昨年の衆院選に続く今夏の参院選惨敗を受け、自民党内で高まるばかりの「石破おろし」の声。その舞台裏ではどのような動きが展開されているのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、出馬が取り沙汰されている小泉進次郎、高市早苗、茂木敏充各氏の思惑と彼らを取り巻く状況を解説。その上で、「党内から上がりかねない意見」を推測しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:総裁選をやっても「無力政権」が続くだけ。維新との連立だけが頼みか
続くだけの「無力政権」。誰が総裁になっても戻らぬ強い自民党の時代
石破首相の「続投」姿勢は相変わらずだ。不思議なことに、このところの世論調査では内閣支持率が上昇傾向、「続投」を容認する声も増えている。
主要野党の党首たちは参院選の結果を踏まえ、石破自民との連立はないと明言するが、それなら壊滅させたいかというとそうでもない。立憲民主党の野田代表のように、これまでの「対決」から「解決」路線へと転じ、石破政権の延命に手を貸そうとする動きさえ見られる。
そんな流れに逆らうように、自民党内では「石破おろし」が佳境を迎え、いよいよ自民党総裁選が行われそうな雲行きになってきた。
8月8日に開かれた自民党の両院議員総会で、総裁選の前倒しをするかどうかの判定を総裁選挙管理委員会に一任することが決まり、開催の条件である「党所属の国会議員と都道府県連代表各1名の総数の過半数の要求」が満たされる可能性が高いとみられるからだ。
だが、衆参両院で少数与党に転落した自公政権の実体は、野党の協力なしには予算も法案も通せない“政治空白”そのものである。「ポスト石破」の候補者と目される人々にとって、そのトップの座が魅力的であるとは、とうてい思えない。
むろん、自分が総理・総裁になったら、すぐに衆院を解散して総選挙を行い、衆院だけでも多数を取り返すと蛮勇をふるう人物もいるかもしれないが、客観情勢から見て、参政党のさらなる大躍進を許し、保守の分裂、多党化がさらに進むのがオチだろう。
にもかかわらず、彼らは危急存亡の境にある自民党の救世主として過大な期待を背負わされている。ここで立たなければ、見限られるのではないかというプレッシャーから、総裁選へ向けて動かざるを得なくなっているようにも思える。まずは、メディアの関連記事を見てみよう。
小泉進次郎農林水産相が石破茂首相(自民党総裁)への退陣圧力が強まる中、ジレンマに直面している。高市早苗前経済安全保障担当相や茂木敏充前幹事長ら他の「ポスト石破」候補が水面下で動き出す一方で、閣内にいる小泉氏は静観せざるを得ない立場だ。(産経新聞)
多くのメディアは、小泉氏が8月6日に麻生太郎・自民党最高顧問を訪ねたことをもって、総裁選に向けた活動をはじめたように報じているが、この記事では「静観」の構え、である。農水大臣である小泉氏が、石破首相に気を遣い、動きにくいのは確かだろう。
岩盤保守層や右派論客の熱い期待を一身に背負う高市氏
だが、それだけではない。後ろ盾である菅義偉元首相が押しとどめているフシがある。まだ若い進次郎にあえてこの時期に無理させて、傷をつけたくないという“親心”だ。
実際、パフォーマンス先行の進次郎氏は人心掌握が苦手で、国民的人気とは裏腹に、党内における仲間づくりはできていない。自民党の農林部会長時代に部会長代理として支えてくれた福田達夫氏が前回の総裁選で小林鷹之氏を担ぎ、離れていったのも痛手だ。
ただし、菅氏との太いパイプを持つ日本維新の会から、小泉氏が総理なら連立入りできるというような“ラブコール”が送られているのは、プラス材料といえよう。進次郎人気をあてこんで、“小泉総理”による衆院の早期解散を願う動きも出てくるかもしれない。
【関連】橋下徹氏の驚くべき“暴露”。「進次郎総裁なら自民と維新の連立も可能」発言に含まれた重要なメッセージ
一方の高市氏はどうか。察するに、心身ともにつらい状況だろう。脳梗塞で療養中の夫の介護もしなくてはならないが、弱音を吐いてもいられない。安倍元首相の後継者を自任し、“岩盤保守層”や右派論客の熱い期待を一身に背負っている。リベラル色の強い石破自民党を嫌って他党に流れた支持者を取り戻すためにも引くに引けない状況だ。
しかし、高市氏が総裁選に立つとして、前回総裁選のような支援の広がりが期待できるだろうか。高市陣営についた安倍派の面々の多くが裏金問題で落選しており、手勢の不足は否めない。党内基盤がなく、20人の推薦人が集まるかどうかも不透明だ。
このため、高市氏が初の女性総理になるには、どうしても前回総裁選で支援を受けた麻生太郎氏の力を頼むしかない。参院選直後の7月23日に麻生氏のもとを訪ねているが、麻生氏の反応はイマイチだったようだ。石破に勝たせたくないという不純な動機による高市支援だったこともあるが、なにより麻生氏に対し感謝の意を表す“アフターケア”が十分でなかったのが大いに響いているらしい。
