(CNN) 仏サッカー界のスター、キリアン・エムバペと、「ハローキティ」を手がける日本の企業。この二者に共通点などあるのだろうか?
今週までは、ほとんど何もなかった。しかし現在、両者は何とも厄介な状況を共有する身となっている。つまり中国のファンや消費者の怒りを買ったことで即座に謝罪し、事態の収拾を図る必要に迫られたのだ。そうしなければ多額の収益を失うことになりかねない。
こうした事態が生じるのは今回が初めてではない。近年、アスリートからファッションブランドに至るまで、多くの海外ブランドや著名人が同様の窮地に立たされてきた。しかし、今週相次いで起きた「謝罪と撤回」の事例は、中国でビジネスを行うことの難しさを浮き彫りにしている。同国では、「越えてはならない一線」と見なされる境界を越えてしまったが最後、人々はそう簡単には許してくれず、忘れてもくれないからだ。
発端は、スペインの強豪レアル・マドリード所属のフォワード、エムバペが、フランスのトーク番組の動画に登場したことだった。その中でエムバペは、ある面白いミーム(ネット上のネタ画像)に言及。自身の顔が「とある人、確か中国の独裁者」に合成されていると説明していた。
その「とある人」とは、中国のかつての指導者、毛沢東のことだった。毛沢東は破滅的な政策が原因で数千万人の死者を出すなど混乱に満ちた統治を行ったにもかかわらず、現在でも中華人民共和国の「国父」として崇拝されている。死後半世紀が経過した今も、その複雑な評価は中国国内において極めて繊細なテーマであり続けている。
エムバペの何気ない発言は、中国のソーシャルメディア上で瞬く間に猛烈な批判を巻き起こし、その波紋はオンラインの世界を超えて広がった。複数のブランドがエムバペとの関係を断ち切り、「中国の人々の感情を傷つけるような言動は一切容認しない」と表明した。国営メディアは、エムバペが登場するあらゆるコンテンツや広告を削除したほか、本人が出場する試合や、所属するスペインのサッカーリーグ「ラ・リーガ」の試合・イベントの放送もすべて停止した。
さらなる波紋が広がる恐れに直面し、エムバペは27日に正式に謝罪。「私の発言は思慮に欠けるものだった。今は中国の人々、そして世界中の中国系コミュニティーの多くの人々を傷つけてしまったことを理解している」と述べた。ラ・リーガをはじめ、エムバペと関わりのあるブランド各社も、中国のパートナーをいかに重視、尊重しているかを強調することで、事態の収拾を図った。
ところがこの問題が収まらないうちに、また別の騒動が持ち上がった。今度は「ハローキティ」で知られるサンリオが当事者だ。
同社は、日本のスパイ・ドラマ「VIVANT(ヴィヴァン)」とコラボレーションし、ハローキティ、マイメロディ、クロミ、シナモロールといったサンリオのキャラクターが、同ドラマに登場する衣装を身にまとったグッズを制作していた。しかし、地政学的な緊張が続く中、中国の国営メディアはこのドラマを「反中国的な内容」と批判。中国のソーシャルメディア上でこのコラボレーションが拡散されると、ユーザーからは、ドラマの中で中国の諜報(ちょうほう)員が日本のスパイを拷問するシーンが描かれていることに対し、激しい非難が浴びせられた。

東京・池袋にあるサンリオの店舗/Kiyoshi Ota/Bloomberg/Getty Images
29日には、様々な方面から意見が寄せられたとして、サンリオが方針を撤回すると発表。「企業理念にそぐわない表現が含まれていると判断した」上で、コラボや関連企画を終了することを明らかにした。この声明が掲載された中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボー)」では、関連するハッシュタグが1億8000万回以上閲覧された。
中国当局者もこの件に言及した。29日の定例記者会見で中国外交部の報道官はVIVANTについて、「日本国内には文化的な作品を通じて中国を中傷し、汚名を着せ、反中感情を広めようとする勢力が常に存在しているという事実が改めて露呈した」と述べた。
サンリオとエムバペのケースは、中国のソーシャルメディア上で反感を買ってしまった際に、今や「お決まり」となった対応パターンをなぞるものだった。すなわち丁重に謝罪し、発言を撤回。物議を醸した製品の販売を中止して事態が沈静化するのを待つというものだ。2018年のドルチェ&ガッバーナや、19年のヴェルサーチェの騒動も、全く同じ経緯をたどった。19年の全米プロバスケットボール(NBA)のヒューストン・ロケッツ、21年のH&Mとナイキ、23年のブルガリ、そして今年に入ってからのルルレモンも同様だ。
論争の対象は多岐にわたるが、その多くは地政学的あるいは歴史的に繊細な問題と関連している。例えば、中国の準自治地域である香港やマカオの地位、あるいは中国政府が自国領土の一部と見なしている民主的な自治地域・台湾をめぐる問題などだ。また、ルルレモンやサンリオをめぐる論争のように、日中間の歴史的な対立感情に火がつくケースもある。
チャイナ・マーケット・リサーチ・グループの創設者兼マネジング・ディレクターであるショーン・レイン氏は、中国でビジネスを展開する海外ブランドや著名人は細心の注意を払う必要があると指摘。「中国の消費者は、中国という国や中国国民に対する侮辱、あるいは侮辱と受け取られかねない言動や攻撃に対して、極めて敏感だ」と述べた。
それでも多くのブランドにとって中国は巨大な消費者市場であり、リスクを負ってでも参入する価値はあるようだ。中国の国営メディアによると、サンリオの中国事業は26年上半期だけで1億1700万ドル(約184億円)の収益を上げた。高額な広告契約に依存するスポーツ選手たちにとっても事情は同じだ。

エムバペの顔写真が入ったラベルの飲料が中国のスーパーで売られている/Wang Gang/Feature China/Getty Images
欧米のスポーツリーグやチームが、中国を怒らせないよう選手に公然と注意を促すことはできない。そうすれば別の反発を招く恐れがあるためだ。しかし水面下ではそうしたやり取りが行われている可能性が高いと、中国のスポーツ戦略に関する著書があるスポーツアナリストのマーク・ドレイヤー氏は分析する。
「数百万ドル規模のスポンサー契約がかかっている状況であれば、それはごく賢明なビジネス上の判断と言えるだろう」と、同氏はロイター通信の取材に語った。物議を醸す事態が起きても比較的早く沈静化し、ブランドが回復に向かうケースもある。一方でダメージが長期間に及び、多大な代償を支払うことになる場合もある。
サンリオやエムバペにとって、評判を回復する道のりがどれほど長いものになるかは不透明だ。しかし、多国籍企業に助言を行うブリッジワークス・グローバルの創業者ザック・ダイチワルド氏は、「これこそが、中国市場でビジネスを行う際に伴うリスクにほかならない」と指摘。ロイター通信の取材に答え、「うまくいっているときは、誰もが喜ぶ。中国は世界第2位の経済大国であり、どのような企業や業界にとっても最大の成長分野となることが多いからだ。しかし一度対応を誤れば、非常に大きな痛手を被ることになりかねない。しかも、その報いは極めて迅速に訪れる」と語った。

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