プーチンが持ちかけた三者会談にトランプと習近平は乗るか?国際交渉人が危惧する“席のない国”の頭越しで決められる新秩序の中身

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米ロの「奇妙な接近」に世界が警戒する中で、プーチン大統領がトランプ大統領に持ちかけた米中ロの三者会談。核を保有する三大国の首脳は、いかなる議題を話し合い、どのような取り決めを交わす腹づもりでいるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、会談の狙いと当事者不在の交渉がもたらす危険性を解説。さらに米国の対ロ制裁の適用免除やウクライナの衛星通信を巡る問題を検証し、国際政治における「約束と信頼」のあり方を問い直しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:売り物になってしまった約束-書いた瞬間に外された制裁、見えない手綱、そして当事者のいないテーブル

1.書いた瞬間に外された制裁

【1-1.法律の成立から28日後の大統領令】

9月18日に成立した対ロシア・イラン制裁法は、成立から30日以内、つまり10月18日までに、主な措置をとるよう大統領に求めていました。

前号で私は、この期限が「実施されないまま過ぎる」のか、それとも「免除の証明が議会に出される」のかが、議会とホワイトハウスの関係を占う試金石になるとお伝えしました。その答えは、期限の2日前に出たのです。

米ニューズウィーク誌によれば、トランプ大統領は16日、制裁法を実施する大統領令に署名し、ロシア産品への500%の関税と、ロシア産のエネルギーの主な買い手や制裁逃れを助ける国への最大100%の関税を設けると同時に、これらを免除しました。

免除が米国の国益にかなうという証明と、その根拠を説明する報告書も、議会に出されています。免除が終われば、10月18日以降にロシア産の原油や天然ガスを新たに買った上位の輸入国や、制裁逃れを助ける国からの輸入品に、最大100%の関税が課され得るという仕組みは残りました。

大統領令が免除したのは関税だけではなく、ロシアの金融機関、ロシアへの投資や送金、エネルギーの取引、国債、ロシア産のウランなどに関わる、法律上の幅広い制裁の条項に及んでいます。

大統領令は、関税の対象となる国を名指ししていません。共和党のマコール下院議員は、軽油の値段を下げたい気持ちは理解すると述べつつ、制裁を緩めれば「クレムリンの戦争マシーン(war machine)に資金を与えるだけだ」と警告しました。

【1-2.「解除」と「免除」の間】

この出来事を、単なる「米国の対ロ融和」と片付けるのは、少しもったいないと私は考えています。ここには、交渉の世界でよく使われる、もう一つの技法が見えるからです。それは、カードを捨てずに、カードを伏せておくという技法です。

制裁を法律から消してしまえば、二度と使えません。しかし、仕組みを作ったうえで適用を免除しておけば、大統領は、あるいは関係する閣僚と協議した国務長官は、いつでも免除を終わらせ、関税を相手に突きつける判断を下すことができます。ロシアから見れば、関税は消えたのではなく、頭の上に吊るされたままなのです。

交渉の言葉で言えば、米国は制裁を「交渉のてこ」として温存し、その上げ下げを、大統領を頂点とする行政府の判断に集めたことになります。

ただし、この技法には大きな副作用があります。カードを伏せる者は、相手だけでなく、味方にも次の一手を読ませなくなるのです。

欧州は、ロシアの戦費を細らせるために、エネルギーへの制裁と製油所への攻撃を重ねてきました。その欧州から見れば、最大の同盟国が、軽油の取引で新たな収入源をロシアに与え、制裁の発動の判断を手元に引き寄せたことになります。

10月15日と16日にブリュッセルで開かれたEU首脳会議の結論には、米国がロシア産の軽油への制裁を一時的に解除した決定を「遺憾とする」と、はっきり書き込まれました。ゼレンスキー大統領もこの会議に出席し、軽油や石炭の取引は単独の出来事ではなく、「次はガスかもしれない」と警告しています。

