櫻井よしこ氏「高市勝利」発言に疑問符。結局は“進次郎政権”が誕生してしまいそうなこれだけの証拠

4 週間前 14

Sakurai_Yoshiko

連日メディアで大きく取り上げられている、自民党総裁選の動向。そんな中にあってSNS上では「高市有利」の声が広がりを見せているといいますが、果たしてそれは信用に値するのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、その情報の「発火点」を探るとともに、信憑性を検証。さらに「事実上の一騎打ちの相手」と目される小泉進次郎氏と比較し、高市氏が不利と見られる要素を論じています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:定見なき進次郎でも高市より有利に見えるいくつかの理由

SNS上で高まる「高市勝利」の声。それでも“定見なき進次郎”のほうが有利に見えるいくつかの理由

いまSNS上では、自民党総裁選に高市早苗氏が勝利するのではないかと大盛り上がりである。どうやらその発火点は、動画番組「言論テレビ」(9月12日)における櫻井よしこ氏の発言のようだ。

櫻井氏は、安倍晋三元首相や麻生太郎氏の選挙で中枢を担い、「党員リスト」を持っている人物から話を聞いた。すると、驚くべきことに、参院選で国民民主党、参政党、日本保守党に票を投じた自民党支持者たちが、まだ自民党の党員資格を持っていて、高市早苗vs小泉進次郎の決選投票になったら、大半が高市氏に票を入れると言うのである。前回の総裁選で高市氏を熱烈に支持した党員の票は、今でも計算に入れられるらしい。

総裁選で投票資格を持つのは国会議員と「党員リスト」に載っているであろう党員・党友だが、今年3月に発表されたその数は103万人ほどである。やや減少傾向にあるとはいえ、さすがにすごい数字だ。

それだけの人数について、参院選での投票行動や今度の総裁選で誰を選ぶかを把握するのはまず不可能ではある。ただし、自民党員でありながら参院選では他党に投票した人がかなりの数にのぼることは間違いなさそうだ。そのうち保守系の政党に投票した人の多くが小泉氏ではなく高市氏を選ぶだろうという分析も納得できる。

とはいえ、これをもって「高市氏が過半数を獲得し、初回投票で決着がつく」と吹聴する向きがあるのは、いささか短絡的すぎると言っておこう。筆者の見るところ、小泉氏にくらべ高市氏が不利だと判断できる要素がいくつもある。

現在、自民党には衆院196人、参院101人、計297人の国会議員がいる。昨年の総裁選では368人だったのに比べると激減していることがわかる。今回は議員票297、党員票297で総裁選の投票が行われる。

いかに高市氏が党員票に強いとはいえ、前回総裁選の初回投票で集めたのは368の党員票のうち109票に過ぎない。これに国会議員票を合わせた合計得票数は181票だ。過半数の369票には遠く及ばなかった。今回はもっと強い追い風を受けて、高市氏が過半数の票をかき集めてしまいそうだという根拠はどこを探しても見つからない。

常識的には、1回目の投票では当選者が出ず、高市氏と小泉氏が1位、2位を占めて決選投票に進むだろう。そうなると、国会議員票297、都道府県連票47の取り合いで国会議員優位のため、高市氏には不利な材料が続出する。

公明代表が口にした高市氏にとっての「とんでもない発言」

まず、高市氏を支援する中心勢力だった旧安倍派が、衆院選と参院選で大量落選し、いまや50人ていどに減ってしまった。しかも旧安倍派や他派の保守系議員がそっくり高市支援にまわるとは限らない。

というのは、小林鷹之氏が前回に続いて出馬するからだ。保守的な政治信条を持つ点で高市氏と共通するため、ネット上では「今回は高市さん一本で、譲ってくれませんか?」「高市さんに保守の力を集めましょう」などと小林氏の立候補見送りを望む声があふれたが、実際のところ、この二人はほとんど話をしたことがない間柄らしく、“共闘”は望み薄である。

なにより、財政政策の面で二人は全く異なる立場をとっている。高市氏は言わずと知れた「積極財政派」だが、小林氏は出身省庁である財務省と宮澤洋一・自民党税調会長のために、衆院財政金融委員会の理事として汗をかいた「緊縮財政派」だ。もし小林氏が3位以下となる場合、その支援議員らが決選投票で高市側にまわる可能性はかなり低い。

その点、小泉氏は80人くらいいる無派閥や菅義偉グループの支持を受けているだけに、議員票では手堅い票読みができそうだ。林芳正官房長官を支援する旧岸田派、茂木敏充氏を担ぐ旧茂木派も、高市vs小泉の決選となれば、多くが小泉側に馳せ参じるだろう。

