
国際秩序の「揺らぎ」が状態化しつつある昨今の世界情勢。力による外交がまかり通り、従来の国際協調の枠組みが機能不全に陥りつつあるのが現状です。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、トランプ政権の対外政策を論考の中心として、「秩序が存在しない世界」とも言える現在の国際情勢を分析。さらに大国間の力学や分断の進行がもたらすリスクと、模索されるべき国際関係のあり方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:世界秩序が存在しない世界-力による外交・安全保障が作り出す暗中模索の国際情勢
「大義名分」など存在しないトランプと取り巻きの行動
過大な要求や勇ましい発言、そして脅しを矢継ぎ早に打ち出し続けるものの、TACOがその後に必ず起こる現状に、世界は慣れっこになり、危機に対する意識が鈍っているように感じますが、トランプ政権による世界秩序の無視と破壊により、世界は秩序が存在しない「力がものをいう世界」、「弱肉強食の世界」に突き進んでいるように見えてきます。
毎日発言内容が変わり、毎日気が変わるのはまだしも、自らのレガシーとして「就任以来、8つの戦争を止めた」と豪語していますが、実情は戦争を止めるどころか、“停戦”がかろうじて成立し、維持されている“戦争”も、中途半端な状態で放り出し、いつ再爆発するか分からない、とても不安定で脆弱な状況が至る所に存在しているのが、本当の国際情勢の姿です。
昨年末あたりから、トランプ大統領とその取り巻きの行動は、短絡的な思考と、恐らく妄想にも似た思い込みで、自らの利益のみの追求を極めた結果、覇権国としての力を誤った方向に、そして乱暴に駆使し、気に入らない者(国)や自らの言うことを聞かないか逆らう者(国)、そして自分の利益追求・拡大の妨げになる者(国)に戦争を仕掛ける手法といえます。
つまりそこには大義名分は存在しないことになります。
2026年1月3日に強行されたベネズエラへの奇襲は、当初、麻薬カルテルへの制裁という“正当化”がされましたが、その後、目的は“OPECプラスに制御されている世界のエネルギー市場の支配”にすり替わり、行動に対して国際法違反が指摘されると、「Maduro政権およびチャビスタ(チャベス元大統領の取り巻き)が行ってきた殺害、拉致、誘拐などの人権侵害を正すためのやむを得ない介入」と攻撃と一国の大統領の拉致を正当化して見せましたが、実際にはどうでしょうか?
ベネズエラには平穏が戻り、麻薬カルテル(太陽のカルテル)の影響は削がれ、不当に逮捕・監禁されてきた人たちは返ってきたでしょうか?そして、アメリカは実際に世界一の埋蔵量を誇るベネズエラの石油権益を掌握し、その利権を活かせているでしょうか?
恐らく答えはNOですが、果たしてトランプ大統領はそれを気にしているでしょうか?これについても、恐らく答えはNOでしょう。
では、なぜベネズエラに侵攻し、めちゃくちゃにし、そして実質的に何もせずに立ち去ったのでしょうか?
「思惑が違い、手に負えないことを悟ったから」なのか、「単に飽きた」のか?それは本人にしかわからないと思いますが、もしかしたら本人も分かっていないかもしれません。
次に現在進行形の、もっと深刻なイラン情勢について見てみれば、さらに謎が深まります。
昨年6月の米・イスラエル軍合同でのイラン攻撃、そして今年2月28日に行ったイランへの大規模攻撃・爆撃と、それから延々と続くホルムズ海峡の緊張と中東地域における極度の混乱。
アメリカがイランを攻撃“しなくてはならない”理由として「イランによる核兵器開発」が挙げられていたかと思います。
この“核兵器開発”ですが、実は確証がありません。
ちなみに2月28日の爆撃によって殺害された、前最高指導者のアリ─・ハメネイ師は【核兵器を宗教令(ファトワ)によって、開発や保有を禁止し、反対を唱えていた張本人であったこと】を、皆さんはご存知でしょうか?(私は今回の件が起こるまでは知りませんでした)
革命防衛隊に対しても絶対的な支配力を有していたハメネイ師は、仮に革命防衛隊から核兵器の開発と保有を進言されても、ずっと抑え続け、それを決して許さなかったと、複数のイラン政府関係者から聞きました。
ウランの濃縮については、実際に行われてきたようですが、それが軍事用か否かは不明です。
イランに与えてしまった軍事核保有の「絶好の口実」
生まれかねない「米中ロ3大国がすべて戦争当事国」となる異常
このところ、王毅外相の動きが再度活発になってきていますが、これまでになく言葉少なめで(ただし、対日批判のトーンは激しいままですが)、国際社会からの非難の矛先が中国に向かず、逆に中国を新たな世界のリーダーに押し上げるための戦略を構築するための根回しをしている気がします。
ただ、アメリカがイラン情勢およびガザ問題を含む中東地域にかかりきりになり、アジア太平洋地域の守りが手薄になる状況が深刻化し、かつその状況が長く続くような状況になれば、すでにアジア太平洋地域における軍事プレゼンスでは最大になった中国と人民解放軍がいつ宿願達成のために台湾に牙をむくか分からない状況が生まれかねません。
一応、台湾の野党党首(親中派とされる)を相手に外交的な働きかけを続けるものの、“仮に中国人民解放軍が行動を起こしても、アメリカは来ない”との確信を深めれば、何が起こるかわからないのが実情です。
そうなったら、米中ロという3大国がすべて戦争当事国となるという異常な状況が生まれ、世界は完全に混乱の渦に巻き込まれ、政治も外交も、経済もすべてがネガティブな状況に陥ることになります。
米ロが侵略したものの相手の反抗に遭い、戦争の泥沼に足を取られているように、中国が台湾に攻撃を仕掛け、仮にアメリカによる介入が軽いか皆無だったとしても、こちらもまた泥沼化し、出口が見えない状態に発展することが容易に予想されます。
3大国が戦争の沼に足を取られて身動きが取れず、紛争の種に溢れた世界各地で支配の拡大を目論む戦いが勃発することになれば、私たちの住むこの世界はますます先の読めない混乱の闇に巻き込まれることになってしまいます。
ではどうすれば、そのような破滅的な状況を回避できるのでしょうか?
