『のけ者』(白水社) - 著者: エマニュエル・ボーヴ - 陣野 俊史による書評

2 ヶ月前 34
のけ者
『のけ者』(白水社)著者:エマニュエル・ボーヴ

ダメ人間を描く繊細なユーモア

エマニュエル・ボーヴの新しい翻訳が出た。これまでに3冊、ボーヴの小説は訳されてきたが、今度もやっぱりダメな人間を描いていて期待通り!

主人公のニコラは23歳、無職。母親のルイーズと2人暮しだが、家はない。ルイーズの姉を頼ってパリに舞い戻るが相手にされない。安ホテル住まいも資金が尽きかける。

ニコラは誰かれともなく金を無心し、踏み倒す。浪費癖は抜けず、追いつめられ就職するが、適応できず出社拒否に陥る。そして破滅へと向かっていく。

まあ、救いのない話。陰鬱(いんうつ)になる。だがこの人の小説には、じつに繊細な細部がある。ちょっと他の人には書けないような、ユーモアに溢(あふ)れたディテールの輝きがあるのだ。

一読、社会参加なんて言葉とは縁がなさそうな小説だが、じつはそうではない。たとえば移民政策の変動にボーヴ自身、影響を受けているし、それが小説に影を落としてもいる。ボーヴが日本語に翻訳され、着実に読者の心を掴(つか)んでいること自体、なんだか奇蹟(きせき)的な気がするし、ちょっと嬉(うれ)しくなる話なのだ。渋谷豊訳。



【初出メディア】
日本経済新聞 2010年6月2日

http://www.nikkei.com/
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