どのような事態が生まれるか?――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年2月20日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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