同盟国が、同盟の盟主の決定について、公式の文書で「遺憾」と書く。これは、外交の言葉としては決して軽くないことを意識しておかなくてはなりません。

【1-3.「沈黙は同意とみなされる」という作法】

ここで、日本経済新聞の「経済教室」に今月載った、二つの国際法の論考をご紹介したいと思います。

10月14日の林美香神戸大学教授の論考は、国際法を支えているのは強制力ではなく、違反を見た国々が声を上げるという実践だと論じています。林氏は、同盟国だからといって黙れば力の支配を容認することになり、日本は少なくとも一点では米国と異なる立場を表明できるよう連携すべきだと提言するものです。

翌15日の中谷和弘東海大学特任教授の論考は、権利の侵害に沈黙すれば黙認と見なされかねないので、まず抗議が不可欠だと指摘しています。

もちろん、国際法の上で、沈黙がいつでも同意を意味するわけではありません。それでも、抗議すべき場面で黙っていれば、後になって黙認していたと受け止められかねないという中谷氏の指摘は、多国間交渉の現場の感覚とよく重なります。

私は長く気候変動交渉やSDGs、そして軍縮に関わる多国間交渉の場に身を置いてきましたが、少なくとも私が参加してきたコンセンサスで決める会議では、議長がコンセンサスを宣言した後に、本会議で誰も異を唱えなかった提案は、「合意済み」として扱われるのが通例でした。

交渉の現場では、「コンセンサスを崩すつもりはないので、条件付きで合意する。ただし、我々が反対したこと、あるいはこの部分から離脱(オプトアウト)することを、合意文書の脚注に明記してほしい」という発言をよく耳にします。合意の流れには乗りつつ、自らの異論だけは公式の記録に刻んでおくという、交渉の実務の作法です。

抗議とは、感情の表明ではなく、自らの立場を記録に残すための行為なのです。今週、EUはその記録を残しました。しかし、日本政府が、米国のロシア産の軽油をめぐる決定について、同じような記録を残したという報道を、私は今のところ見つけられていません。

【1-4.免除の「値段」は誰が払うのか】

では、この免除で、米国は何を得たのでしょうか。ベッセント長官の説明を素直に読めば、米国が手にしたのは、ロシアから届く軽油と、ガソリンや軽油の値段を少しでも抑えたいという中間選挙の前の思惑です。

しかし、ロシアの側から、停戦や攻撃の停止といった見返りが示されたという報道は、今のところありません。前号で私は、米国がロシアから何も引き出さないまま、制裁の緩和という札を先に切ったとお伝えしました。今週の免除は、その札を、もう一枚重ねて切ったことになります。

交渉の世界には、「ただで渡したものには値段がつかない」という格言があります。相手は、ただで受け取ったものを「もともと自分のものだった」と考えるようになり、次にそれを取り上げられたときには、新しい損失として激しく抵抗するからです。

ロシアにとって、今回の免除は、交渉で勝ち取った譲歩ではなく、何もしなくても転がり込んできた贈り物です。その贈り物を後で取り上げようとすれば、米国は、ロシアに「約束違反だ」と言わせる口実を与えることになります。

一方、ウクライナと欧州は、その値段を別の形で払わされています。

EUは、この間も逆の方向にねじを巻き続けています。外相理事会は10月12日、ロシアの軍需産業、とりわけミサイルの生産に関わる個人と団体を中心に、約1,600件の制裁の指定を決めました。カラス外交安全保障上級代表は、その狙いはロシアの軍産複合体だと説明しています。

モスクワ・タイムズによれば、一度の指定としては過去最大で、これでEUの戦争に関わる制裁の対象は4,650件近くに達します。首脳会議の結論も、ロシアのエネルギー収入を断ち、制裁の抜け穴をふさぐためのさらなる措置を、パートナーと連携して取るよう求めています。

EUの内部では、経済の分野にまで踏み込んだ、より大きな次の措置の準備も続いていると伝えられています。9月以降の報道によれば、その候補として挙がっているのは、主に五つの分野です。

