アメリカに本社を置くバイオファーマ「ブリストル マイヤーズ スクイブ」は、がん患者とその近親者、がん治療に関する研究団体への寄付を目的としたチャリティバイク(自転車)イベント「Continent 2 Continent 4 Cancer」(以下、C2C4C)を世界規模で実施している。
「チャリティ」と聞くと、漠然と「社会に良いこと」というイメージが頭の中で膨らむが、継続的な支援には、支援側にもエネルギーを与えるような仕組みが欠かせない。
同社では、いかにしてこれほどまでに大きなプロジェクトを続けてこられたのだろうか。また、何が社員の心を突き動かし、約1,800kmという長距離を走る決断をさせているのだろうか。
「息を切らす坂道も、必死でブレーキを握りしめる急な下り坂も、気が遠くなるほどの道のりも、きっとがんとの闘いに比べたら遠く及びません。それでも、少しでも近しい視点に立てるように、同じ靴を履きにいこうというプロジェクトです」
そう話すのは、同社の林 ホルム由実子さん。さらに、林さんと今年のチームリーダーを務めるギルボ クレマンさんにも話を聞いた。
少しでも近い視点を。患者と「同じ靴」を履きにいく

ブリストル マイヤーズ スクイブ
─── C2C4Cはチャリティバイクを通じた活動ですが、そもそもがん治療とチャリティバイクには、どのようなつながりがあるのでしょうか?
林さん(以下、林):がん治療が中長期になる場合、治療薬の副作用や再発の可能性など、多くの困難と忍耐強く闘うことがあります。
一人ひとりの異なる闘病をジャーニー(旅路)と捉えたときに、途方もない距離に負けずに進み続ける競技であるロードバイクを通じて募金を呼びかけることが、1つの支援の形になると考えました。C2C4Cはアメリカ本社の社員が有志で2014年に始めた活動で、1回目は東海岸から西海岸へアメリカ全土を横断しました。この「岸から岸へ」(coast to coast)というコースが、C2Cの名前の由来になっています。
この活動は現在、岸から岸ではなく「大陸から大陸へ」(continent to continent)へという形で他の地域に広がり、日本支社では2020年から活動を開始しています。当時はコロナ禍真っただ中でいろいろと制限があったこともあり、従来の計画通りのコースを走ることができず、地団駄を踏むようなスタートでした。2025年からは日本の社員を中心に、中国、韓国、シンガポール、オーストラリアの選手も日本のC2C4Cに参加し、規模が大きくなりました。

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─── 製薬会社というと、技術や研究成果で患者をサポートするというイメージが先行しますが、C2C4Cは心の面からも寄り添い、エンパワーする取り組みなんですね。
林:確かに「寄り添う」や「伴走」という気持ちもありますが、「同じ靴を履きにいく」という感覚により近いかもしれません。罹患していない私たちライダーは、どれだけ歩み寄っても患者さんと同じ痛みを知ることはできません。その限界を理解した上で、少しでも近しい視点に立てるようにする取り組みです。
これはどんな仕事にも言えることですが、働いていると、どうしても単なる「仕事」になってしまうことがありますよね。私たちがなぜ、どのような人のために、どのような社会の実現のために働いているのかに立ち返るためにも、とても大切なことです。
そして、ライダーたちの姿を見て、その想いに共感してくださった方々から寄付をしていただき、そのすべてを当社を経由せずに直接、がんの患者さんや近親者、そしてがん研究団体の支援に充てます。寄付先は各国で毎年、グローバルで審議・決定されます。今年は、2025年に続き、がん患者さんにさまざまな支援をするサポートセンターである認定NPO法人「マギーズ東京」さんに寄付させていただく予定です。
社長も若手も、肩を並べて仲間に。「仕組み」と「独自の社内文化」で生む熱量

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─── クレマンさんは今年、ライダーとしてリーダーを務めているそうですね。仕事と両立しながら本格的なコースの完走を目指すために、チームとしてどのような練習をしているのでしょうか。
クレマンさん(以下、クレマン):5月頃から参加募集をして、その後、各々の個人練習やチーム練習、週末の坂道特訓などを通じて、少しずつ体づくりをしていきます。6月末には70kmをチームで完走し、みんなで順調に体力づくりを進めています。
ライダーの中にはスポーツ経験がほとんどない人やバイクに初めて乗るという人もいるので、過去にライダーをしたボランティア社員やリーダーが「強者(つわもの)ライダー」として全体をサポートし、体調管理はもちろん、精神的にも誰1人として置いていかないチームづくりを大切にしています。私自身も去年C2C4Cに初参加して、そのときに初めて本格的なロードバイクに乗ったんですよ。
─── スポーティーな一部の社員が参加しているものだと思っていたのですが、初心者の方もいるんですね。
クレマン:はい。身近にがん患者さんがいたり、ご自身がサバイバーだったりという社員もいるので、それぞれに想いがあって、中には「走り切れるか自信がないけど…」と勇気を出して参加してくれている人もいます。また、製薬会社は意外と患者さんとの直接のタッチポイントが少ないので、「仕事とは違う形で何かしたい」と手を挙げてくれている人もいますね。
一方で、体力や健康、家庭の事情などで「ライダーとして参加したいけれど、どうしてもできない」という人もいます。こうした声をすくい上げるという意味でも、社内広報や募金の呼びかけ、お守りづくりなど、参加の仕方が多様にあり、誰も蚊帳の外にしないことも魅力だと感じています。今年は若手の社員が、ライド前のウォーミングアップのために踊るダンスの朝練を開催していて、ライダーとしては参加できない社員の一部も「これなら参加できる」と一緒になって踊っています。そうした活動に参加することでイベントとしての士気が高まりますし、社員の参加や応援の輪が広がることで、会社としても寄付を上乗せするなど、活動を後押しする文化が生まれてきています。
─── ダンスをして仕事をして、退勤後や週末は練習…。高い熱量がひしひしと伝わってきます。主体的に輪を広げる社員に呼応するように、会社自体も活動を本気で応援する流れが自然と生まれているんですね。
林:本当にここまでやる企業は、あまり見たことがないと自分たちでも思いますね(笑)。これだけの盛り上がりが実現している背景には、中枢に据えた「取り組みを通じて募金を集めたい」という想いに加え、組織や日々の業務にもメリットがあるからだと感じています。
私とクレマンもそうですが、普段は社内で話す機会のない人同士がつながったり、同僚の今まで知らなかった顔が見えたりすることは、日々の業務への愛着や誇り、そして会社への帰属意識にもつながります。また、練習時間を確保するために仕事の仕方を工夫することになるので、結果として業務の生産性の向上にもつながっています。

