テストステロン注射を受けた男性、体の各部位が話しかけてくる症状を発症

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普通の治療のはずが、精神の危機に

普通の治療のはずが、精神の危機に普通の治療のはずが、精神の危機に / Credit:Canva

テストステロンといえば「男らしさと活力の源」というイメージが強いホルモンです。

近年では筋トレやアンチエイジングの文脈で語られることも増え、ホルモンが十分に作られない人や骨が弱った人に注射で補う治療も広く行われています。

一方で、このホルモンには昔から「危ない噂」もつきまとってきました。

体を大きくしたい一心で、医師に隠れて大量のホルモン剤を打ち続けたアスリートが、攻撃的になったり、気分が異常に高揚する状態(躁状態)に陥ったりするケースは、科学の世界でも数多く報告されています。

ただしそれはあくまで、体が自然に作る量をはるかに超えた「乱用」の話です。

医師が処方する治療量であれば、精神面への影響はあまり問題にならない――そう受け止められがちだったのです。

今回インドの精神科医たちは、その常識を揺るがすケースに遭遇しました。

患者は、農場を1人で切り盛りしていた45歳の既婚男性です。

彼には15年来の悩みがありました。

夫婦生活は普通に営んでいたにもかかわらず、子供ができなかったのです。

実は12年前の血液検査で、テストステロンの値が異常に低いことがわかっていましたが、このときは治療を受けないままになっていました。

転機が訪れたのは、問題となる症状が起こる1年前でした。

全身の激しい痛みに襲われた彼は、骨がもろくスカスカになる病気(骨粗鬆症)と診断されたのです。

そこで低すぎるホルモンと弱った骨を立て直すため、医師はビタミンDとともに、月1回のテストステロン筋肉注射を処方しました。

彼は指示どおり、1年間まじめに注射を受け続けました。

ここまでは、低いホルモンと弱った骨に対して、医療現場で普通に行われている治療です。

1年のあいだ、彼の心に異変が起きたという記録はありません。

異変が始まったのは、最後の注射から3週間ほどが過ぎたころです。

そこからわずか9日間で、男性は別人のように変わり果ててしまいました。

異常なほど宗教にのめり込み、隣人たちを極度に疑い、夜もほとんど眠らなくなりました。

そして極めつけが幻聴です。

彼の耳には「神の声」が届くようになり、さらには自分の体の各部位から発せられる声まで聞こえるようになりました。

この幻聴は、声が本人に向かって直接語りかけてくる「二人称」タイプと呼ばれるもので、彼にはその声の出どころが、あたかも自分の体の部位そのものであるかのように感じられていたのです。

1人で農場を管理していた彼の様子がおかしいことに気づいた隣人たちが家族に知らせ、彼は救急外来へと運ばれました。

不可解なのは、彼がこれまで精神疾患を一度も患ったことがなく、家族や親族にもそうした病歴を持つ人が誰もいなかったという点です。

ごく普通の中年男性が、なぜ突然ここまで劇的に変わってしまったのか。

その答えは、入院後に行われたある検査によって、45年間見過ごされてきた「彼の体の秘密」とともに明らかになります。

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