  • 弾道ミサイルの製造者と、その部品の供給者への制裁
  • アルミニウムや一部の生産設備を含む、貿易の制限の強化
  • ロシアの銀行が第三国の銀行や物流を迂回して使う道を断つための、金融の制限
  • 「影の船団」と呼ばれる老朽タンカーの船舶、運航者、実質的な所有者、燃料の補給業者への制裁と、暗号資産の業者への監視の強化
  • ロシア産の原油を運ぶ海上輸送のサービスの全面的な禁止(ただし、ホルムズ海峡の情勢を見ながら判断するとされます)

いずれも検討の段階の案で、最終的な中身は変わり得ます。

首脳会議の結論には、ロシアがウクライナの占領地から奪った穀物がEUを経由して輸出されるのを防ぐ必要性も盛り込まれました。ウクライナの外交官の一人は、2027年のフランス大統領選挙をにらみ、来年2月が新たな制裁で合意する一つの期限になるとみています。

米国が制裁を眠らせた同じ週に、欧州は制裁の網の目を細かく編み直していたのです。その欧州が苦労して締め上げてきた網の目に、大西洋の向こうから大きな穴が開けられたことになります。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、「ロシアが戦争を終わらせない限り、どの制裁も解かない」と述べています。EUのコスタ常任議長も、「今はロシアへの制裁を緩める時ではない」と語りました。

同じ西側の陣営の中で、制裁を「交渉のてこ」と見る米国と、制裁を「戦争の資金を断つ道具」と見る欧州とが、はっきりと分かれ始めています。

2.見えない手綱-スターシールドと「目と耳」

【2-1.曇った「目」】

ウクライナのベスクレストノフ大統領顧問によれば、10月13日から14日にかけて、移動中の端末の通信に時速約160キロの速度の制限がかかり、それより速く飛ぶドローンやミサイルとの接続が途切れたとのことです。同氏は当初、スペースXが民生用のスターリンクの端末に制限をかけたと書きましたが、その後ウクライナ側は、制限がかかったのは軍用のスターシールドだと説明しています。

ウクライナ側によれば、速度制限により、一部の部隊はドローンの任務を取りやめざるを得なかったと伝えられています。ゼレンスキー大統領は、迎撃用のドローンが時速約70キロに抑えられた時間帯があり、ジェットエンジンを積んだシャヘド型のドローンを迎え撃てなかったとも述べていますが、これはウクライナ側の説明で、独立した確認はありません。

では、誰が手綱を引いたのでしょうか。ここで、説明が分かれます。

スペースXを率いるマスク氏は、スターシールドは米国政府が所有して管理しており、速度や利用の制限を決めるのは米軍、最終的には大統領だと書き込みました。ロイター通信は15日、米国の当局者2人と西側の当局者1人の話として、制限の指示はホワイトハウスの内部から出たと報じ、米政府の高官は、トランプ大統領自身が求めたことは否定しました。

英テレグラフ紙は16日、4人の情報源の話として、マスク氏がトランプ大統領に速度の制限を提案し、大統領が「同意した」と報じています。ただし、これは一紙の報道で、確認された事実ではありません。

トランプ大統領は16日、制限は自分の責任でもマスク氏の責任でもないと思うと述べています。ルビオ国務長官は17日、記者団に、スターリンクは「商用の製品」でスターシールドは「軍用の製品」であり、ウクライナは今の時点でスターシールドを使える立場にないと述べました。

ロシアの奥深くを攻撃するための利用の要請は「協議中」で、ホワイトハウスで誰も速度を落とせと命じていない、ゼレンスキー大統領の主張は「断じて誤りだ」とも語っています。

ウクライナの説明では、使っていたのはスターシールドです。米国の国務長官の説明では、ウクライナはスターシールドを使っていません。同じ一本の通信回線について、当事者の説明がここまで食い違うこと自体が、今の米国とウクライナの関係を物語っているのではないでしょうか。

