この研究の概要
発表
2026年1月に、査読前の論文を公開するサイト bioRxiv で公開されました。今後、科学誌 Nature Communications に掲載される予定です。
研究チーム
英エクセター大学と英ロンドン大学シティ・セントジョージズ校が率いるチームです。
調べた対象
ロンドンの2つの病院の集中治療室で、エキノキャンディン系の薬で治療しても血液の感染が治まらなかった重症患者2人の菌です。1人は治療中も感染が3日続き、もう1人は治療を始めて33日後に感染がぶり返しました。菌は2人から時期を分けて何度か採ったもので、合わせて7株です。
調べ方
菌のゲノム(全遺伝情報)を読み取り、薬の濃さを段階的に変えた皿で、それぞれの濃さで育つ細胞の割合を調べました。さらに、濃い薬の中で生き残った細胞のコロニー(菌の集まり)についても、ゲノムや細胞壁のつくりを調べています。
分かったこと
生き残った細胞は、薬の効きにくさを生むとよく知られた遺伝子(FKS1とFKS2)の変異を持たないまま、ゲノムを4セット以上に増やし、細胞壁のつくりを変えていました。速く育つ大きなコロニーでは、ストレスに耐える仕組みに関わる遺伝子(CRZ1)の変異が多く、薬がさらに効きにくくなっていました。
検査では「効くはず」の薬が、効かなかった
カンジダ・アウリスは2008年に初めて報告された新しい真菌で、どこから来たのかは今も謎です。
カンジダ・アウリスが現れた背景として考えられる要因を、図にまとめたものです。Credit: Arturo Casadevall, Dimitrios P. Kontoyiannis, Vincent Robert / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)それでも今では、英国を含む60カ国以上で集団感染が報告され、すべての大陸に広がっています。
世界保健機関(WHO)も、最も警戒すべき真菌病原体の一つに挙げています。
研究の筆頭著者で、集中治療医でもあるギフォード博士によると、この菌は患者の肌や周りの機器にしがみつき、人から人へうつるため、根絶がとても難しいといいます。
カンジダ・アウリスが体に入り込み、広がる仕組みを描いた図です。カテーテルや手術、傷口から皮膚の守りを越えて入り、免疫の細胞をかわしながら全身の感染へと広がっていく様子が描かれています。Credit: Horton MV, Holt AM, Nett JE / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)弱った患者の血液に入り込んだ場合、死亡率は最大で45%と、半数近くに達します。
治療で最初に選ばれるのは、エキノキャンディン系と呼ばれる抗真菌薬です。
この薬は細胞壁を作る酵素を狙い、菌をしぼませたり、破裂させたり、増えられなくしたりします。
ただ、この菌はFKS1とFKS2という遺伝子に変異を起こし、治療中に薬が効かなくなることがあります。
抗真菌薬が効く仕組み(上)と、菌が薬をかわす仕組み(左下)をまとめた図です。左上の右端には、エキノキャンディン系の薬が細胞壁の材料(β-1,3-グルカン)を作る働きを止める様子が、左下には、薬の狙う相手の形が変わって薬が効かなくなる様子が描かれています。Credit: Chybowska AD, Childers DS, Farrer RA / Wikimedia Commons(CC BY 4.0)しかし、それだけでは説明のつかない「効かないケース」も残っていました。
今回チームが調べたのは、ロンドンの2つの病院の集中治療室で、血液に感染した重症患者2人の菌です。
1人目は治療中も3日続けて血液に菌がいて、2人目は治療を受けて33日後に再び血液感染を起こしました。
ところが英国の検査機関の判定では、どちらの菌も「耐性がある」とは言えない結果でした。
それにもかかわらず、その薬(アニデュラファンギン)だけの治療では菌を消せませんでした。
2人とも別の薬を組み合わせた治療に切り替えられ、その後亡くなっています。
チームは菌のゲノム(全遺伝情報)を読み取りましたが、予想していた遺伝子の変異は見つかりませんでした。
検査では「効く」と判定され、予想された遺伝子の変異も見つからない菌が、なぜか患者の治療に耐えていたのです。






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