
数え上げればきりのない「予測不能」な言動で、世界を混乱させ続けるトランプ大統領。とりわけイスラエルとともに行った対イラン攻撃は、エネルギー市場や各国の安全保障環境に大きすぎる影響を与える結果となっています。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、イラン攻撃の背景にあるアメリカの世界戦略と中東情勢の複雑な構図を解説。その上で、この軍事衝突がアジアや欧州を含む各地域の紛争を連鎖させる危険性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:崩れるアメリカの世界覇権と存亡に対する賭けに出たイスラエル-揺れるアラブの結束と紛争の連鎖に向けたぎりぎりの攻防
ネタニヤフの思惑に翻弄されるトランプの対イラン戦略
さらには「どうも今回のイランへの大規模攻撃の実施とハマネイ師の断首作戦は、イスラエルから依頼された・そそのかされたものであり、アメリカは中東における混乱の泥沼に引きずり込まれた」とする非難が国内からなされ、かつ作戦による米兵の犠牲者数が増え続ける事態や、イラン南部の女子小学校を誤爆し、170名超の死者を出したことが明らかになるにつれ、「海外の紛争には参加せず、国内に集中する」という公約を掲げていたにもかかわらず、2026年に入ってベネズエラ、イランと軍事介入を連発していることに、岩盤支持層のMAGA派の中からも疑問が呈される事態になっています。
トランプ大統領の紛争への介入は、それが仲介という形式と取っていたとしても、また今回のように直接的な軍事行動という形式をとっていたとしても、「何を達成したいのか?その後、どうしたいのか?」という出口、エンドゲームをクリアに描くことなく、場当たり的な対応で、悪く言えば、彼本人の気まぐれで実行されているように見えます。
しかし、実際には「世界市場のコントロールをアメリカに取り戻す」という一貫したアジェンダが隠れているのですが、今回のイラン攻撃については、思惑が外れているのが分かります。
建国250年の式典(7月4日)と11月の連邦議会中間選挙を控えるトランプ政権としては“早くイラン紛争から離れたい”という指向が強まってきているわけですが、今後、どのような形でトランプ大統領がそれを実行しようとするのか、とても見ものですが、それが可能か否かについても不透明と言わざるを得ません。
恐らく「アメリカが計画していた作戦は成功の裡に終わった」と、“成果”を一方的にアピールして幕引きを図ろうとするのだと思いますが、果たしてそれをイスラエルのネタニエフ首相が許してくれるかは分かりません。
すでにネタニエフ首相は、イランへの攻撃への対策と、ガザの停戦をリンクさせているだけでなく(ガザへの攻撃も継続中)、アメリカが同じく“仲介”に乗り出していたレバノンとの和解についても、レバノンに対する大規模な攻撃を行うことで、アメリカ絡みの全案件をリンクさせて、中東から離れられないようにしています(ちなみにイスラエル軍によるレバノンへの攻撃は壮絶なものになっており、一度に100名以上の死者を出す事態になっています。確か木曜日だったかと思いますが、BBCの生放送中にビルが攻撃され、女性のキャスターが吹っ飛ぶという事件が全世界に配信されています。幸いその女性キャスターは無事だったようですが、同攻撃で100名以上の死者が出たと言われており、この事態を受け、英国のイスラエルに対する風当たりはこれまでになく強まっていますし、アラブ諸国もイスラエルの蛮行と歯止めの利かない凶行に対して強い非難を行っています)。
見方によっては見事にネタニエフ首相の思惑にトランプ大統領とアメリカがはまったことになりますが、もし米軍の地上部隊の派遣が行われた暁には、これによってアメリカは離れたはずの中東に引き戻され、憎悪と混乱の渦に巻き込まれることになります。
その兆候は【アメリカ軍の武器弾薬が、世界中からかき集められ、中東戦線(イラン戦線)に投入されている】という情報に現れています。
例えば、在韓米軍に配備されているTHAADやパトリオットミサイルが取り外され、韓国から中東の米軍部隊に向けて移送されたという情報が多方面から入っていますし、ウクライナ向けの武器供与もストップされ、優先的にイスラエルと在中東の米軍に向けられているという状況が指摘されています。
これが冒頭の「アメリカは本当に大丈夫か?」というコメントに繋がります。
米軍の中東戦線への戦力集中が揺るがす東アジア安全保障