【2-2.否定できる圧力】

私は、この出来事の本質は、誰が指示を出したかという犯人探しよりも、もっと別のところにあると考えています。

武器を引き揚げれば、世界中に報じられ、議会でも問題になります。しかし、通信の利用条件を変えることは、静かで、否定しやすく、それでいて効き目は大きいのです。

国際政治学者の佐々木れな氏は、10月15日から16日にベルリンで開かれたNATOの将来をめぐる国際会議の様子を伝える論考で、兵器の国籍よりも、通信の接続の権限やソフトウェアの更新の権限が戦場を左右すると指摘しています。同氏によれば、その会議では「ホワイトハウスとペンタゴンは、いまロシア側に立っている」という厳しい言葉まで出たそうです。

交渉の言葉で言えば、米国はウクライナに対して「見えないレバレッジ」を握っています。そして、そのレバレッジを実際に使ったのかどうかが曖昧なままであることが、かえって圧力として効いてくるのです。相手は「次は何が止まるのか」を考え続けなければならないからです。

英国のストリーティング国防相は15日、国防総省でヘグセス国防長官と会い、スターリンクの通信が戻ったことを二人で歓迎したと述べました。ただ、同国防相は、なぜ通信が途切れたのかについては話し合っていないと付け加えています。ゼレンスキー大統領は16日、速度は戻りつつあるが、まだ元の水準ではないと述べました。

この出来事を、日本は他人事として眺めるわけにはいきません。日本の防衛もまた、米国製の装備、米国の衛星、米国から届く情報に、深く支えられているからです。装備の本体は日本の手元にあっても、それを動かすソフトウェアの更新や、敵を捉えるための情報の流れが別の国の判断に握られていれば、その装備を思いどおりに使える保証はありません。

ここで私は、同盟国を疑えと申し上げているのではありません。同盟国の判断がこちらの利益とずれたとき、どこまで自前で補えるのかを、平時のうちに確かめておく必要があると申し上げているのです。

ウクライナ大統領府のジョフクヴァ副長官は、米国の防空システムやスターリンクに代わる欧州の選択肢を作っていると述べています。しかし、衛星の網の規模と能力では、スペースXが他を大きく引き離しているのが現状で、すぐに乗り換えられる代わりはほとんどありません。代わりがないからこそ、その通信は最も強い交渉の材料になります。

交渉の言葉で言えば、ウクライナの「BATNA」、つまり合意が成り立たなかったときに取れる最善の代わりの手が、極めて弱いということです。BATNAの弱い側は、相手の条件を飲むか、自らのBATNAを時間をかけて作り直すしかありません。欧州が今、ウクライナとともに取り組み始めているのは、まさにその作り直しなのです。

【2-3.「戦争を終わらせたくない男」】

「手綱」の次に飛んできたのは、言葉でした。トランプ大統領は18日、SNSに、ゼレンスキー大統領は欧州から資金をもらっているので「戦争を終わらせたくないし、おそらく一度もそう望んだことはない」と書き込みました。ロシアの製油所へのウクライナの攻撃は、「米国を含む世界の軽油の市場」を深刻に傷つけているとも非難しています。

トランプ大統領による言葉での攻撃の背景には、ウクライナが製油所への攻撃を再開したことがあります。前号でお伝えしたとおり、ゼレンスキー大統領は15日、英フィナンシャル・タイムズ紙に、製油所への攻撃を控える措置は「終わった」と語り、同じ日にロシア中部のリャザンの製油所がウクライナによるドローンの攻撃を受けました。

一方、米CNNは15日、事情に詳しい関係者の話として、ウクライナは米国製のパトリオットの迎撃ミサイルを使い果たし、14日未明の弾道ミサイルの攻撃をほとんど迎え撃てなかったと報じています。これも一つの情報源に基づく報道ですが、ゼレンスキー大統領自身が8月に、必要な迎撃ミサイルの10分の1しかないと語っていたことと符合します。ウクライナから見れば、自らの盾は削られ続けているのに、相手の兵站を削る手だけを縛られている、という構図です。

