
解決への糸口が見えないまま、年月だけが過ぎゆく拉致問題。その過程では、政府発表そのものに対しても様々な疑問が投げかけられてきました。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、前回配信の「高市首相『私の代で拉致を解決する』は本気?安倍氏が残した『口先だけのやってるフリ』の轍を踏むのか」の続編として、高世仁氏の著書の内容を引きつつ、横田めぐみさんの遺骨鑑定を巡る経緯を検証。さらに当時の政府対応に残る数々の疑問点について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:横田めぐみの遺骨はもしかしたら「偽物」ではなかったかもしれなかった?/高世仁の近刊『拉致』を読む《後編》
【関連】高市首相「私の代で拉致を解決する」は本気?安倍氏が残した「口先だけのやってるフリ」の轍を踏むのか
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
遺骨本体のものでない可能性があった「検出されたDNA」
これに疑問を投げかけたのは、イギリスの権威ある科学雑誌『ネイチャー』05年2月2日号で、鑑定を担当した帝京大の吉井富夫講師自身の証言に基づいて次のように報じた。
吉井氏は以前に火葬された標本を鑑定した経験はまったくない。彼は自分が行なった分析結果が確定的なものではなく、サンプルが汚染されていた可能性があることを認めている。彼は「遺骨はなんでも吸い取る硬いスポンジのようなものだ。もし遺骨にそれを扱った誰かの汗や脂が染み込んでいたら、どんなにうまく下処理していたとしても、それを取り出すことは不可能だったろう」と述べている。
高世仁『拉致/封印された真実(上)』(旬報社、26年3月刊)P.228
つまり、吉井が検出したDNAは遺骨本体のものでない可能性があったわけで、それを本体のものと決め込んで、しかも北側が悪意を持って「偽物」を出してきたかのようにまで言うのは二重の飛躍だった。
そこには、どうしてもこれを「偽物」で片付け、従ってめぐみがすでに亡くなっているという証拠はまだ見つかっていないということにしておきたかった横田両親(の肉親として当然の願望)、救う会(の運動継続への材料確保)、安倍晋三(のやっているフリによる権力への階段上昇)という三者三様の思惑のベクトル合成が強く働いていたと見るべきだろう。
突如「マスコミ取材から隔離」された吉井氏の謎
当然にも、内外のメディアの取材は吉井に集中する。そこで起きたのは本当に我が目を疑うような出来事で、
05年3月25日、警視庁は突如、吉井氏を科学捜査研究所(科捜研)の法医学科長に任命したのである。科捜研は各都道府県の警察本部刑事部に設置されている機関で、吉井氏は地方公務員となった。そして公務員としての守秘義務を理由に、外部との接触は一切断たれ、吉井氏への取材は不可能になったのである。これは、警察が吉井氏を事実上「囲い込み」、鑑定結果に関する技術的な追及を断ち切るためだった。
同 P.230
しかし、その後でも日本政府がこの過ちを正す機会がないわけではなかった。高世書では
実はこの「遺骨」鑑定では鑑定書自体が未だ公開されていない。また、再鑑定したらどうかとの声もあったが、吉井氏は『ネイチャー』に「最も大きい1.5グラムの骨片は、鑑定で使い果たしてしまった」と語り、事実上、追試の可能性を否定した。残りの「遺骨」が現在どこにあるのかも、政府はいまだ明らかにしていない。
同 P.231
と書いているが、この再調査要請について本誌は独自取材に基づいて何度か書いてきた。たとえばNo.694(2013年8月26日号)では……、
▼米国政府は、このように日本が身動きが取れなくなった直接の原因は、北が出してきた横田めぐみ遺骨を科学的な根拠なしに早々に「偽物」と断定してしまったことにあると見て、以前から日本政府に対して「米国の最新技術で再鑑定したらどうか」と申し出てくれていた。
▼9・11のWTC爆破事件による数千人の遺体発掘・処理の過程で高温で黒焦げになってしまった遺骨からDNAを検出する技術は格段の進歩を遂げていて、それを用いれば、50%程度の骨が鑑定可能になっていると言われる。
▼が、日本は、それでもし「本物」という結果が出たらエライことになると思っているのだろう、「骨はもうない」と言ってこれを断ってきた。
▼こうして、外交のガの字も理解しない単純な一直線思考で、デマゴギーや陰謀まがいの隠蔽工作まで弄してこの国と国民をただひたすら北との対決に向かって追い込んできたのが安倍であり、そして第2次政権に就いてからは北だけでなく韓国と中国に対しても対決一本槍の姿勢を拡張し、徒な孤立と批判を招いている……。
この記事の著者・高野孟さんのメルマガ
めぐみさんの「歯」の存在を全否定する日本政府
もう1つ、これに関連する大きな謎は、めぐみのものとされる「遺骨」が入った骨壷に、骨以外に「歯」が納められていて、さらにそれが彼女本人のものであることを裏付ける北朝鮮当局による歯科治療のカルテなどのかなり分厚いデータも付随していたことを、日本テレビの拉致取材班キャップ=福澤真由美記者がスクープしたが、日本側の政府も警察もその「歯」の存在そのものを全面否定。
「歯」は身元確認の最重要の材料とされ、それがあればDNA鑑定も可能である。日本政府はなぜ、「歯」の存在を頑なに隠そうとするのか。あくまで推測にすぎないが、「歯」がめぐみさん本人のもの鑑定されたのではないか。そしてそれが「死亡説」を裏付けられたものと受け取られることを恐れ、「歯」の存在を封印したのではないか。
同 P.237
もちろん、歯が本物であったとしても、だからと言って死亡が確認されたということにはならないのだから、何も恐れることはないはずだが、そこでコソコソする態度が逆に疑惑を招くのである。
以上の他にも、拉致事件そのものが孕む謎の数々とそれへの日本政府の対応の出鱈目さ加減の例証は幾つでもあって、先週の本誌記事冒頭では「5つか6つのポイントだけを取り上げる」というつもりを述べていたが、それでは上中下3回に分けても終わりそうにないので、今回は取り敢えずここまでとする。
なお、8月10日20時からの東アジア共同体研究所YouTube「友愛チャンネル」で高世仁と私の対談を放映する予定で、そこではこのもう少し先まで話が及ぶかもしれないので、是非ご視聴下さい。
● UIチャンネル 東アジア共同体研究所:East Asian Community Institute
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年6月15日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
image by: 首相官邸
MAG2 NEWS

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