「進次郎政権の誕生に力を貸して」と懇願か?石破の退陣表明前日「菅と進次郎の公邸訪問」に隠された“真の目的”

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首相続投に並々ならぬ意欲を見せ続けたものの、9月7日になり突如それまでの姿勢を翻した石破茂氏。その裏にはどのような「思惑」が交錯していたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、退陣表明前日の菅義偉元首相と小泉進次郎農水相の首相公邸訪問にフォーカスし、石破氏が身を引く覚悟に至った経緯を推測。その上で、トップのすげ替えだけでは自民党の再生などありえないと論じています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:総理候補・進次郎に“退陣要求”を突きつけられた石破の複雑な思い

目に浮かぶ「腹の内」を探り合う二人の姿。総理候補・進次郎に“退陣要求”を突きつけられた石破の複雑な思い

しぶとく「続投」姿勢を持続していた石破首相がようやく退陣を表明したのは、自民党の総裁選を前倒しするかどうかのとりまとめを翌日に控えた9月7日の夕刻である。

「私は自民党総裁の職を辞することとした。そのため臨時総裁選挙の手続きを実施するよう森山幹事長に伝えた。したがって、臨時総裁選の要求手続きを行う必要性はありません」

「総裁選の要求手続きを行う必要性はない」という異例の冒頭発言がすべてを物語っていた。石破首相は前倒し要求が半数を超え、総裁選に突入するのは必至と見て、それに先んじて手を打つ決断をしたのだ。

腹を固めたのはその前夜。午後8時過ぎ、首相公邸に菅義偉副総裁と小泉進次郎農水大臣が訪ねてきた。二人の目的は明らかだった。石破首相に自ら身を引いてもらうことだ。そのための大義名分は「党の亀裂は避けなければならない」(菅氏)だった。

朝日新聞の記事によると、菅氏は、党分裂の危機感を抱いた小泉氏に「菅さんから総理に伝えてください」と相談され、「それなら一緒に行こう」と誘って公邸に向かった。

石破首相と会い、菅氏は30分ほどで辞去したが、小泉氏はその後1時間半にわたって話し込んだ。小泉氏は「何とか署名投票を回避できるよう決断してください」「8日に投票が始まれば、党内で色分けが進んでしまう。するべきじゃない」と語ったとされる。

むろんこれは、記者が周辺取材からつかんだ断片にすぎない。おそらく、もっと生々しいやりとりがあったはずである。なぜなら、小泉氏は最も後継総理の座に近い存在と目されており、総裁選への意欲を隠そうともしていない。その人が、現総理の退陣を促しているのである。

しかも、小泉氏を残して公邸を去った菅氏は、昨年の総裁選で小泉氏を支援したものの、高市vs石破の決選投票では石破側につき、党副総裁として政権の重石となってきた。石破首相にとっては決して軽視できない存在だ。

総理の座をめざす小泉氏とすれば、巷間うわさが絶えない石破首相による衆議院解散だけは避けなければならなかった。総選挙になれば、参政党や国民民主党がさらに勢力を伸ばし、自民党は壊滅状態になる恐れがあるからだ。

「解散は首相の専権事項だが、党の一致結束が一番重要だ」。小泉氏はそう語り、石破首相を牽制していた。父、小泉純一郎氏が石破首相と会食したさい、衆院を解散して“反石破”の候補者に刺客を立てるよう、そそのかしていたかのように一部で報じられたが、あまりいい気分ではなかっただろう。

だが、同じ“変人”でも小泉純一郎氏と石破首相はまるで違う。ケレン味の全くない石破首相に純一郎流の技は繰り出せまい。そうは思っても、追い詰められた石破首相が解散に踏み切らないという保証もない。その前に、「続投」断念の心境に誘導する必要があった。

小泉氏はこう思っているだろう。自公体制が弱体化しつつあるとはいえ、今の議席数であれば、野党の一部を連立に引き入れることで、まだ政権は保てるはずである。

石破が恐れた「寄ってたかって引きずり下ろされる」絵柄

小泉氏の頭にあるのは当然、日本維新の会だ。吉村代表と仲が良く、維新の内部から「進次郎総理なら連立できる」という“ラブコール”すら聞こえてきている。後ろ盾の菅氏にしても、維新の創設者である橋下徹氏や松井一郎氏と定期的に会食するなど、親交が続いている。

