「情報をエネルギーに変える」マクスウェルの悪魔、液体の“記憶”まで使えると実験で判明

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この研究の概要

発表

2026年10月に、物理学の専門誌「Nature Physics」に掲載されました。

研究チーム

コンスタンツ大学と、ゲッティンゲンにあるマックス・プランク動力学・自己組織化研究所の物理学者たちが、実験と理論の両面から取り組みました。

調べた対象

界面活性剤が網目を作る液体に浮かべた、直径2.7マイクロメートルのシリカ(ガラスの原料になる物質)の粒です。

調べ方

光ピンセットで閉じ込めた粒の位置を時間をあけて2回測り、その結果ごとに、その後の粒の動きを比べました。

調べ方

網目の動きは直接は見えないため、粒の過去を覚えている「隠れた部分」として扱いました。

分かったこと

2回測って網目に残る記憶を読み取り、それをうまく使うと、粒から取り出せる仕事(使えるエネルギー)が増えました。

分かったこと

条件によっては、取り出せた仕事が、目に見える粒の動きだけに蓄えられたエネルギーを上回りました。

まだ分かっていないこと

今回の実験は、1つのくぼみに粒を閉じ込めた最小限の設定で行われており、高分子の溶液や体液のような、ほかの複雑な液体でも同じように役立つかは、まだ確かめられていません。

悪魔の手が届かない「見えない網目」

マクスウェルの悪魔は、ミクロの世界にいる想像上の門番です。

気体の分子が入った2つの部屋が、小さな扉でつながっている場面を思い浮かべてください。

悪魔は分子の動きを1個ずつ見張り、速い分子は一方へ、遅い分子は反対側へ通るように扉を開け閉めします。

マクスウェルの悪魔の思考実験を表した図です。扉を通す分子を速さで分けると、速い分子が集まる左の部屋は熱く、遅い分子が集まる右の部屋は冷たくなります。マクスウェルの悪魔の思考実験を表した図です。扉を通す分子を速さで分けると、速い分子が集まる左の部屋は熱く、遅い分子が集まる右の部屋は冷たくなります。Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

やがて片方の部屋は熱く、もう片方は冷たくなり、この温度差で機械を動かせるようになります。

大事なのは、悪魔が自分でエネルギーを足すのではなく、分子の動きの情報だけでこの差を作っている点です。

一見すると熱の基本法則に反するため、この悪魔は当初、論争を呼びました。

今では、情報そのものが仕事(使えるエネルギー)に変えられる物理的な資源だと考えることで、この矛盾は解かれています。

ここから、温度差ではなく情報で動く小さな機械(情報エンジン)への関心が高まってきました。

ただし現実の悪魔は、完全な情報を持てません。

しかも小さな機械が働く場としては、高分子の溶液や生き物の体液のような、中に細かな構造を持つ液体も期待されています。

こうした液体の中の構造は悪魔から直接見えず、関係する情報の一部が隠れたままになって、機械の効率を下げてしまいます。

それでも、これまでの情報エンジンの実験の多くは、周りとやり取りした情報はすぐ失われると暗に仮定してきました。

2010年に中央大学と東京大学のチームが発表した実験の考え方を、階段の形で表した図です。左から順に見ると、ふだんは平均して下っていく粒が、上に動いたときだけ後ろに壁を置くことで、階段を登っていく様子が分かります。2010年に中央大学と東京大学のチームが発表した実験の考え方を、階段の形で表した図です。左から順に見ると、ふだんは平均して下っていく粒が、上に動いたときだけ後ろに壁を置くことで、階段を登っていく様子が分かります。Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

研究チームはまず、粒子の位置を1回測るだけでは、液体の記憶に関わる役立つ情報に原理的に届かないことを示しました。

記憶は「ある時と別の時のつながり」の中に現れるため、一瞬を切り取る1回の観測には写らないのです。

記憶を使うには、時間をずらして何度か測る必要があるということです。

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