抜毛症は本当に「嫌な気分を和らげるため」に起こるのか
抜毛症(Trichotillomania:TTM)は、自分の毛を繰り返し抜いてしまい、脱毛や心理的な苦痛、生活上の支障につながる疾患です。
これまで抜毛症を説明する有力な考え方の1つに、「嫌な感情を和らげるために髪を抜く」というものがありました。
たとえば、不安や緊張、イライラが高まったときに髪を抜き、それによって一時的に気分が楽になるという仕組みです。
実際、過去の研究では、緊張や不安などが抜毛の前に現れ、抜いた後に安心感や快感が生じるケースも報告されています。
しかし、すべての人がこのパターンに当てはまるわけではありません。
退屈しているときに抜く人や、別のことをしながらほとんど無意識に抜いてしまう人もいます。
そのため現在の診断基準では、以前重視されていた「抜く前の緊張」や「抜いた後の安心感」は必須条件ではなくなっています。
さらに、これまでの研究の多くは、「過去数週間にどんな気分で髪を抜いたか」を後から思い出してもらう方法に頼っていました。
しかし、一瞬一瞬変化する感情や衝動を、後から正確に思い出すのは簡単ではありません。
そこで研究チームは、参加者の日常生活の中で、そのときの状態を繰り返し記録する「生態学的瞬間評価」という方法を使いました。
対象となったのは、抜毛症と診断された成人61人です。
参加者は10日間、午前8時から午後10時までの間に1日7回送られてくる質問に回答しました。
そこでは「今どれくらい髪を抜きたいか」を1から5で評価し、前回の回答以降に実際に髪を抜いたかどうかも報告します。
さらに、不安、怒り、悲しみなどのネガティブ感情に加えて、ポジティブ感情、退屈、疲労、嫌なことを繰り返し考える「反すう」も記録しました。
その結果、実際の抜毛を最も安定して予測していたのは、やはり「髪を抜きたい」という衝動の強さでした。
しかし感情や心身の状態に注目すると、「退屈」と「疲労」がそれぞれ異なる形で、その後の抜毛や衝動と関係していたのです。
より詳しい結果を次項で見ていきます。






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