自宅隣に突如、巨大データセンター計画が…。AI・デジタル規制緩和の陰で放置される「法の隙間」に専門家は?

3 週間前 7

AIの導入やDXの推進に伴い、大量のデータを処理できる大型のデータセンター(以下、DC)の建設が進んでいる。技術の進歩は素晴らしいことだが、もし、あなたの家のすぐ隣に巨大DCが建つと聞いたら、それでもデジタル社会の到来を心から歓迎できるだろうか──

今、首都圏などの都市部で、住宅の目と鼻の先に大型DCの建設計画が相次いで立ち上がり、近隣住民の間で住環境の悪化などへの懸念が深まっている。そんな現場の一つ、東京都江東区塩浜のDC予定地を訪ねた。

再三の話し合いは平行線、住民に諦めムード

東京・大手町から地下鉄で9分の距離にある東京メトロ・東西線の東陽町駅。そこから南に歩いて10分ほどの塩浜地区はには、大型のマンションが立ち並ぶ。都市計画法上は住宅と軽工業の工場などが混在する「準工業地域」に当たるが、都心への通勤に有利な立地が、必然的に住宅地としての利用につながったようだ。

そんな一角の南側に、壁に囲われた中で大型の重機が稼働している区画がある。これが、現在Ⅰ、Ⅱ期に分かれて計画が進む大型DCの建設現場。元はJRの資材置き場として使われていた土地だ。記者が現場を訪れた6月中旬にはI期目の建物の外観は完成しつつあり、足場に覆われてはいたが屋根が傾いた特徴的な形状を見てとることができた。

計画によれば、DCの建築面積はⅠ、Ⅱ期合わせて約1万2000㎡、高さは30.2m。地上5階建てというものの、実際の高さは周辺マンションの10階以上で、大き目の商業ビルのような印象。隣のマンションの屋上から見下ろすと、上部に冷却ファンらしき黒い箱型の装置が大量に並んでいるのが見えた。

隣接するマンション屋上から見た建設中のDCの建物

隣接するマンション屋上から見た建設中のDCの建物

区画の北側には、幅約10メートルほどの道路を挟んだだけで5棟の大型マンションが立ち並ぶ。住民からしたら、自宅の目と鼻の先に大型DCが出現することになる。

実は、現状の建築基準法の区分ではDCは「事務所」などと同じ扱い。規制が緩く、大規模な施設でも住宅地の近くに建設できてしまう。国の法整備が追いついていないことも一因となり、住民との摩擦を引き起こしているのだ。北隣のマンションの一つの住人で、管理組合役員のAさんはこう語る。

「DCが完成したら、24時間365日稼働します。冷却ファンからの排熱や、機械の稼働による騒音、非常用発電機を稼働する際のばい煙などが住環境にどう影響するのか。地下に何十リットルも貯蔵される燃料の安全性は確保されているのか。事業者は私たちのこうした疑問に十分な情報を提供してくれず、不安な日々を送っています」

Aさんが建設計画をネット上の情報で知ったのは2022年のこと。建築事業者は、不動産大手のヒューリックだ。問い合わせへの消極的な対応に危機感を覚えたAさんはマンション管理組合の中に対策委員会を立ち上げ、書面による情報の照会などを13回にわたって行ったが、事業者からは「まだ何も決まっていない」という趣旨の回答が続き、詳細が分からない状態が続いた。

2024年8月、現地に建築計画の概要を知らせる看板が掲示され、9月には近隣住民への説明会が行われた。100人前後が集まった参加者からは「建設には反対」「計画を考え直してほしい」という声が続出し、会は大荒れに。事業者は今度は「すでに決まったことだから変えられない」という趣旨の答えを繰り返したという。

住民側は、せめて施設の規模を縮小することや、周辺環境への影響をモニタリングすることなどを求めたが、これらの要求も聞き入れられなかった。その後、江東区の条例に基づく「あっせん」の申し立てが受理されて区職員の立ち合いの下での事業者との話し合いも行われたが、状況は変わらなかった。

2026年2月には施設が着工されてしまい、住民たちはなすすべがないまま現在に至っている。Aさんと共に管理組合役員として活動してきた溝井祐樹さん(55)はこう語る。