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林:C2C4Cでは、縦の関係をある程度取り払うことができることにも、大きな魅力を感じています。例えば、去年は研究・開発のトップや代表取締役も参加していますが、このプロジェクトの中では上司も若手もなく、単なる仲間になります。部署も年齢も経歴も違う者同士が、坂道で後ろから背中を押し合ったり、練習の悩みや不安がないか気にかけ合ったり、それこそダンス練習会を開催してくれたり、そして目標達成後にはぎゅっとハグをしたり…。
実はエグゼクティブ層から少なくとも2人ほどに参加してもらうよう「今年はどうですか?」と声掛けをしているのですが(笑)、役職に関係なく同じチームの一員として参加することで、この活動が組織にとっても意義深い取り組みであることを実感しています。
─── 仕組み化と自然発生的な文化が、ここでも呼応し合っているんですね。
林:そうとも言えそうですね。私たちを含め、みんな誇りを持って参加していることは間違いありません。
ペダルを漕ぎながら考え、感じること

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─── ここまでC2C4Cの取り組みや社内の様子について聞いてきましたが、参加者としてのお二人の思い出や印象的だった出来事はありますか?
クレマン:はい。私が今年リーダーをやろうと決めた理由の1つは、去年のリーダーに心を突き動かされたことなんです。初心者から経験者までいる多様なチームなので、実は一緒にスタートしても途中で二分してしまうことも珍しくありません。しかし、去年のリーダーは「どうにかお互いに調整し合って、物理的にも1つのチームのままゴールしよう」と提案し、実現まで導いてくれました。さっきの「より近い視点」という話にも通じますが、C2C4Cにはやはり「できる限り近くで」という想いが常にあると思うので、今年も“1つ”のチームとしてゴールを目指したいと思っています。
林:クレマンと同じく、走っている最中でのコミュニケーションは印象に残っているものが多いですね。例えば、ユニフォームの背中に「自分はこの人のために走ります」と個人の名前を書いて走るメンバーもいます。名前を背負ったライダーが「もう無理かも」と息を切らしていると、リーダーや仲間が「〜さんが見ていますよ」「〜さんは誇りに思ってくれていますよ」と励ましてくれるんです。走っていると前を走るメンバーの背中に書かれた名前も見えて、とても力が湧いてきます。

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林:ドイツの小児がん患者の子どもたちから託された、絵の描いてある石も、大きな力をくれるお守りです。欧州で開催されたC2C4Cに「自分たちは旅ができないから、この石にたくさんの景色を見せてあげて」と託されたものが、日本にバトンとしてつながれたものです。行く先々で一緒に写真を撮って子どもたちに送ることも、ライド中の楽しみです。とても小さくて軽いけれど、大変に重みのある石です。
─── 道中でも、常に目的が自然とリマインドされるんですね。
林:はい。やっぱり自分を限界まで追い込んでペダルを漕いでいると、最後に頭に浮かぶのは「この想いが届きますように」「あの人が元気になりますように」「あの人が笑顔でありますように」という祈りのような想いです。
息を切らす坂道も、必死でブレーキを握りしめる急な下り坂も、気が遠くなるような山脈も、きっとがんとの闘いに比べたら遠く及びません。後から写真を見て「こんなにきれいな大自然の中を走っていたんだ」と驚いてしまうほど、ひたすらに仲間と祈りながら進んでいく。その時間がこの取り組みの本質なのかなと思います。

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─── 最後に、C2C4Cの取り組みを今後、どのように成長させていきたいかを教えてください。
クレマン:この取り組みを社外でも広く知っていただきたいです。ライダーやリーダーとしての参加に加えて、広報やプロモーションの観点からも取り組みの波及に引き続き注力し、企業にとどまらない大きなインパクトを目指せればと思います。この記事の読者の皆様にも関わっていただけたら、とても嬉しいです。
林:約1,400人の日本支社社員の全員が、何らかの形でC2C4Cに関わり、みんなで「同じ靴を履く」姿勢を作っていけたらいいなと思います。また、私たちが扱う領域はがんの患者さんだけではないので、がん以外の患者さんやそのご家族に対しても、「同じ靴を履く」姿勢を持てる会社、ひいては一人ひとりでありたいです。
「Continent 2 Continent 4 Cancer」(C2C4C)へのご寄付はこちら
受付期間:2026年6月12日(金)~11月4日(水)

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