『バレエの世界史-美を追求する舞踊の600年』(中央公論新社) - 著者: 海野 敏 - 長谷部 浩による書評

6 ヶ月前 28
バレエの世界史-美を追求する舞踊の600年
『バレエの世界史-美を追求する舞踊の600年』(中央公論新社)著者:海野 敏

時代の変化受け進化


図版は最小限、文章と表で構成された六百年の歴史と聞くと、無味乾燥な教科書が想像される。ところが、読んでいて、これまで腑(ふ)に落ちなかった伝播(でんぱ)の歴史が明らかになり、実に刺激的で面白い。舞踊を美学のみならず、政治や経済の視点から読み直しているからだ。

十五世紀イタリアで生まれた「前バレエ」は、フィレンツェの大富豪メディチ家出身、十四歳のカトリーヌが、フランス国王フランソワ一世の第二王子アンリ・ド・ヴァロアと結婚したところから新たな展開がはじまる。婚姻と結婚披露がバレエの肥沃(ひよく)な土壌となった。王侯貴族自らが踊る余興としてのダンスから、職業ダンサーが劇場で見せる観賞芸術へ。貴族からブルジョワジーへと支持層が変わり、その好尚がバレエの内実を変えていく。

自立した至高の芸術ではなく、時代の変化を受け止め、流転を経て進化していく経緯を描く、スリリングな読みものだ。バレエが持つ「自己変革の力」を強く信じる著者の愛情が伝わってきた。
【初出メディア】
東京新聞 :2023年7月22日/中日新聞:2023年7月23日

http://www.tokyo-np.co.jp/
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