少子化やそれに伴う移民政策、若者の政治参加や投票率ーー。
日本と韓国では様々な状況は違っても、両国が抱える共通の社会課題が多くある。
取材での経験などをもとに、ハフポストコリアと日本版の記者が、両国共通の社会課題について共に考える連載をスタートする。
連載第1回のテーマは、「ペンライト」デモ。
2024年末に韓国の大統領退陣要求デモで象徴的存在となった、ペンライトを使った抗議は、2026年3月、日本にも広がり、国会前で2万人を超える人々がペンライトを手に、戦争や改憲に反対の声を上げた。
現場を取材したハフポスト日本版記者の冨田すみれ子と、ハフポストコリアのチョ・ジャンウ記者が互いにメールで質問を交わしながら、両国のデモの歴史や声をあげる文化、市民の政治参加について考えた。
韓国から日本に広がった「ペンライト」のデモ

AFP=時事通信(左)、Sumireko Tomita/ HuffPost Japan(右)
チョ: 冨田記者は東京で、ペンライトを用いたデモを複数回取材されており、ハフポストコリアでも冨田さん執筆の取材記事を韓国語に翻訳して掲載しました。現場ではどのような声を聞きましたか。
冨田:1、2万人という多くの人々が集う大規模な「ペンライト」デモが開催され始めたのは3月で、アメリカとイスラエルによる2月末のイラン攻撃後、日本が戦争に加担してしまうのではないかという危機感が高まっていました。
デモで掲げられたプラカードには「戦争反対」、「過去から学べ」との言葉が並び、憲法第9条の改正に反対するシュプレヒコールが繰り返されました。デモでは、日本が再び戦争をしてほしくないという人々の切実な願いを感じました。
推しのペンライトを持って集まった若者世代も「平和じゃないと推しも推せないよ」「80年続いた不戦を私たちの世代が守っていくべきだ」と、日本の戦争加担に強く反対していました。

Sumireko Tomita / HuffPost Japan
冨田:日本でいう「ペンライト」は、韓国では「応援棒」と呼びますよね。韓国で始まった「応援棒デモ」が日本にも広がった形ですが、韓国ではこうした動きをどのように受け止めているのでしょうか。
チョ: 韓国では、日本のペンライトデモを好意的に受け止める声があります。特に、韓国の応援棒デモが他国の市民による政治的な意思表示にも影響を与えたという点に、意義を感じている人たちもいるようです。
私の周囲には、日本は全体的に保守的な政治傾向が強い国だと考えている知人もいるため、日本でペンライトデモが行われたことに驚く反応もありました。
また、こうした動きが日本にとって政治的な変化のきっかけになるのではないか、という声も聞かれました。
Xでは、「韓国のろうそくデモに影響を受けたという点が興味深い」、「日本の人たちの闘いを応援します!」などの投稿が見受けられました。
チョ: ペンライトを使った今回のデモは、 従来のデモと比べて、どのような違いがありましたか。特に若い世代や、これまで政治的なデモに参加したことのなかった人たちが、どのような反応を示したのか伺いたいです。
冨田: 憲法9条を変えようという与党・自民党の動きは長く続いており、9条改正反対の反戦運動は何十年と続いてきた運動です。
今回のデモでは、市民グループ「WE WANT OUR FUTURE」などの呼びかけに対し、ペンライトを持って集まった多くの若者たちが目立ちましたが、そこに、憲法改正反対運動を地道に継続してきた平和団体などに属する高齢層も加わり、さらに多様な人たちが集まるデモになったのだと感じました。

Sumireko Tomita / HuffPost Japan
記者の仕事を始めて11年間、様々なデモを取材してきましたが、参加者は普段から団体などで活動している人たちが多かったと思います。今回は、1人で訪れる、仕事帰りの20〜30代の会社員なども取材しました。
多くの若者がペンライトを手に声を上げている姿をSNSを通してみた人たちが、政治への危機感と共に「これなら私も参加できそう」と思い、これまでデモに参加したことがなかった層が足を運ぶきっかけになったのではないかと思います。デモの参加人数は、回数を重ねるごとに増えていっていました。
「ペンライト」の特性から、デモが夜に行われたことからも、平日夜でも仕事帰りに、働いている若年層が多く参加できたのだと思います。
韓国で市民が街頭に立つ理由と歴史

