『舞台』(講談社) - 著者: 西 加奈子 - 陣野 俊史による書評

1 ヶ月前 6
舞台
『舞台』(講談社)著者:西 加奈子

葉蔵がNYを歩いたら…

主人公の名前は「葉太」。この名前をみてピンと来た人は、大の太宰治ファンだろう。『人間失格』の主人公、葉蔵を思わせる。似ているのは名前だけではない。葉太は極度の自意識過剰の青年だ。29歳。そろそろ若さに別れを告げなければならない。
だが葉太は何をするにも恥ずかしさが先になってしまう。こんな時期は誰にでもある。自意識にがんじがらめになっていて、思うように行動できない。話せない。人は少しずつ何かを諦めたりして、自意識の主体としての自分と折り合いをつけていくのだが、葉太にはそんな気配が微塵(みじん)もない。

そんな主人公がニューヨークの街を歩き回る。むろん自意識はいろんな場所で邪魔をする。セントラル・パークで寝転がって本を読みたいと思っても、その「いかにも」感が邪魔をして素直に行動できないのだ。

作者は伸び盛りの小説家。太宰の『人間失格』の主人公が現代に生まれ変わり、ニューヨークを歩けばどうなるか。愉(たの)しんで書いている。こんな形のオマージュもあるのだなと感心した。最後に待ち受ける意外な展開まで、読者を飽きさせない。
【初出メディア】
日本経済新聞 2014年1月15日

http://www.nikkei.com/
記事全体を読む