「私たちが数年間にわたって交渉してきたのはI期の工事計画なのですが、今年1月には新たに東隣の土地に、約2.5倍の面積規模のⅡ期の計画が立ち上がりました。もう何をやっても止められないのかと、住民の間には諦めムードが蔓延しています。私やAさんなど、対応に当たった住民は非常に多くの時間と労力をとられました。大企業による計画に住民が自力で対抗し続けるのは、限界があります」

I期目の計画の完成予定は2027年3月末。最終的にDCを運営するのは外資系の事業者とみられているが、運営事業者名は明かされていない。ここまでの経緯が十分に引き継がれるのかについても、住民側の不安は募るばかりだ。

隣接するマンションの屋上から見たDCの建設現場。手前がⅠ期の建物、奥がⅡ期の建設予定地

隣接するマンションの屋上から見たDCの建設現場。手前がⅠ期の建物、奥がⅡ期の建設予定地

排熱、騒音、ばい煙…住環境への影響は?

住民たちが心配する住環境への影響は、実際、どの程度のものなのか。情報が限られていて分からないことも多いが、現状を整理すると次のようになる。

・排熱

データセンターではサーバーに冷たい空気をあてて熱を取り去り、25℃程度に保つ必要がある。取り去った熱は排出口から外気に放出されるため、排熱による周辺気温への影響が懸念される。

北隣のマンションに具体的に排熱による影響がどれくらいあるのかについて、事業者側はシミュレーションを実施していないことなどを理由に明かしていないという。2026年2月に行われたⅡ期計画の住民説明会資料にも、「影響懸念を少しでも減らすため」に室外機の台数減を検討している、などの記述はあるが、具体的に周辺気温がどれくらい上昇する想定なのかわからない。

ただ、他の地域の大型DCの開発計画を調べると、DCの上空付近で1℃前後の気温上昇が生じる可能性がある、というシミュレーション結果を提示している事業者もあった。住人らが不安を覚えるのは至極当然のことだろう。

Aさんは「温暖化の影響でただでさえ熱中症の危険が増している中、1℃の上昇でも影響は小さくない」と警戒する。住民たちは昨年から、マンションの敷地内で独自に温度のモニタリングを始めているという。

DCの敷地(左)と北隣のマンションの間は道路1本のみで隔てられている

DCの敷地(左)と北隣のマンションの間は道路1本のみで隔てられている

・騒音

冷却用の室外機などからの騒音も、懸念材料の一つだ。

これについて、住民説明会資料には「複数の対策を講じ、敷地境界線上で夜間規制値50dB(デシベル)以下を実現できるよう設計しております」との記述があった。吸音材の使用などで影響を抑えるよう最大限配慮するという。

しかし、これについて溝井さんは次のような懸念を示す。

「事業者側の説明では、この周辺では普段からトラックの走行音などの『暗騒音』が50db程度あるから影響はないというのですが、データセンターの室外機は24時間ずっと音を出し続けているわけで、単純に比べられない。低周波の影響も心配しています」

・大量の燃料貯蔵と、ばい煙

災害時による停電時でもデータを失うわけにいかないDCでは、外部からの電源の他に、複数のバックアップ電源が用意されている。非常用発電機の燃料は48時間程度分が備蓄されるのが一般的なようだ。

塩浜の計画の場合、事業者側の説明ではⅠ、Ⅱ期合わせて重油と軽油が計約76万ℓ、地下燃料タンクに貯蔵される。標準的なガソリンスタンド(5万ℓ)の10倍を超える量だ。

住民説明会資料では「発電機、燃料タンクは堅牢な耐火構造の壁、床、屋根にて囲っています」と安全性が強調されているが、Aさんは「大地震などの災害時に、火災や漏出の恐れは本当にないのか。住民のすぐそばに大量の燃料が保管されているということに危険を感じます」と、懸念を口にする。

DCに隣接するマンション入り口には、「住民に配慮した設計への変更」を要望する幟が掲げられていた

DCに隣接するマンション入り口には、「住民に配慮した設計への変更」を要望する幟が掲げられていた

非常用発電機は普段は稼働しないが、月1回程度、1~数時間ほどの試運転をするのが一般的だ。この時、ばい煙や悪臭が発生して問題になる事例が国内でも出てきている。

塩浜の住民説明会資料では「煙除去装置を搭載し、黒煙を低減する対策を行っています」との記述がある。ただ、すすがどの程度除去されるのかなどのデータは示されていない。

「たとえ月1回だとしても定期的にかなりの量の排気ガスが排出されるわけで、有害物質による健康面への影響も心配です。京都府精華町のDCでは周辺事業者への影響が少ない週末に限って試運転が実施されるようになったという報道もありましたが、この地域のように周辺がマンションでは住民に逃げ場はありません」(溝井さん)