AFP=時事通信
冨田: 2024年12月、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の退陣を求める応援棒デモが行われていた際、現場はどのような雰囲気だったのでしょうか。K-POPや応援棒を取り入れた新しいデモのスタイルは、若い世代や、これまでデモに参加したことがなかった人たちの政治参加を広げたと思いますか。チョ記者や、周囲のご友人の経験についても伺いたいです。
チョ: 2024年12月の戒厳令宣布以降、韓国のデモでは、それまでとは異なる光景が見られるようになりました。市民たちは色とりどりの応援棒を手に、K-POPの音楽に合わせて歌いながら、尹錫悦前大統領の退陣を求めました。
韓国では以前から、集会で歌を歌ったり、文化的なパフォーマンスが行われたりすることはありました。しかし、今回はK-POPのファンダム文化がデモの現場に本格的に取り入れられたことが、大きな特徴だったと思います。
こうしたスタイルは、若い世代が政治的な意思を表明する際に感じる心理的なハードルを下げる上で、一定の役割を果たしたと考えています。普段は政治的な集会になじみのない人たちも、親しみのある音楽や応援棒を通じて、自然な形でデモに参加できたからです。
ただし、応援棒が登場したから市民がデモに参加した、というだけでは説明できません。戒厳令宣布という重大な政治的事件に対する怒りと、民主主義を守らなければならないという危機感こそが、市民を街頭へと向かわせた根本的な原動力だったと思います。
私自身の経験をお話しすると、周囲には弁護士の知人が多く、当時は非常戒厳の違法性について法的な検討を行い、周囲の人たちに応援棒デモへの参加を呼びかける動きもありました。

Sumireko Tomita/ HuffPost Japan
冨田: 私も昨年3月、釜山で尹錫悦前大統領の罷免を求めるデモを目にしました。若者たちがK-POPの音楽に合わせて旗を掲げ、行進する姿が印象的でした。韓国では、こうしたデモ文化はどのように形成されてきたのでしょうか。
チョ: 韓国の現代史には、市民による街頭デモが実際の政治的な変化につながった経験が積み重なっています。
1960年の「4・19革命」は李承晩(イ・スンマン)政権の崩壊につながり、1987年の「6月民主抗争」は大統領直接選挙制の導入をもたらしました。2016〜2017年の「ろうそく集会」も、朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾に至る過程で重要な役割を果たしました。
こうした経験を通じて、街頭で声を上げることが政治を変える力になるという認識が根付いてきたのだと思います。
もちろん、政治的な立場によって集会が二極化するという問題もあります。それでも、デモは民主主義を実践するための一つの手段だという認識は、比較的広く共有されていると思います。
日本の市民にとってのデモは

Sumireko Tomita / HuffPost Japan
チョ: 韓国では、大規模な街頭デモが大統領の弾劾や政治制度の変化につながった経験があります。一方、日本では、街頭デモによって実際に政治を変えられるという認識が、韓国と比べるとそれほど強くないようにも感じられます。
日本の市民、特に若者は、デモに参加することをどのように捉えているのでしょうか。また、街頭で政治的な意思を表明することに、心理的な抵抗やためらいを感じるような雰囲気はあるのでしょうか。
冨田:デモへの参加が活発な国々と比較すると、日本では、街頭で政治的な意思を表明することに抵抗やためらいを感じる人がまだ大半だと思います。
5年前の調査ではありますが、連合が15〜29歳1500人に対し、2021年12月に実施した社会運動に関するオンライン調査では、参加したくない社会運動のトップとして「集会やデモ、マーチ、パレードなど」(46.8%)があげられ、多くの若者が忌避感を抱いている状況が見受けられます。
おっしゃる通り、街頭デモで政治を変えられるという認識は、韓国と比べると低いと思います。さらに言うと、何かしらの自分のアクションが政治を変えられると考える若者も少ないようです。
日本財団が2026年2月に、6カ国の18歳を対象に実施した意識調査では、「わたしの行動で国や社会を変えられる」と回答した人は、日本では52.7%で約半数にとどまり、7カ国中最低でした。韓国は日本と比べて8.1ポイント高く60.8%でした。
選挙での投票行動が政治を変えられると考える若年層も少ないようで、日本財団の2025年5月のオンライン調査によると、自分の投票が政治に影響を与えると答えたのは計40.8%にとどまり、計31%は影響を与えないとしていました。
このような考え方が、日本での若者の投票率の低さに繋がっていると見られます。
政治について普段の会話で語ることはタブーとされることも少なくなく、周りにどう思われるかと気にする人も多いと思います。
昭和、平成、令和。日本でも移りゆく、新しいデモの形