注目の的は元のまま残るただ一つの派閥「麻生派」の動向だ。高市氏とすれば、前回総裁選と同じように味方になってほしいところだが、なにしろ麻生氏は「勝ち馬」に乗り、キングメーカーとして復活することだけにしか関心がない。ひたすら誰が強いかを見極める戦略だろう。岸田政権をともに支えていた茂木氏に気をつかって、はっきりとは言わないが、「進次郎は政治資金問題で泥をかぶった」と評価しているらしく、どうやら麻生氏の気持ちは小泉氏に傾斜しつつあるようだ。

衆参で自公が少数与党となり、野党の協力がなければ政権を運営できない現状において、高市氏が難しい対応を迫られるのが、新たな連立枠組みの構築だ。少数与党のまま野党としっかり協議をして政策を進めていくのも一つのやり方だが、自民党としては連立拡大で安定政権をつくりたいところだろう。

どの候補者を選べばどの野党を連立に引き入れることができるのか。それは議員たちにとって新総裁を選ぶための重要なポイントとなる。小泉氏なら日本維新の会という名がすぐに思い浮かぶが、高市氏はどうか。安全保障、憲法改正、積極財政など一部の政策において類似点がある国民民主党との連立を期待する向きがあるが、そう簡単ではない。

選択的夫婦別姓制度実現に向けて取り組んでいる国民民主の支持母体「連合」が、右派思想の色濃い高市氏と手を握ることに同意するとは思えないからだ。そもそも、国民民主とは連立が組みにくい面がある。党勢拡大を急ぐ国民民主は、自民との候補者調整で妥協できないだろう。

高市氏の場合は、肝心の“自公”連立にも危険信号がともる。「創価学会」の婦人会員たちの間では高市氏を嫌う声が多く、公明の斉藤鉄夫代表は「保守中道路線の私たちの理念に合った方でなければ、連立政権を組むわけにいかない」(9月7日)と、あきらかに高市氏を意識した予防線を張っている。

高市氏にとっては、とんでもない発言であろう。自民党国会議員の多くが公明・創価学会の票をあてにしているからだ。公明党との仲を割くかもしれない高市氏を避けようとする動きが、総裁選のなかで一定数は出てくるに違いない。

たとえ高市氏が新総裁になるとしても、連立の拡大や野党との連携が首尾よく進まないようなら、首相指名選挙までの短い期間に野党が結束し、非自公の連立政権が誕生する可能性も全くないとは言えない。

「討論能力の乏しさ」という進次郎の致命的な弱点

もちろん、小泉氏にもマイナス要素がある。44歳という「若さ」だ。経験不足というだけではない。自民党には高齢議員が多く、その人たちが「世代交代」を嫌がるというのである。幹部の若返りが進むのを恐れる。実に勝手な考えだが、日本社会ではよく見られる現象だ。

小泉氏に関してしばしば指摘されるのが、前回総裁選で露呈した討論能力の乏しさだ。これは致命的ともいえ、今度の総裁選でもボロが出る可能性がけっこう高い。政府備蓄米を安く放出し、見た目感じのいい立ち振る舞いがテレビで繰り返し流されて高齢女性を引きつけたが、半面、農業関係者の不評を買っている。

こうした弱点をカバーする方策をアドバイスしたのが、菅義偉元首相だ。加藤勝信財務大臣に選対本部長を引き受けてもらったのも、高市氏との“対決”を強く意識した菅氏の力が働いている。主要メディアの報道によると、党内では保守層の流出を食いとめられる候補者が有利との見方が共有されており、その点で最も期待されるのが高市氏だが、小泉氏もまたその役割をアピールしたほうがいいとの判断らしい。

加藤氏は保守派の議員連盟「創生日本」のメンバーだ。議員票を集める助けにはなるだろう。しかし、加藤氏を味方につけただけで保守的な自民党支持者を引きとめられるほど情勢は甘くない。定見を持たず、世間ウケをねらった発言をしがちの小泉氏は、保守界隈からリベラル派、新自由主義者、グローバリストなどとレッテルを貼られ、とりわけネット世界では嫌悪の対象になっている。

それに、もし小泉政権が誕生するとして、自民党の再生につながると考えられるだろうか。国会答弁で躓き、野党やメディアが騒ぎ立てて、国会が空転。参政党や日本保守党といった保守の新たな受け皿が存在感を強め、さらに自民党離れが加速する。やがて党内対立が激化して分裂へ…。浮かんでくるのは悪い想像図ばかりだ。

高市氏では野党との連携が困難、小泉氏も首相としての器量に問題がある。ならば、林芳正氏、茂木敏充氏といった実務派を選んで手堅くつなぐほうが得策とも思えるが、新味に乏しいイメージから、「選挙の顔」を求める自民党国会議員のニーズを満たさない。どう転んでも、再生への突破口が見い出せそうもないのが、これから派手に繰り広げられるであろう“総裁選ショー”の実態なのだ。

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image by:Joi Ito, CC BY 3.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

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