謎めいた「目」が生んだ、風変わりでロマンチックなコレクション 「ラバーズ・アイズ」とは

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(CNN) デビッド・スキア氏と妻のナン氏は、骨董(こっとう)品を物色中、ある「目」に目を留めた。夫妻は、医学会議に出席するために訪れた米ボストンで開催されていたサイクロラマ・アンティーク・ショーで、掘り出し物を探していた。現在は引退している眼科医のデビッド氏は、一日中「目」を診ることには慣れていたが、この「目」はいつも診ている目とは違った。

デビッド氏は、数ある骨董品の中から、物思いにふけっているかのように横を見つめる灰色の瞳を繊細に描いた小さな絵を発見した。その絵は、青いエナメル、ダイヤモンド、真珠で飾られた楕円(だえん)形の指輪の台座に収められていた。夫妻はそれまで、こんな指輪を見たことがなかった。

それから40年。夫妻は「ラバーズ・アイズ」と呼ばれる、宝飾品などの小さな品々に収められた謎めいた目のミニチュアを158点収集した。

ラバーズ・アイズは、ジョージ王朝時代の英国で、愛情や恋慕、哀悼を表す小物として初めて人気を博した。現在では、ロンドンのビクトリア・アンド・アルバート博物館やニューヨークのメトロポリタン美術館など、主要な美術館にも作品が所蔵されている。

しかしスキア夫妻は、自分たちのコレクションこそが世界最大と考えており、これまでそのコレクションを巡回展で公開したほか、書籍も出版しており、来年には新版も刊行される予定だ。

アラバマ州バーミンガムの自宅からビデオ通話で取材に応じたナン・スキア氏は、手を持ち上げて、夫妻のコレクションの最初の品を披露した。それは、ナン氏の人差し指にちょうど合う小さな指輪だった。

「この指輪を買った時、警告と物語もいっしょに付いてきたと2人でよく話している」とナン・スキア氏は語る。夫妻は、故人を追悼するジュエリーなど、珍しい記念品を専門に扱っていた今は亡きニューヨークのディーラー、イーディス・ウェーバー氏からこの指輪を購入した。ウェーバー氏は「ラバーズ・アイズ」という呼称を生み出した人物とされている。

夫妻のコレクションのきっかけとなった「ラバーズ・アイ」の指輪=7月24日、アラバマ州バーミンガムにある夫妻の自宅で/Austin Steele/CNN
夫妻のコレクションのきっかけとなった「ラバーズ・アイ」の指輪=7月24日、アラバマ州バーミンガムにある夫妻の自宅で/Austin Steele/CNN

デビッド・スキアさんとナンさんの夫妻。アラバマ州バーミンガムの自宅で/Austin Steele/CNN
デビッド・スキアさんとナンさんの夫妻。アラバマ州バーミンガムの自宅で/Austin Steele/CNN

スキア夫妻のコレクションは現在158点を数え、巡回展や書籍のベースになってきた/Austin Steele/CNN
スキア夫妻のコレクションは現在158点を数え、巡回展や書籍のベースになってきた/Austin Steele/CNN

その「警告」とは、指輪を着けたまま決して手を洗ってはいけないというものだった。目の絵が洗い流されてしまう可能性があるからだ。

また「物語」の方は、英国王ジョージ4世がまだウェールズ公だった頃、カトリック教徒の平民マリア・フィッツハーバートに深く恋い焦がれていたという話だった。

ジョージ4世は、自分の目を描いた小さな水彩画を贈るなど、マリアに何度も求愛した。そして2人は、正式には認められない形で、秘密裏に結婚した。人生の最期に、ジョージ4世はマリアの目を描いたミニチュアとともに埋葬された。

このロマンチックな行動をきっかけに一大ブームが起こり、1790年頃から1830年頃にかけて、ミニチュア画家たちは、大切な思い出の品として、こうした小さな目のミニチュアを宝飾品に収めるようになった。

スキア夫妻が最初に購入した指輪は1790年ごろのものとされているが、夫妻のほとんどの収集品と同様、この指輪に描かれている目が誰のものなのかは分かっていない。

デビッド・スキア氏は「(目の)モデルが誰なのかは全く知らないが、それもラバーズ・アイズの魅力の一つだ」とし、さらに「これらはもともとモデルが誰か分からない形で作られた」と付け加えた。

スキア夫妻のコレクションには、指輪、ブローチ、ブレスレットなどがあるが、ほかにスティックピン、内側にビロードを張ったケース、財布、ティーカップなども含まれている。中には銘が刻まれているものや、髪の房が収められているものもある。

現存することが確認されている「ラバーズ・リップ(恋人の唇)」はごくわずか。その中には、留め具の下に雲に囲まれた口が隠された、このブレスレットも含まれている(Austin Steele/CNN)

上はジギタリスの花に囲まれた目の肖像画で、モデルはメアリー・サラ・フォックス(右)と見られる。下は最近入手した、家族の肖像画が描かれているとされる涙滴形のペンダント(下)/Austin Steele/CNN
上はジギタリスの花に囲まれた目の肖像画で、モデルはメアリー・サラ・フォックス(右)と見られる。下は最近入手した、家族の肖像画が描かれているとされる涙滴形のペンダント(下)/Austin Steele/CNN

「ラバーズ・アイ」はジョージ王朝時代の英国で流行した。当時、これを制作していた細密画の画家は十数人程度だったが、1890年代前後には宝飾店によって再び脚光を浴びるようになった/ Austin Steele/CNN
「ラバーズ・アイ」はジョージ王朝時代の英国で流行した。当時、これを制作していた細密画の画家は十数人程度だったが、1890年代前後には宝飾店によって再び脚光を浴びるようになった/ Austin Steele/CNN