これまでお話ししてきた内容に照らすと、これから触れることは皮肉に満ちた、諦めのように受け止められるかもしれませんが、すでにpoint of no returnを越え、引き返すことができないのではないかと思われるレベルにまで進んでしまった世界の分断を修復するには、アメリカの力が不可欠だと考えます。
今回の世界情勢の混乱を受け、中ロのプレゼンスが格段に上がり、かつインド・南ア・ブラジルなどが音頭を取るグローバルサウスのグループの発言力や影響力が上がってきたものの、変わることなく世界最大の経済力を誇り、7つすべての海に海軍艦隊のプレゼンスを誇る最大の軍事力を持つのはアメリカのみです。
イスラエルの暴走を止めることができるのは、イランやアラブ諸国、そして欧州各国ではなく、アメリカしかありませんし、ウクライナ戦争においてロシアの企てを挫くには、アメリカの力は不可欠です。
ただ、現状においては、トランプ大統領のアメリカはその力を間違った方向に使い、世界を混乱の深みに追いやっているように見えます。あくまでも私見ですが、トランプ政権はあまりにも安易に世界最強の軍隊を直接に使い、戦争の当事者となることで、誰も解決できない状況を作り出しています。
可能性ゼロではないトランプの「勝利宣言」による和解
このコラムでも何度かお話ししているように、クリントン政権に端を発し、オバマ政権時代に“世界の警察官”であることを止めたアメリカの決断は、中ロの影響力と野心・野望を伸長させ、「何かあれば、アメリカが介入してくる」という脅しがないことに気付くと、世界各地で溜まったストレスと野心が爆発し、戦争・紛争が頻発する事態になっています。
イラクでの失敗、アフガニスタンでの失敗を経て、すでにアメリカは世界の警察官として君臨する力と政治的な支持を失っていますが、世界最強の圧倒的な軍事力は、中ロに代表される権威主義国家や、非政府武力組織、テロリストなどが他国や一般市民を武力によって脅し、自由や財産を奪うという破滅的な行動に出ることを思いとどまらせる“抑止力”として作用するべきです。
アメリカ一国ですべての紛争の芽を摘むことは現実的ではないと考えますが、各国・各地域が勤める和平努力や紛争の予防という動きに対して、アメリカは力を貸し、協調の下で安定を取り戻し、維持するという力の使い方をすることが、破滅的な状況を反転させ、再びデリケートな安定を国際社会に取り戻し、国際秩序を再構築する鍵になると考えます。
トランプ大統領が再登板し、第2次政権が始まった際に、出口の見えない数々の国際紛争を停戦に導くべく、次々と仲介の労を担おうとしたことは、高く評価しています。
ただ大きな間違いを犯したとすれば、トランプ大統領のアメリカは、中東情勢ではあからさまにイスラエル側に立ち、反イスラエル勢力を徹底的にこき下ろしたことや、ロシア・ウクライナ戦争の仲介においても、自らの個人的な憧れもあるのかと想像しますが、ロシアに有利な条件を提示し、自らの言うことを聞かないウクライナを激しく非難したことで、超大国アメリカの影響力を適切に用いて、戦争を半強制的にでも終わらせる絶好の機会を失ったと見ています。
適切に力を用いる代わりに、トランプ大統領のアメリカは自らイランでの戦争をはじめ、ベネズエラを侵攻し、そしてウクライナに圧力をかけてロシアの企てを後押ししています。
また中国のアジア太平洋地域における影響力の伸長と台湾海峡における緊張の高まりに対しても、これまでの“相互認識の上での軍事的な警告合戦”による安定という手法を使うことなく、口ばかりの非難と関税という経済的な措置を通じて中途半端な駆け引きに頼ることで、アメリカの持つ軍事・経済両面での圧倒的な力の誇示による中国の野望的伸長に対する抑止という、絶妙な策を自ら捨てているように見えます。
意地のぶつかり合いと、言行不一致の対応が鮮明になる中、米イラン間の次の協議の予定が立たない憂慮すべき状況が続いています。アメリカもイランも振り上げてしまった拳を下げる機会を逸し、そこにトランプ大統領の自尊心に付け入って仲介役を手に入れたパキスタンの不思議な立ち位置がより事態を複雑にしてしまい、和平に向けたクリアな道筋を描けない状況が続いています。