Sumireko Tomita / HuffPost Japan
チョ: 日本でも1960年の安保闘争や1968年の全共闘運動など、大規模な抵抗運動がありました。しかし、その後、学生運動の影響力は弱まっていきましたね。背景についてどう考えますか。現在の日本のデモ文化にも何らかの影響を与えているのでしょうか。
冨田: 今の若者世代は当時の学生運動についてはあまり知らない世代なので、影響はそこまで大きくはないと思いますが、日本社会全体として、デモを敬遠する風潮にはまだ影響があるのではないかと感じます。
前出の連合の調査では、若者が社会運動に参加しない理由として「顔や名前が出てしまうことに抵抗がある」(22.2%)や「知識が足りない」(21.6%)が多い一方で、「運動自体に怖い、過激などのイメージがあるから」(17.6%)という声もありました。
1990年代中盤〜2010年代は、社会課題に強い関心を持ち「社会を変えたい」と思う学生が取るアクションは、デモではなく、「ボランティア」や「学生団体」での活動が増えたのではないかと思います。
1995年は「ボランティア元年」とも言われ、同年1月に発生した阪神・淡路大震災をきっかけに、ボランティア活動が日本国内で一気に広がりました。2011年3月には東日本大震災が発生し、東北の被災地には、全国各地から学生ボランティアが集まりました。私もその1人でした。
私が大学に通った2011〜2015年当時、大学内には、様々なボランティアサークルや学生団体があり、社会課題に強い関心を持つ学生たちが活発に活動していました。
一方で2014〜2016年には、大学生たちによる新しいデモの動きもありました。
特定秘密保護法に反対する「SASPL」や、その中心メンバーが発足させ、安全保障関連法や憲法改正に反対する活動を展開した「SEALDs」などは、デザイン性が高いプラカードなどを掲げ、ヒップホップやラップミュージックを鳴らしたデモ抗議をYouTubeで生配信、SNSで発信し、デジタルネイティブ世代ならではの新しい「声を上げる形」を見せました。
チョ:最近、日本では、ペンライトだけでない様々な形の新しいデモも登場していると聞きました。新しい市民運動の可能性を示しているのでしょうか。
冨田: はい。日本では、ピクニックデモや読書デモ、サイレントデモ、レイヴのような形の抗議であるサウンドデモなど、新しい形の集会が開かれています。
トラックにDJブースを乗せたサウンドデモは、2000年代から反戦デモや反原発デモなどで行われてきましたが、最近では新宿駅前など人通りが多い広場で「レイヴ」のようにプロテストをする形も行われています。
一方、ピクニックデモや読書デモは、通常のデモのようにシュプレヒコールを叫ぶことはなく、プラカードだけ掲げ、ピクニックや読書をして、静かに抗議するスタイルです。実際にデモで声を出すことにはまだ少し抵抗感がある人や、そのようなスタイルの抗議を好まない人も、気軽に参加できる集まりです。
新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年頃からは、飛沫を飛ばさないように考慮し、黙ってプラカードを掲げるサイレントデモも広がりました。現在も、駅前でプラカードを持って1人や少人数から始められる、「スタンディングデモ」が各地で行われています。
ペンライトデモでも、必ずしもシュプレヒコールを叫ぶ必要はありませんでした。静かにペンライトを掲げているだけの人もいました。ペンライトを持って「光の一つ」となることが、すでに意思表示の一つだったのです。
街頭の熱気は投票所へとつながるのか
冨田: 日本では、特に若い世代の投票率の低さが長年にわたり問題視されてきました。一方、韓国では大統領選挙や地方選挙などで高い投票率を記録しています。韓国の市民が積極的に選挙に参加する背景には、どのような要因があるとお考えですか。
チョ: 韓国では、選挙を通じて政治的な変化を生み出すことができるという期待が、比較的強いのではないかと思います。
特に大統領選挙は、その後5年間の国政運営の方向性を決めるため、有権者の関心が集中します。政治的な対立が激しくなるほど、投票への参加を呼びかける動きも強まる傾向があります。
韓国の市民は、1987年の民主化運動を通じて大統領直接選挙制を勝ち取り、その後も選挙による政権交代を繰り返し経験してきました。こうした歴史的な経験が、投票は政治的な変化を生み出す実効的な手段であるという認識を強めてきたのだと思います。
ただし、投票率が高いことが、必ずしも健全な政治参加を意味するわけではありません。対立する政治勢力への反感や、政治的な危機感が投票の動機になることもあるからです。
また、大統領選挙と地方選挙では投票率にかなりの差があり、若い世代と高齢層とでは政治参加のあり方も異なります。そのため、韓国の政治参加文化を単に投票率の高さだけで評価することは難しいと思います。
重要なのは、選挙が終わった後も、市民が政治に関心を持ち続け、公共的な意思決定に参加できる環境を整えることだと考えています。

AFP=時事通信
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今回の連載は、東京での「ペンライト」デモの日本版の取材記事が、ハフポストコリアで翻訳され、掲載されたことをきっかけに始まった。
海を渡った、ペンライトを手に声を上げるというデモについて、韓国の人たちはどう感じているのだろう。デモ文化と民主主義、投票による政治への参加は、どのように影響しあい、社会を良い方向へと変えていけるのかーー。現場でデモを取材しながら抱いたそんな疑問を今回、韓国の記者と共に考えることができた。
異なる歴史背景や民主主義の実現をたどってきた日韓両国では、状況が異なる点もあれば、互いに学び、活かしていける点もあると改めて感じた。
次回の連載では、日韓両国が直面する「少子化」の問題と、それに対する両政府の対応、若者たちの受け止めについて取り上げる。
(文=ハフポストコリア/チョ・ジャンウ、ハフポスト日本版/冨田すみれ子)

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