
『海の仙人・雉始雊』(河出書房新社)著者:絲山 秋子
乾いた筆致、才能光る
絲山秋子は、会話が巧い。ちょっと巧すぎるかも。だから登場人物がかなりキテレツなやつらでも、キレのある会話を作ることができる。彼女のデビュー作『イッツ・オンリー・トーク』を思い出して欲しい。東京の大田区は蒲田に住まう不思議な住人がこれでもかと出てきて、絶妙な会話で繋がりながら、どこか精神的・肉体的欠損を抱えていた。
だが、そうしたいわば過剰なキャラクター設定を、絲山は避けるようになってきた。人物を激しく動かして、読み手を意想外のエリアへ導く小説から、少しずつだが、人物の数を減らし、抑制された筆致へと移動してきたのだ。『海の仙人』は、ちょうど、その移動の真ん中に位置している。
冒頭、「ファンタジー」という名前の神様が現れる。ファンタジーは見える人には見える都合のいい神様で、大酒呑みで、皮肉屋。彼が選んだ主人公の男は三億円の宝くじに当たった、やる気のない青年。似たような精神の傾きを持つ女たちも集まって……、と、ここまでは多少ドタバタしているが、人物たちの勝手な動きを抑制する乾いた筆致は、彼女の天賦の才能の証しなのである。
【初出メディア】
日本経済新聞 2004年10月21日
http://www.nikkei.com/

2 時間前
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