むしろ、総裁選に向けた活動が目立つのは、この3人のうち最も存在感の薄い茂木氏だ。参院選直後から、側近の1人、笹川博義衆院議員(旧茂木派)をして総裁選の前倒しをめざす署名活動に奔走させ、集めた数の多さによるプレッシャーで両院議員総会開催を実現させた。
そして、7月26日、茂木氏は自身の動画番組に、同じ派閥の鈴木貴子衆院議員を招いて対談。鈴木氏は滔々と総裁選についての意見を述べた。
自民党には衆院、参院とも有為な人材がいる。フルスペックで党員・党友を巻き込むのではなく、国会議員が次のリーダーを掲げましたと、国民の皆さん、次なる我々に審判を、というのが一番わかりやすい。
全国にいる党員・党友の投票も含めた「フルスペック」の総裁選を実施するのではなく、両院議員総会において国会議員と都道府県連の代表だけで選出する“簡易版”にするべきだというのだ。世間的な人気が低いことを自覚している茂木氏は、派閥的な支持取り込みが可能な国会議員を主体とする総裁選に持ち込みたい。その意向を受けて、鈴木氏が代弁したのだろう。
それにしても、両院議員総会よりかなり前の時点で、茂木氏は総裁選が実施されるものと見込み、総裁選のあり方についての党内世論まで形成しようとしていたのである。尋常ならざる意気込みというほかない。
「怒りっぽく人望がない」だけではない茂木氏の致命的欠点
茂木氏は、形式上解散したとはいえ、かつての最大派閥・田中派の流れをくむ平成研究会のトップであったし、今もなお一定の影響力を有する。頭脳明晰で対外交渉力にも定評がある。ただし、怒りっぽく、人望がない。そしてなにより、世間的な知名度に欠ける。それゆえ「選挙の顔」として疑問符がつけられやすいのが総裁候補としては致命的な欠点だ。
茂木氏自身、よくわかっていることだろう。その自覚のうえで、総理・総裁の座をめざそうというからには、何らかの勝算を胸に秘めているに違いない。
もちろん、茂木氏の見立て通り、総裁選が“簡易版”で行われる場合しか、勝ち目はない。そこで、茂木氏が頼りにするのもまた、ともに岸田政権を支えた盟友、麻生太郎氏ということになる。前回の総裁選で高市氏を支援した麻生氏とは一時的に袂を分かった形になったが、その後も会食を重ねており、両者の間のわだかまりは、ほぼ解消されているとみて間違いない。
言うまでもなく、麻生氏は党内で唯一残っているといわれる派閥「志公会」(麻生派、43人)を率い、キングメーカーとして復活を果たすべく虎視眈々とチャンスをうかがっている。
その麻生氏が岸田政権のころから目をつけていたのが国民民主党の玉木雄一郎代表だ。麻生氏はいざとなれば国民民主を抱き込めばいいと見て、岸田政権における自民党幹事長だった茂木氏とともに玉木代表に何度も接触していた。その経緯からいうと、国民民主との連立をセットにして茂木氏を担ぎ、党内の支持を拡大したいと麻生氏がもくろんでも不思議ではない。
むろん、国民民主との連立をめぐっては、高市氏を総裁にしたほうがぴったりはまるという見方もある。玉木氏と高市氏がともに積極財政推進派だからだろうが、保守色の強い高市氏と組むことを国民の支援組織である連合が容認するとは考えにくい。
だからこそ、茂木氏が「玉木と組めるのは俺だけだ」と豪語しているのだろう。茂木氏は最近、何度も玉木氏を自身の動画番組に招いて対談、「年収103万円の壁」政策の財源などをめぐって意気投合しており、玉木氏との連携にはかなり自信を深めているようだ。
ただし、茂木氏はあくまで自分が総理になることを前提とした都合のいい考え方をしているに違いない。それでは、玉木氏を説得できるわけがない。自民党が総理の座を差し出す決断をしない限り、国民民主との連立は実現しないだろう。
今のところ、連立話にすんなり乗ってきそうなのは、維新くらいのものである。しかし、だからといって、自民党がそのリクエストに応え小泉進次郎総理が誕生するということになれば、菅元首相が危惧する通り、浅知恵、経験不足が露呈してメディアの餌食となり、大事に育てるべき人材を使い捨てすることになりかねない。
誰が新総裁に選ばれるとしても、自民党が危機を脱するための“決め手”にはなりそうもない。ならば、しばらくは石破首相のままでいいという意見も党内から出てくるのではないか。
強い自民党の時代は終わった。総裁が必ず総理になれるとは限らない。なれたとしても、野党に頭を下げて協力を求める立場だ。自民党総裁選という舞台そのものが、もはや権力装置としての輝きを失いつつある。
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