「完璧な自分」を目指すことに疲れた人へ。ハフポスト編集長が語る「不完全なまま途中を生きる」強さ

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SNSを開けば、誰もが完璧な姿を見せる時代。けれど、私たちは本当に「完璧な答え」や「完璧な人間」を求めているのでしょうか。

「ハフポスト日本版」編集長の泉谷由梨子は、読者に最も響くのは「完成された答え」ではなく、「悩み、試行錯誤している途中の思考過程」だと語ります。

本記事では、話題のドラマ分析や情報発信で自分をさらけ出す葛藤、大手新聞社から海外勤務を経てウェブメディアの編集長へと至った泉谷自身の「アジャイル」なキャリア観を聞きました。これからの時代を軽やかに生き抜くヒントとは(インタビュー後編)。

「生煮え」が心に刺さる理由——完璧なSNS時代への反動

── 前編では「生煮え」の情報の価値についてお話しいただきました。この「生煮え」への注目というのは、SNSなどで完璧な人間ばかりが目立つことへの反動なのでしょうか。 

SNSってすごく、自分を完璧に見せることが簡単な装置ですよね。ハフポストの読者の方々も社会課題に敏感で、非常に意識が高い方が多いと感じています。「完璧な自分」を目指す向上心を持っている、というのはその通りだと思うんです。

ですが、だからといって「完璧な答えが書かれたコンテンツを読みたいか」というと、実はそうではないんですよね。

── 実際によく読まれている記事の特徴を教えてください。

よく読まれているのは、「私もそれで悩んでいました」とか「自分はこんな風に考えています」といった、思考のプロセスが素直に描かれている記事です。

前編でお話しした吉野家グループのダチョウ事業(美容液開発)の記事もそうですが、思考の裏側や背景をひもといている部分が一番面白がられていました。

そのほかにも、「こういう風にやろうと思ったんですけれど、失敗してしまいました」という素直な失敗談が盛り込まれている記事は、圧倒的に手触りもありますし、「自分とどこか近い」と感じていただけるので人気があります。

ドラマ『銀河の一票』に見る現代のリーダー像

── 成功した人や完璧な人に対する受け止め方が変わってきているのですね。

「完成した人間」は、確かに尊敬される対象ではあったのかもしれません。ですが、「途中の人間」というのは、思わず並走したくなる存在だと思うんです。

最近では、ドラマの『銀河の一票』がすごく人気を集めて、様々な媒体の満足度調査で1位になっていましたよね。このドラマのメインストーリーは、野呂佳代さんが演じるスナックのママが「東京都知事を目指す」という内容です。

不完全な人間同士が寄り集まって、「どうにかして政治や社会を変えよう」と模索していく過程にすごくフォーカスが当たっている物語ですね。

── これまでの「政治ドラマ」や「リーダー像」とは大きく異なりますね。

そうなんです。これまでのリーダー像では、「弱さ」や「不完全さ」が見えてしまった時点で失格とされるような風潮がありました。ですが、いまはもう逆なんです。完璧すぎるリーダーには、誰もついていけないですし、自分との距離が遠すぎて親しみを感じられなくなってしまっています。

ドラマの中で、「いい大人が、こんなカッコいいことしちゃうのアリなんだ」という象徴的なセリフがあります。その瞬間に、周囲の人たちの、半信半疑のような態度がふっと溶けていくんです。

これは社会への「疎外感」とも深く結びついていると思っていて。社会に対して冷めた態度を取るというのは、傷つかないために「自分を必死に守るための防衛反応」でもあったと思うんです。

ですが、「途中で必死にあがいている人間」の姿を見ると、「自分もそこに参加してみたい」と思わされる仕組みがある。あのドラマは、現代のそうした心理を見事に捉えているなと感じました。

「不完全さ」をさらけ出す── 記者から編集長へ

── 確かに冷笑して斜に構えるのは簡単ですが、自分の「弱さ」や「不完全さ」を人前でさらけ出すのは、すごく勇気が要ることですし難しいですよね。泉谷さん自身は、その難しさとどう向き合っているのですか?

いやもう本当に……まさにいま、このインタビューの場でそれをやっています(笑)。 

私自身、もともと人前で話すのがそんなに得意なタイプではないんです。だからこそ「記者」という職業を選びました。「記事というのは人に聞いた話を伝えるものだから、自分自身をそんなに出さなくても済むかな」と思って入った世界だったのですが……まさかこんな時代に突入してしまって(笑)。

「もうしょうがない、やるしかない!」と腹をくくって、自分自身の不完全な状態をお見せするようにしています。

完璧な正解よりも「居場所」を。ハフポストが目指すメディア像

── 読者との関わり方や、メディアとしての存在意義について、何か印象的なエピソードはありますか。

3年前、ハフポスト日本版10周年の節目に読者の皆さんと直接お会いするイベントをいくつか開催しました。そこで、すごく印象的な言葉をいただいたんです。

長年の読者が、「ハフポストは私にとっての『居場所』なんですよ」と言ってくださったんですね。

メディアが出す情報の価値といえば、これまでは「鮮度の高さ」や「誰も知らない事実」「先進的な視点」といったものだと思われていました。ですから、私にとってはすごく意外で、ハッとさせられました。

それ以来、一個ずつ完璧な成果物を提示していくこと以上に、「読者の心の居場所になること」が大切であり、いま求められていることなんだと思って運営しています。

座右の銘は「アジャイル」── 人生に完成形などない

── 泉谷さん自身のキャリアについて教えてください。 

大学を卒業した後に毎日新聞社で8年ほど記者として勤務しました。

その後、配偶者の海外転勤に伴って退職し、シンガポールへ渡りました。現地のNGOで広報職員などを務めた後、日本へ帰国するタイミングでハフポストの面接を受けて採用され、現在に至ります。最初は一般の記者として入社し、副編集長を経て、編集長になりました。

どのフェーズにおいても、「これで完成した」「ここが正解だ」と感じたことは一度もありません。

だからこそ、私自身の座右の銘を「アジャイル(素早く柔軟に動くこと)」にしています。まずは直感で行動してみてから、それが正解だったかを後から考えるタイプです。やってみて初めて「あ、これは得意だったな」「苦手だったな」と判断しています。

「途中を生きる」ことが、これからの時代の強さになる 

大きな視点で言えば、人生に「目的地」なんてものは存在しないと思っています。人間が「完成」するのは、きっと死を迎えるその瞬間だけですよね。だとしたら、生きている人間は全員、いま現在進行形で「過程(途中)」の中にいるということになります。

だったら、自分がまだ途中にいること、不完全であることを恥じる必要なんて全くありません。「途中を生きることに慣れていくこと」こそが、これからの変化の激しい時代において、ある種の「強さ」になっていくのではないかと感じています。

整った綺麗すぎる言葉や完成されたコンテンツよりも、「いま考えている途中である」という生身の人間のほうが、はるかに力強く、魅力的です。これは、つい完璧主義に陥りがちな自分自身に向けた言葉でもあります。

ハフポストというメディアも、まだまだ試行錯誤を続ける「途中の存在」です。読者の皆さんにもぜひ、一緒に問い、一緒に考える仲間として、このプロセスを面白がっていただけたら嬉しく思います。

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