さらに、特定の品をいっそう珍しいものにするラバーズ・アイズの派生的モチーフも存在する。例えば、目の代わりに唇を描いたものだ。あるブレスレットは、留め具を開くと、ぼんやりとした雲に囲まれた官能的な唇が現れる。

細密画の専門家であるエル・シュシャン氏と、美術史家でバーミンガム美術館の館長を務めるグラハム・ボッチャー氏は、スキア夫妻のコレクションについて助言し、展示にも協力してきた専門家のうちの2人だ。夫妻は、骨董品ディーラーや個人の売り手、オークションを通じて新たな収集品を探している。夫妻は購入価格については明らかにしなかったが、オリジナルのラバーズ・アイズは数千ドルから数万ドルで取引されることもあるという。

ラバーズ・アイズは故人を追悼する肖像であることが多いが、シュシャン氏によると、結婚式や婚約の記念として、あるいは自分を思い出してもらうための品として使われることもあったという。旅行に出ると、何カ月も離れ離れになるためだ。

しかし、ラバーズ・アイズは誰もが贈れるようなものではなかった。写真が登場する以前、細密肖像画の人気は高まっていたが、それでもシュシャン氏の推計によると、目の肖像画を制作していた著名な画家は、ジョージ・エングルハートやリチャード・コズウェイを含め、十数人ほどにすぎなかった。精巧で高価な装飾品の中に収められたラバーズ・アイズは、大多数の人々には手の届かないものだった。

コレクションの一部を眺めるスキア夫妻/Austin Steele/CNN
コレクションの一部を眺めるスキア夫妻/Austin Steele/CNN

茶色の瞳の男性のまなざしが描かれたゴールドリンクのブレスレット。1840年ごろに作られた/Austin Steele/CNN
茶色の瞳の男性のまなざしが描かれたゴールドリンクのブレスレット。1840年ごろに作られた/Austin Steele/CNN

片側に青い目とイニシャル、編み込まれた髪が収められ、反対側には一房の髪が収められた装飾品/Austin Steele/CNN
片側に青い目とイニシャル、編み込まれた髪が収められ、反対側には一房の髪が収められた装飾品/Austin Steele/CNN

「目の肖像画がブームになった頃には、英国ではすでに細密画が300年以上にわたって制作されていた。そして細密画は社会の低階層にまで普及し、肉屋の妻でさえ細密画を持てるようになっていた」とシュシャン氏は説明し、さらに次のように続けた。

「肉屋の妻が持っているのと同じものをデボンシャー公爵夫人が欲しがるとは限らなかった。よって、目の肖像画を最初に始めたのは最高位の貴族たちであり、それが下の階層にも広がり始めたのは1830年代になってからだった」

1890年になると、ラバーズ・アイズは再び流行したが、今度はティファニーなどの大手宝飾店が店内で制作するようになったとシュシャン氏は説明した。社員の細密画家が顧客の目を描いていたが、画家が署名を残すことはなかったため、各作品に関する情報の入手はさらに困難になったという。

スキア夫妻によると、オリジナルのラバーズ・アイズは極めて珍しく、夫妻が新たに入手できるのは年間わずか1、2点だという。

現在、目にするラバーズ・アイズの大半は、偽物や出来の悪いもの、あるいは損傷の激しいものだ、とデビッド・スキア氏は説明する。

ラバーズ・アイズには、水だけでなく日光も危険だ。また偽物も多く、大きな肖像画から目の部分だけを切り取ったものや、レーザープリントした目を安物の台座に収めたものもあるという。

スキア夫妻のコレクションに新たに加わった金のブレスレット。2人の人物を描いた中央の肖像画を含め、さまざまな目の意匠があしらわれており、家族全員の顔が描かれていると考えられている(Austin Steele/CNN)

スキア夫妻が最近コレクションに加えた品の中には、複数の目の肖像をあしらったものもあり、これらはある種の家族名簿のようなものだった可能性もある、とシュシャン氏は説明する。

例えば、シャンデリアのような形をした金のペンダントには、それぞれ独立した涙滴形の肖像が収められている。また、あるブレスレットには、顔の一部を描いた五つの楕円形の肖像があり、中央には2人を描いた肖像が配置されている。さらに葉や雲など、雰囲気を醸し出すモチーフもあしらわれている。

夫妻はさらに、現代の作品も1点コレクションに加えている。オンラインマーケットプレイスのEtsy(エッツィー)で活動するアーティストに自分たちで制作を依頼したもので、描いた目をアンティークの枠に収めている。オリジナル作品と混同されないよう、夫妻の収蔵品目録には現代作品であることが明記されているが、コレクションに「スキア夫妻らしさ」を加えている。

スキア夫妻のコレクションをきっかけに、ラバーズ・アイズに再び注目が集まっている。デビッド氏は、これは自己満足のためのプロジェクトではなく、こうした繊細な品々を保存し、記録するための手段だと強調する。

しかし、それぞれの作品が持つ魅力や謎もまた、夫妻が新たな作品を探し続ける理由となっている。

「これらの作品は、一つ一つがある種のラブストーリーだ」とナン・スキア氏は言う。

「誰かがこの女性を愛するあまり、彼女の目の細密画を描き、それをこの宝飾品に収めた。詳しい事情は分からないし、彼らが誰なのかも分からない。しかし、この作品は2人の愛と、その愛がどのように表現されたのかを物語っている」

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