第39回東京国際映画祭の提携企画、ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークが、10月27日に都内で開かれ、歌手・俳優の二宮和也さん、「国宝」を手がけたプロデューサーの村田千恵子さん、アメリカのアカデミー・ミュージアム・オブ・モーション・ピクチャーズ館長兼プレジデント、アカデミー・コレクション統括責任者のエイミー・ホンマさんが登壇した。
映画「国宝」や、二宮さん主演の「8番出口」の海外でのヒットなどをもとに、日本映画の国際的な躍進や、それを支えるダイバーシティと労働環境、そして、劇場での映画体験の意義について議論を交わした。

ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークに登壇した村田千恵子さん、二宮和也さん、エイミー・ホンマさん、是枝裕和さん
是枝裕和さん「国が外貨獲得のための旗振りを行っているが…」
グッチやサンローランなどのラグジュアリーブランドを展開するケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」は、2015年にフランスのカンヌ国際映画祭で発足し、日本では9年目を迎える。
オープニング・スピーチを担当した映画監督の是枝裕和さんは、数々の国際映画祭で受賞してきた経験を踏まえ、若手監督の作品も含めて、日本映画への国際的な関心の高まりを実感しているという。
一方で、政府が「2033年に海外売上20兆円を目指す」として進めるコンテンツ支援策には率直に懸念を示した。「国がコンテンツ産業に予算をかけて、外貨獲得のための旗振りを行っている。悪いことじゃないが、短期間で外貨をとれる作品に後乗りで乗っかる感じがあって、危機感がある」と指摘。映画文化の拠点である全国のミニシアターが経営難から続々と閉館している現状に触れ、「映画文化をどう守り、継続し、広げていくか」が課題だとした。
「国宝」大ヒットに、二宮和也さん「俳優はみんな参加したかった」
3人によるトークセッションは、日本映画の世界的躍進の話題から始まった。
「国宝」プロデューサーの村田千恵子さんは、海外展開について「あまり『日本らしさ』を考えていなかったが、アカデミー賞キャンペーンでは、メイクアップ・ヘアスタイリングや衣装、美術、俳優と、クラフトマンシップ──職人の技術の高さを評価してもらうことが多かった」と振り返った。
国宝と同じく2025年に公開された二宮さんの主演作「8番出口」も、米配給会社NEONによる買い付けを経て、オープニング週末の興行収入ランキングには8位に入るなど異例のヒットとなった。

二宮和也さん
「国宝」の快挙について、二宮さんは「同業者は、今年『国宝』がなかったら…早く終わってくれないかな…って冗談交じりで(笑)」と会場を笑わせつつ、「日本映画が日本映画を食っていく年はあまりなかった。俳優はみんな参加したかっただろうし、そう思わせる映画は久しぶりだったと思う」と称賛した。
また、「8番出口」のフランス・カンヌ国際映画祭での上映を振り返り、「面白くないと途中退席する人も多い会場で、最後まで観て賛同してくれた人が多かった」と話した。
村田さんや二宮さんの話を受け、日系アメリカ人のエイミー・ホンマさんは、日本映画について、「語り尽くしたからもういいや、ではなく、若い映画作家にも歴史をつなげ、まだ語られていない日本のストーリーを紡いでいってほしい」と期待を寄せた。
「50年後の日本人が見ても伝わるか」
日本映画を世界に届ける際、ハードルになると思われるのは、日本独自の文化や歴史、コミュニケーションや人間関係のあり方が、海外でも伝わるのかという点だ。
ホンマさんは、異文化を知ろうとする上では映画館での鑑賞に大きな役割があるとし、「自分とは違うバックグラウンドを持つ人たちが一堂に会して、自分がわからないところで人が笑ったり、怖くないところを怖がったりする。その人それぞれの反応の違いが、好奇心が芽生えるきっかけになる」と語った。

村田千恵子さん
村田さんもプロデューサーとして、「海外で伝わるかという視点もそうですが、50年後の日本人が見ても伝わるかという点を意識している」と明かした。
二宮さんも、国内外の作品にかかわらず「わからないものは、わからないでいい」として、「見終わった後に『みんな面白かったって言ってるけど、なんで自分には合わなかったんだろう?』ってなって考えること自体が映画の面白さ。だからこそ、汎用性の高い作品ばかりではなく、尖った作品が生まれることも絶対に必要」と強調した。
「役者は無理してでも『やります』と言ってしまう」
多様なバックグラウンドを持つ人が活躍するためには、労働環境の改善も欠かせない。
村田さんは、「国宝」でチュニジア出身の撮影監督を迎えたことに触れ、「自分のベストパフォーマンスのために、1日の労働時間やお昼休憩の指定がきっちりとあった。それがデフォルトになることで、働きすぎな日本の現場が変わると思う」と指摘。
二宮さんは、撮影現場での女性スタッフの増加に言及し、「男性ができていないというわけではないが、女性のプロデューサーの現場では、声をかけたりケアしたりという細やかなコミュニケーションを感じることも多いです。役者は無理してでも『やります』と言ってしまうことが多い中で、安心して働ける環境を作ってくれている」と述べた。
日本の映画業界では、女性のプロデューサーの活躍が広がる一方で、意思決定層はいまだ男性が多くを占めており(2023年の一般社団法人「Japanese Film Project」の調査より)、ジェンダーギャップの改善は課題の一つだ。ホンマさんは「1人の女性が独占的に仕事を囲い込むのではなく、オープンにして分かち合うことが大事。トップダウンではない女性のリーダーが多く登場し、若い世代のロールモデルになったら」と、リーダー像の変化についても言及した。

エイミー・ホンマさん
知らない感情に出会える映画館と、「好き」を追求できる配信
オープニングで是枝監督が提起した、ミニシアターの危機や映画文化の継承に関連し、イベント後半では、劇場で映画を観る意義や、動画配信サービスとの共存へと議論が広がった。
村田さんは「日本では映画が作りにくくなっている」という課題を示した上で、「映画は、アートとしての価値があり、教養として身につけたり自分の成長のために観る。知らない感情や感性に出会うことができるのが映画館の良さで、一方で、(レコメンド機能があり過去作も豊富な)配信は、『好き』を追求する場所」と分析。「映画や配信が向かうのは違うベクトルなので、それをいかして両方をやっていきたい」との姿勢を見せた。
長年エンターテインメントの第一線を走り続けてきた二宮さんは、「性別も年齢も職種も違う人が、映画という共通項だけで集まるのが映画館。それは映画やエンタメ以外で得がたい体験だと思う」とその力を語り、「映画が劇場上映後に配信になることもあるし、配信で観た作品の続きを映画館で観ることもある。メディアの形よりも、どう続いていくかという時間軸が大事」と続けた。
最後に「10年後の日本の映画業界に変わってほしいこと」を問われると、村田さんは生活と創作の共存、二宮さんは若い人が映画の世界を目指せる環境づくりを挙げた。
村田さん「生活のゆとりや制度がきちんとあった上でこそ、映画を作ることができます。女性も男性も、育休・産休だけではなく、日々の生活にゆとりを持ちながらものづくりができる環境が定着してほしいです」
二宮さん「僕らは一人でも多くの人に笑って、感動してもらえる作品を目指して作っています。若い人が目指しづらい世界にはしたくないですし、面白い作品を作ることが難しい状況にはなってほしくない。作品や芝居を観て、純粋に映画に憧れられる若い人たちが増えるような環境を作っていきたいです」
(取材・文=若田悠希/ハフポスト日本版)

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