ウクライナ軍参謀本部の発表を集計した分析によれば、ロシア軍の車両や燃料タンクの損失は、侵攻の初期の月1,000以下から、2026年の夏には月約1万4,000に達したとされます。

これはウクライナ側の推計で、第三者が確かめた数字ではありませんが、ウクライナが製油所と兵站という「後方」に戦いの重心を移してきたことは読み取れます。その後方を叩く手を止めろと言われることが、ウクライナにとってどれほど重い要求なのかは、想像に難くありません。

【2-4.「歴史的な過ち」と「ありがとう」】

トランプ大統領による口撃に対するゼレンスキー大統領の返し方は、なかなか巧みでした。同大統領は18日、米NBCの番組で、米国が正式にロシアの側に立てば「歴史的な過ち」になると述べ、トランプ大統領が決定を変えてくれることを望むと語りました。その一方で、米国がロシアのミサイル発射に関する情報の共有を再開してくれたことに「感謝している」とも述べています。

同じ日には、ウィトコフ特使、クシュナー氏と電話で話し、「平和は力と、信頼に基づく協力によってのみ実現する」と伝えました。非難と感謝を同じ日に並べるのは、関係を壊さずに異を唱えるための、外交の基本の作法です。

ここで一つ、言葉を正確にしておきたいと思います。

ゼレンスキー大統領は「共有が再開された」と述べましたが、トランプ大統領は一貫して「情報の共有は止めていない」と述べています。米政府の当局者も、情報の共有を打ち切ると脅したことはないと否定しました。

ゼレンスキー大統領は、共有は「短い中断」の後に再開され、「今は機能している」と説明していますが、中断の範囲や期間、誰の判断だったのか、そして今後も続くのかは、公表された証拠では確かめられません。

ベッセント財務長官は18日、ゼレンスキー大統領に対し、事実でない発言には「気をつけるべきだ」と警告し、スターリンクをめぐる非難を「無謀だ」と述べました。

米国とウクライナの関係は、今、互いの言葉の正確さを公に問い合う段階に入っています。これは、協力の関係が壊れる手前でよく見られる兆候です。

3.当事者のいないテーブル-米中ロの三者会談案

【3-1.ヤルタの影】

ウォール・ストリート・ジャーナル紙が18日から19日にかけて報じたところによれば、プーチン大統領は10月9日のトランプ大統領との電話会談で、11月18日から19日に深圳で開かれるAPEC首脳会議の際に、習近平国家主席を交えた三者会談を開こうと持ちかけました。同紙が引用したロシアの情報機関の元当局者は、プーチン大統領がこれを「ヤルタ型の会議」として、世界を勢力圏に分ける機会と見ていると述べています。

米政府の高官は提案があったことを認め、トランプ大統領は同意していないが前向きかもしれないとしており、中国も反対していないと伝えられています。

ロシアのペスコフ大統領報道官は、会談そのものについても議題についても「まだ明確な理解はない」と述べ、ルビオ国務長官も19日、会談の話はあったが確定したかは知らないと語りました。

トランプ大統領は19日、記者団に、習主席が望むなら開く、核兵器と非核化について話すために開く、と述べています。しかし、ウクライナについては、その発言の中で触れていません。

【3-2.同じ器に、違う中身】

ここが、今週の最も重要な点だと私は考えています。同じ「三者会談」という器に、ロシアは「ウクライナ停戦」を入れようとし、米国は「核(軍縮・不拡散)」を入れようとしているのです。

確かに、核の議題には切実な理由があります。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によれば、退役して解体を待つものも含めた核弾頭の総数は、2026年1月の時点で、ロシアが約5,420発、米国が約5,042発で、中国は約620発と急速に数を増やしています。

米国とロシアの間に残っていた最後の戦略核の軍備管理の条約である新戦略兵器削減条約(新START)は、2026年2月5日に失効しました。この条約は、配備する戦略核の弾頭を1,550発、運搬手段を700基までとする上限を両国に課していましたが、その上限を法的に約束する条約がなくなったのです。