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二人の首相公邸訪問は、“進次郎政権”の誕生に力を貸してほしいというのが、隠された趣旨といえるかもしれない。

もちろん、小泉氏が総裁選に出馬したいなどと、あからさまに言うわけがない。自分は新総裁の座を狙うが、あなたは退陣してくださいというのではあまりにも厚かましい。一方、石破首相は総裁選に出たいという小泉氏の意欲について、その場であえて触れはしないまでも、痛いほど感じてはいただろう。複雑な心境が推し測られる。

だが、あれほど自信満々に「続投」を宣言したのがアダとなり、引っ込みがつかなくなっていたのが石破首相だ。このまま「続投」にこだわったら、地位に恋々とするのを寄ってたかって引きずり下ろされる絵柄になってしまう恐れがあった。それでは男の意地が廃る。総理の名に傷がつくのを避けるためにも、ここは自ら退陣を表明し菅氏と小泉氏の話に乗るのが、今後の政治活動のうえでも得策と、石破首相は考えたのではないだろうか。

菅氏が言い残して行った「党の分裂危機を回避するために身を引く」という文言は、なるほど“党総裁”を辞める大義名分になりうる。あとは、“総理”辞任の理由を考えるだけだが、これも「米国との関税交渉に一つの区切りがついたから」とすれば、過去の経緯からみて不自然ではない。

小泉氏がどのような話をしたかについて、石破首相は辞任表明会見のなかでこう語っている。

「会話の内容は、ここでお話をすべきことだと私は思っておりません。小泉農林水産大臣は積極的に発言をしたわけではありませんが、いろいろな発言は、示唆もあったということに尽きます」

口数少なく、示唆に富んだ進次郎発言。なかなか意味深な言い回しである。腹の内を探り合う二人の姿が目に浮かぶようだ。

かくして、衆院選、東京都議選、参院選と三連敗しながら政権に執着し続けた石破首相の“闘争”は終結した。党内の反石破勢力がまとまりを欠き、内閣支持率が上昇するなど、一時は「続投」の思惑通りに進んでいるかに見えたが、総裁選前倒しを求める方法が決まった8月27日以降、状況が逆流しはじめた。

「臨時総裁選を要求する者は署名・捺印して9月8日に党本部に持参すること」という取り決めは、党内に激しい動揺と反発をもたらした。要求書に署名し、メディアを通じて世間に名前が公表される。それは「造反」の烙印にもなりかねない。当初は、総裁選前倒しへの動きが鈍るかと思われた。

だが、現実はまったく逆だった。前倒しに賛成の者だけが要求書を出し、反対の場合は何もしなくてよいのである。何もしなければ、運動として盛り上がるわけがない。賛成者だけが旧派閥や当選同期の議員に声をかけて積極的に会合を開き、同調圧力によって“票”を固めていく。前倒しへの機運が高まるのは自然の理だ。

石破首相の思惑は外れ、頼りとする森山裕幹事長ら党4役は辞意を表明した。進退の判断を委ねられた石破首相は完全に行き詰った状況に陥っていた。その意味で、菅氏と小泉氏の進言は“渡りに船”だったといえるかもしれない。

根本的なあり方を変えぬ限り未来はない「芯」の抜けた自民

さて、10月4日投票で自民党総裁選が行われることになった。側近議員に署名活動をさせていた茂木敏充・前幹事長は、いち早く名乗りをあげた。小泉氏は石破氏への気遣いから、少し出馬表明が遅くなるかもしれない。小泉氏と並んで有力とみられる高市早苗氏も間違いなく舞台に登場するだろう。

ただし、しつこく言うようだが、トップの顔だけすげ替えても、自民党の根本的な体質が変わらない限り、党の再生にはつながらない。

小選挙区比例代表並立制の導入から30余年。テレビやSNSを通じた「全国的な人気」が票を左右するようになり、地元への利益誘導で支持を固める「地方ボス型」の政治家が中核をなしていた時代はとうに過ぎ去った。自民党はいわば“芯”が抜けた状態であり、根本的なあり方を変革しない限り未来はない。

にもかかわらず、党改革といっても中途半端なままで、つまるところ選挙のために総理・総裁を変えるしか手段を見い出せない。そして、総裁選というコップの中の政治ショーを飽きもせずに繰り返すのが関の山。それが自民党の残念な現状なのである。

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