こうした懸念の声などに対する見解を聞こうとヒューリックに取材を申し込んだが、「本件に関する取材対応および個別のご質問への回答は差し控えさせていただきたく存じます」とのことだった。

政府は法整備どころか規制緩和を検討

Aさん、溝井さんともに「日本にDCを増やしていくこと自体に反対しているわけではない」と強調しつつ、こう口を揃える。

「そもそもなぜ、住宅に隣接した土地に大型DCを建てる必要があるのか。地域との共生など最初から考えておらず、短期的な利益だけを優先しいるのではないかと疑ってしまいます。野放図な開発を止めるためにも、住宅地に大型DCを建設にすること自体を法律で規制してほしい」

塩浜地区をはじめ、首都圏で進行中の複数のDC計画の近隣住民や専門家でつくる「都市型データセンターあり方検討会」(以下、「あり方検討会」)は3月に東京都と業界団体の日本データセンター協会(以下、JDCC)に対して要望書を提出した。この中にも、

〈多量の危険物を貯蔵するDCは、戸建てやマンション等の住宅地に隣接または近接して計画しないこと〉

という項目が盛り込まれている。「あり方検討会」の事務局を務め、日野市環境審議会委員でもある伊瀬洋昭氏はこう語る。

「大型DCはこれまで建設事例が少なかったので法整備が追いついておらず、現行の建築基準法上の区分では規制のほとんどない『その他(データセンター)』や『事務所』に分類されています。これが『工場』や『倉庫』と同等になれば各種規制も加わり、無停電電源装置のリチウムイオン電池など、危険物の合計量が一定量を超える大規模DCは『準工業地域』であっても建てられなくなります。安全面を考えたら住宅地の近隣につくるのは無理がある。一刻も早く国が法令を整備すべきです」

「都市型データセンターあり方検討会」の伊瀬洋昭さん

「都市型データセンターあり方検討会」の伊瀬洋昭さん

塩浜をはじめ各地でDC建設をめぐる住民との軋轢が発生したこともあり、自治体や業界団体も対応に追われるようになっている。

江東区や東京都は今年に入り、大型DCの建設についての指導要綱やガイドラインを相次いで策定。業界団体のJDCCも5月に「データセンター地域共生ガイドライン」を策定した。いずれも、事業者に周辺住民への丁寧な説明や、周辺環境への影響を軽減する対策を求める内容になっている。

それでも、これらのルールに住宅地でのDC建設自体を止めたり、規模を縮小させたりする強制力はない。このため「あり方検討会」は現在、国交省に対し、DCを建築基準法で実態に即して定義することを要望するために署名活動を始めている。

ところが、国は法整備に消極的であるばかりでなく、なんとDCをめぐる規制緩和を加速させようとしているという。政府の規制改革推進会議が6月29日、大量の電力消費を伴う次世代AI向けDCについて、リチウムイオン蓄電池をサーバーラック内に設置しやすくする規制緩和を求める答申をまとめたのだ。伊瀬氏はこう警鐘を鳴らす。

「リチウムイオン蓄電池は、停電リスクからデータを守るための無停電電源装置に使われます。エネルギー密度が非常に高く、『アークフラッシュ』という放電現象などによる火災のリスクがあり、発火すると熱暴走する危険性がある。実際、近年も韓国やフランスのDCで大規模な火災事故が起きています。必要な法整備を進めない一方で、国際競争力の確保のために安全性の確認なく安易に危険物の規制緩和を進めるのは、周辺住民の不安をさらに増幅させることになると危惧しています」

AIやデジタル化を進めること自体に反対する人は少ないだろうが、その陰で苦しむ人を生まないルールづくりも急ぐべきではないだろうか。

DC建設の急増に伴う摩擦は日本に限ったことではない。米メリーランド州モンゴメリー郡では、DCの発する騒音が近隣住民から問題視され、郡によりDCの建設を一時停止措置がとられている。

DCが大量の電力や水を消費することへの懸念も広がっており、米ニューヨーク州やアイルランド、オランダ、ドイツなど世界各地でDCの新規建設を規制する動きが相次いでいる。

巨大DCの建設と地域住民の幸せをいかにして両立するかは、21世紀の人類が直面する世界共通の難題の一つと言えそうだ。

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