もっとも、ロシアが2023年に履行を停止して以来、現地での査察などの検証の仕組みは、失効の前からすでに止まっていました。

国連の中満泉事務次長(軍縮担当上級代表)は、ニューズウィーク日本版のインタビューで、誤解や誤算から核兵器が使われてしまう危険は「非常に高まっている」と述べています。同氏が最も警戒しているのは、キューバ危機の後に米ソの間で作られたような、危機を止めるための仕組みが、今は米中の間にも米ロの間にも十分にないことだといいます。

三つの核大国の首脳が核について話すこと自体には、意味があります。しかし、調停の現場で私が最も恐れてきたのは、議題が決まらないまま、首脳の顔合わせだけが先に決まるという順序です。顔合わせそのものが成果として報じられ、中身は「これから詰める」となったとき、その場にいない当事者の運命が、既成事実として積み上がっていくからです。

私がナゴルノカラバフやエチオピア、イエメンなどの和平調停に関わったとき、何より神経を使ったのは、交渉の席に誰を座らせ、誰を座らせないかという入口の設計でした。入口で外された当事者は、出口でできた合意を決して自分のものとは受け止めません。

【3-3.「彼に席に着く資格はない」】

ウクライナのシビハ外相は19日、Xへの投稿で、米中ロの首脳会談の案に強く反発しました。シビハ外相は、そのような会談は「プーチンに戦争を続けるよう促すだけだ」と書いています。そのうえで、プーチン大統領について「世界の指導者ではなく、戦争犯罪人だ」と断じました。ロシアについても、「世界の大国ではなく、世界の問題だ」と書いています。そして、プーチン大統領には、トランプ大統領や習主席と同じテーブルに着く資格はないと結んでいます。

一方で同外相は、ウクライナ、米国、ロシアの三者による会談であれば、戦争を早く終わらせる助けになり得るとも書き添えました。ここには、ウクライナの交渉の立場がよく表れています。

ウクライナは、テーブルそのものを否定しているのではなく、自分の座る席のないテーブルを否定しているのです。クレムリンの側は、プーチン大統領がゼレンスキー大統領と会うのはモスクワでのみだとしており、ウクライナの求める中立の場所での会談を事実上退けています。

私は前号の「日本に跳ね返る問い」の中で、APECでの日中首脳会談の格をめぐる駆け引きをお伝えしました。深圳のAPECが、日中の首脳会談の格を争う場であると同時に、米中ロが日本の頭越しに世界の勢力図を語る場にもなり得るとすれば、日本が向き合う問いは一段重くなります。

【3-4.席のない国が打てる手】

では、テーブルに席のない国には、何ができるのでしょうか。

私の経験から申し上げれば、席がないことは、発言の機会がないことを意味しません。大国同士の会談の前には、通常、事務方による準備の段階があり、そこでは議題の案が回され、言葉が一つずつ詰められていきます。

「席のない国」が働きかけるべきなのは、首脳が握手をする当日ではなく、この準備の段階です。例えば、核の議題であれば、日本は唯一の戦争被爆国として、危機を止めるための連絡の仕組みや、誤った警報による発射を防ぐための措置について、具体的な提案を事前に米国に届けることができます。中満氏が指摘する「危機を止める仕組みの不在」は、まさに日本が中身を差し出せる分野です。

中満氏はまた、日本で語られる「核共有」についても、配備されても使用の決定権は米国にあること、米国自身が持ち込む必要を感じているのかという点を含めて、感覚ではなく確かな根拠に基づいて議論するよう求めています。

三つの核大国が核を語るテーブルの外で、日本が核をどう語るのかは、そのテーブルの議題に影響を与え得る数少ない手段の一つです。そして、ウクライナの議題については、日本は欧州やカナダと足並みをそろえ、当事者のいない場での決定には従わないという原則を、事前に、はっきりと伝えておくべきです。後になって「決まったことだから支援を」と求められてから異を唱えても、その声は届きません。入口で示さなかった異議は、出口では言い訳にしか聞こえないのです――(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』2026年10月23日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録ください)

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