まあ、トランプ大統領が気まぐれにでも「勝利宣言」をし、イスラエルを切り捨ててイランとの和解をする可能性はゼロではないのですが、実際にはそれを自らのプライドと、イスラエル支持層からの突き上げが許してくれないでしょうし、イランもまた中途半端な形での停戦が現体制の終焉を後押ししかねないとの懸念もあるため、なかなか落としどころが見つかりません。
状況を絶望的なまでに複雑にしているイスラエルの姿勢
ただこのまま出口が見えない状態で戦争が長期化すると、実際に困るのはイランではなくアメリカだと思われます。
アメリカ側に弾切れの危険性があることと、実際に米兵の犠牲が増えていること、そして秋の中間選挙に向けて支持層離れが進んでいることなどが複次的に絡み合って、袋小路に追いやられ始めています。
イスラエルについては、口では“単独でもイランと戦える”と豪語するものの、イランによる弾道ミサイルとドローンを用いた波状攻撃により、すでに主要都市に大きな被害が出ていることと、ガザ、ヨルダン川西岸地域、レバノン、イエメン、そしてイランと複数の戦端を開いてしまっていることから、継戦能力に大きな懸念が生じ始めているようです。
イスラエルが戦争を止めるとしたら、アメリカからの支援を失って最終的に軍事的な敗北を喫するか、ネタニエフ首相と極右の仲間たちがイスラエルにおいて排除されて、次の政権が停戦を持ち掛けるようなシナリオしか思い浮かびませんが、そのような状況に陥る可能性はいかほどでしょうか?
個人的には、いろいろとアメリカ政府関係者とも協議する中で、アメリカに名誉ある撤退をぜひお勧めしており、具体的な方法・幕引きの方法について急ぎ協議が行われているところですが、そのための絶好の機会を見いだせずにいるのも事実です。
いろいろあっても、もしイラン側がパキスタンのイスラマバードに代表団を送り、バンス副大統領をヘッドにするアメリカ側との協議が実現していたら、何かのブレイクスルーが可能だったかもしれませんが、その機会も失われているように感じます。
その背景にはイラン国内での勢力争い・主導権争いの激化があります。ペゼシュキアン大統領とアラグチ外相に代表される協議を通じた解決を模索するグループと、革命防衛隊に代表されるハードライナーで、かつホルムズ海峡を武器として用いる一派の間で、意見と方針の一致が見いだせず、結果としていろいろな意見が錯綜し、一致した立場での協議に臨む基盤が構築できないという事情があるようです。
そこに状況を絶望的なまでに複雑にしているのが、イスラエルの姿勢と“今こそ、イランや周辺諸国を潰す絶好のチャンス”と考えて攻勢を強めている現実です。
もしかしたらベストな解決策は、トランプ大統領とネタニエフ首相を権力の座から引き摺り下ろし、新しいリーダーの下、停戦協議を行うことだと考えますが、その代わりにトランプ大統領を煽てて(ルッテNATO事務局長が行うように)、トランプ大統領に「やはり世界をまとめ上げ、真の平和と安定を実現できるのは自分しかいない」と言い放つことができる環境を用意し、近代史における危機勃発時にアメリカ政府が行ってきたように、世界をまとめあげ、強引にでも多国間協調をベースとした新国際秩序を構築させることではないかと感じています。
イラン情勢が緊迫化し、世界経済への大きな打撃が顕著になる中、ワシントンDCを訪れ、日米首脳会談を決行した際、高市総理が「世界中に平和と繁栄をもたらすことができるのは、ドナルドだけ」と発言したことは、ただのお世辞やヨイショではなく、現在、そこにある世界的危機を解決するための方法を示したのではないかと考えます(買いかぶりすぎでしょうか?)。
このメルマガが皆さんの手元に届く頃には、私は土曜日からのニューヨーク行きに備えて、いろいろ事前協議を行っていることと思いますが、来週、ニューヨーク滞在中によいサプライズに出会えるように、しっかりと準備しておきたいと思います。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年4月24日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
image by: Rawpixel.com / Shutterstock.com
MAG2 NEWS

2 時間前
1








English (US) ·
Japanese (JP) ·