欧州の分断とウクライナの孤立が招く世界戦争の連鎖
「ウクライナの危機は欧州の安全保障に直結する」と懸念を表明し、「~べきだ」といろいろと口を挟む欧州各国と欧州委員会は、「独自の防衛システムを構築すべき」とか「フランスとドイツ、そこに英国も交えた核共有による核抑止の強化が急がれる」とヨーロッパ・ファーストの対策を取ろうとするものの、ウクライナ防衛に対する内容は鳴りを潜め、ウクライナは孤立状態に置かれつつあります。
またトランプ大統領に浸透し、アメリカの意向を組むハンガリー政府とオルバン首相に対し、ゼレンスキー大統領が「ウクライナ軍がハンガリーを急襲する」といったニュアンスの発言をしたことで、オルバン政権は完全に反ウクライナの姿勢を貫き、欧州からウクライナへの物品や支援の供与の際にハンガリーを通過することを許可しない旨、公言したことで、実質的にウクライナは欧州からも切り離されることになりそうです。
この事態はプーチン大統領とロシアに強いメッセージを送ることとなり、今後、これまで以上にウクライナを蛇の生殺し状態でいたぶり、時間稼ぎをしつつ、他の国際案件に介入する機会をロシアに与えることとなりそうな予感がします。
そうなると、アメリカの“同盟国”の立場から見ると、「アメリカに頼っていて大丈夫か?」というニュアンスでの「アメリカは本当に大丈夫か?」という大きな問いが出てくることになります。
この方向性を決めるカギはロシアや中国の動き方次第とも言えますが、イランを後方から支援し(実際にロシアは兵器をイランに供与していますし、中国も、自国のエネルギー安全保障のためとも言えますが、イランを下支えし、反欧米勢力での連携を強めています)、アラブ諸国を巻き込むことが出来れば、戦争は長引くでしょうが、ある程度の危ない安定を保つことはできるかと考えます。
しかし、中国が今こそ絶好の機会とばかりに台湾に侵攻し、インドがパキスタンとの間での決着を付けようとし、北朝鮮が暴発して北東アジアで日米および韓国を相手に軍事作戦に打って出て、北朝鮮と中国に手を煩わされている間に、ロシアが極東問題(北方領土問題)を終わらせ、予てよりアメリカに阻止され続けてきた勢力圏の拡大に打って出るようなことになれば、世界各地で火の手が上がり、世界大戦が勃発することになりかねません。
ロシア・ウクライナ戦争は状況が停滞したまま続けられ、イスラエルの蛮行に堪忍袋の緒が切れたアラブ諸国が、イランとは協力はしないかと思いますが、イスラエルに戦いを挑み、イスラエルは絶対優位を確信していたはずのレバノン、親イラン勢力、アラブ諸国、そしてイランを相手に多正面で戦いを余儀なくされ、ついには存亡の危機に瀕する可能性が否定できません。
現時点では非常に強いプロ・イスラエルのトランプ政権のアメリカがいますが、そのトランプ氏も、イラン戦線の膠着がアメリカ国内での反トランプ勢力の拡大に繋がり、かつ原油価格をベースにした世界コントロールが効かなくなったら、そそくさと“対イラン戦争勝利”を宣言して、イスラエルを切り離す動きに出ようとするかもしれません(実際にそれが実行可能な選択肢か否かは、いろいろ複雑な事情が絡むため、あえて断言はしないでおきます)。
11月の中間選挙で共和党が上下院の過半数を失うような事態になった場合、国内政治はレームダックに陥って何も進まなくなるので、トランプ政権がついにイスラエル切りをし、国内の声に耳を傾けることなく、すべての紛争から手を退くことになるかもしれません(アメリカお得意の、介入して滅茶苦茶にして、放り出す悲劇の再現かもしれません)。
中東戦争が生む「核使用ドミノ」という最悪のシナリオ
そうなると、中国の野望もロシアの極東への拡大も具現化され、アジアの東端から西アジア(中東アラブ諸国)、コーカサス、東アフリカ~中央アフリカ経由で西アフリカにまで及ぶ戦いのベルトが形成され、それが北アフリカにも引火すれば、即時にイスラエルに飛び火し、それが地中海を経て、南欧を経由し、欧州に戦火が広がることで、欧州はロシアサイドからくる戦争と地中海から北上してくる戦争に翻弄され、ついには欧州も戦争の舞台になるという恐ろしいシナリオが描けてしまいます。
このような最悪の事態になる前に歯止めが聞くとしたら、中東アラブとコーカサス、そして南アジアとの交差点に位置するトルコが360度全方位で防潮堤・防波堤の役目を果たし、戦火の拡大を防ぐという役目を果たすことができる場合が想定されますが、果たしてどうでしょうか?
先日、イランへの大規模攻撃についてはまだないと確信し、その後に予定されていたジュネーブでの協議の準備のためにトルコ政府の担当官たちと意見交換した際には、トルコにはすべての紛争に対する調停・仲介を提供する用意と意思はあるが、現在のように紛争に囲まれる状況が長く続けば、トルコも巻き込まれる危険性をひしひしと感じているとのことでした。
イラン紛争が引き起こされてからも意見交換と協議は継続していますが(おかげであまり寝ていませんが)、日に日に感じる危機感は高まっているように思います。
今回のアメリカとイスラエルによる対イラン攻撃の実施は、いろいろな要素に鑑みると、決して超えてはならなかった世界大戦前の最後の砦を破壊し、一気に戦いとフラストレーションの波がイラン・中東諸国発で全方向に押し寄せ、戦争の気配がドミノのように遠方にまで及ぶ事態を引き起こしたと考えています。
アメリカがイランを潰すことによって目論んだ世界における覇権の拡大と維持という戦略は、見事に崩れ、もうアメリカをもってしても修復不可能な状況を世界に作り出したように見えてきます。
そしてイスラエルのネタニエフ首相が描いた大イスラエルの実現という、地域覇権の確立も、イランからの反撃と、イランを支持する勢力の拡大を受けて、崩壊寸前にあるだけでなく、イスラエル国家の存続をも、自らの手で崩壊の危機に導いてしまったと言えるかもしれません。
このメルマガを配信している時にも、イランの弾道ミサイルと最新型ドローンを用いた波状攻撃がイスラエル全土を襲い、イスラエルが誇るアイアンドームを掻い潜って、イスラエルに大きな被害を与えていますし、2月28日の対イラン攻撃のミサイルなどがイラン周辺諸国の米軍基地から発射されたことが明らかになったことから、イランは謝罪を取り下げ、アラブ諸国のインフラに対する大規模な攻撃を加えて、アメリカが支配権を再建しようとしていたエネルギー市場のシステムを破綻させる試みを強化しています。
アラブ諸国は今回、自国がイランの標的になったのはアメリカとイスラエルが悪いという認識で一致し、ついにアメリカとのあらゆる契約を見直し、恐らく破棄して関係を断ち、イスラエルを攻撃する最後の砦を壊して、挙ってイスラエルを壊滅させようとするかもしれません。
そうなると、イスラエルは核兵器を平気で使い、それがロシアによる対ウクライナ核使用のハードルを一気に下げ、その現象がドミノ現象のように世界に広がるかもしれません。
「世界戦争」を止める存在なき時代の国際秩序
今週、イスラエルがテヘランの北朝鮮大使館を爆撃したことを受け、北朝鮮政府は、自国の実力誇示の目的ももちろんありますが、イスラエルに対する核使用の可能性に言及しています。恐らく、これまで通りの瀬戸際外交を行い、注目を集める狙いもあるかと思いますが、蛮行を働くイスラエルを懲らしめるために自らの核戦力を用いるという“ロジック”を打ち出して、本当に何かを仕掛けてくるかもしれません。
世界大戦が勃発するトリガーが、実際にはどこで起きるのか?世界大戦などもう起きず、ただの妄想に過ぎないと言い切れるように、どこかでつかの間の協調がなされ、一歩手前で世界は救われたという“感動のエピローグ”を迎えることができるのか?
これまではアメリカが、手法には賛否両論があっても、世界戦争を寸前で止める役割を果たしてきましたが、アメリカがその当事者となっている現状において、誰が“アメリカ”の役を務めることができるのか?私には具体的な存在が見えてきません。
もし表面的な“成果”のみに固執したトランプ大統領が、すでにしているようにも思われますが、プーチン大統領と手打ちし、ロシアの様々な野心を黙認する代わりに、ウクライナ戦争を終わらせ、かつイランにも圧力をかけてその表面的な手柄をトランプ大統領に渡すようなディールが出来ているとしたら、恐らくアジアは中国に売り飛ばされ、中東は微妙な緊張状態に戻り、ウクライナは事実上消滅し、ロシアの影に恐れつつ、アメリカの裏切りを知り、呆然とする欧州と日本という、恐ろしい図式が出てくることになります。
なかなかペシミスティックな内容になってしまいましたが、これがただの私の妄想であってほしいと祈っています。
今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年3月13日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
image by: Joshua Sukoff / Shutterstock.com
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