ゼブラの「5万円」高級ボールペンが大ヒット⇨計画比160%超で品切れも。開発者が語る“手書きの体験価値”

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“5万円のボールペン”と聞くと、多くの人は高すぎると感じるかもしれない。確かに、スマホやパソコンがあれば、文字は一瞬で入力できる。もちろん、100円のボールペンでも十分に書ける。

そんな時代に、ゼブラは2026年3月、社名を冠した新しい高級ブランド「THE ZEBRA」から油性ボールペン「HAMON(ハモン)」 を発売した。価格は5万9400円(税込)。社内からは「誰が買うのか」と声が上がったが、発売後は当初計画を160%以上も上回る反響を集めている。

なぜ今、高級ボールペンが注目されているのだろうか。開発をけん引した研究本部研究部 シニア・プロフェッショナルの中田裕二郎さんは、「効率化が進む時代だからこそ、人が立ち止まるための道具をつくりたかった」と話す。120年以上にわたって筆記具を作り続けてきたゼブラが高級ブランドに込める思いを聞いた。

研究本部研究部 シニア・プロフェッショナルの中田裕二郎さん。ゼブラに新卒で入社し、文具一筋で開発に取り組んでいる
研究本部研究部 シニア・プロフェッショナルの中田裕二郎さん。ゼブラに新卒で入社し、文具一筋で開発に取り組んでいる

misaki hashimoto / HuffPost Japan

ゼブラにはブランドを象徴する逸品がなかった

文房具市場は、この十数年で大きく変わっている。長らく会社から支給される事務用品という位置づけだったが、2008年のリーマン・ショック以降、自分のお金でお気に入りの一本を選ぶ人が増えている。

中田さんは「手書きの機会が減った今だからこそ、あえて文字を書く時間を大切にしたいという価値観が広がっている」と感じている。

 一方で、自社の商品を見渡したとき、ある課題に気づいたという。

 「お客様から『特別なボールペンを探しています』と相談された際に、自信を持っておすすめできる一本がなかったのです。ノック式ジェルボールペン『サラサクリップ』のように、多くの方に愛されている商品はあります。しかし、『ゼブラといえばこれ』と胸を張って紹介できる、ブランドの象徴となる一本がありませんでした」(中田さん)

そこで社長を中心に、「万年筆のように、一生付き合えるボールペンをつくろう」という構想が立ち上がった。そして3年半前、ブランドの象徴となる一本を目指し、「THE ZEBRA」の開発がスタートする。

「誰が買うんだ」社内でも反対された5万円

開発はまず究極のボールペンをつくる構想と数万円~10万円という価格帯のイメージからスタートした。その後、開発部に所属する約70人を対象に、「究極のボールペン」をテーマとしたヒアリングを実施。インクの出方やチップの構造、内部設計などについて、多くの意見が寄せられた。

形になった試作品を社内で共有すると、さまざまな反響があった。特に営業部からは、「数万円~10万円という価格では売るのが難しいのではないか」と否定的な声も少なくなかったそう。

「『本当に高いボールペンが売れるのだろうか』といった感想が出るのは当然です。実用性だけを考えれば、100円のペンで十分ですから。しかし、効率だけではつくれない価値があると考えたのです」(中田さん)

目指したのは工芸品や機械式時計のように、持つこと自体が喜びになる筆記具だ。例えると、時計ならグランドセイコー、車ならレクサスのような存在。車好きでもある中田さんは、「日本には世界に誇る技術がある。文具でもその象徴をつくれるはずだ」と確信していた。

こうして誕生した「THE ZEBRA」は、こだわりを凝縮した結果、5万円台でも採算が合わないほどの贅沢な技術を施した仕様になった。

「妥協して仕様を削ることはせず、製造工程をゼロから見直したことで、品質を維持したままこの価格を実現しました。この価格だからこそ表現できる世界があります。それを証明したかったのです」(中田さん)

高級車のような作動感を目指した

車好きの中田さんは、高級車に使われる精密な機械の構造に魅力を感じてきた。「機械が滑らかに動く気持ちよさを、ボールペンでも表現したかった」と振り返る。

その発想を形にしたのが、「THE ZEBRA」の本体部分だ。本体はアルミの棒材を一本ずつ削り出して作られており、外側だけでなく内側まで精密に加工している。

本体軸には日本の金属加工技術を活用している
本体軸には日本の金属加工技術を活用している

misaki hashimoto / HuffPost Japan

さらに、ペン先を出す機構にも工夫を凝らした。軸をひねるとクリップが自然に倒れ込み、筆記中に手へ当たらないようになっている。使う人は意識することは少ないが、こうした細かな動きの積み重ねがストレスのない書き心地につながっている。

1977年に発売したシャープペンシルとボールペンを1本にまとめた 「シャーボ」シリーズの技術を生かし、高級車のような滑らかな作動感を目指した
1977年に発売したシャープペンシルとボールペンを1本にまとめた 「シャーボ」シリーズの技術を生かし、高級車のような滑らかな作動感を目指した

misaki hashimoto / HuffPost Japan

さらに、インク残量を確認できる窓も設けた。これは1960年代にヒットした透明軸ペン「クリスタル」 (2021年製造終了)の機能を受け継いでいる。

透明軸でインクの残量が見える機能は1960年代当時、画期的だった
透明軸でインクの残量が見える機能は1960年代当時、画期的だった

misaki hashimoto / HuffPost Japan

社内から「高級ペンには似合わない仕様では」という反対意見もあったが、医療用の高透明樹脂を採用することで、美しさと機能性を両立させた。

「サラサクリップ」のバインダークリップも採用しつつ、高級感のあるデザインに仕上げた
「サラサクリップ」のバインダークリップも採用しつつ、高級感のあるデザインに仕上げた

misaki hashimoto / HuffPost Japan

最初の一画目から、気持ちよく書けるように

一般的にボールペンは、使い始めよりも、使い込むほど書き味が滑らかになる。

 「でも、このペンを手にしてくださる方には、最初の一画目から最高の書き味を感じてほしかったんです。そこで製造工程に取り入れたのが、『慣らし処理(エイジング)』でした」(中田さん)

出荷前にあらかじめペン先をなじませることで、書き始めから滑らかな書き味を実現した。手間もコストもかかるが、それも品質の一部だと考えているという。

カラーリングにも、日本らしさを取り入れた。ラインアップは「銀色(しろがねいろ)」「水藍色(みずあいいろ)」「鋼色(はがねいろ)」の3色。それぞれ日本の伝統色から着想を得ている。

写真は銀色。ペン上部の波紋もようは1本当たり1時間かけて切削している
写真は銀色。ペン上部の波紋もようは1本当たり1時間かけて切削している

misaki hashimoto / HuffPost Japan

「金属でありながら、水辺の静けさや自然の美しさを感じてもらえる一本を目指しました」(中田さん)

販売計画比160%を達成。予想を上回る反響

発売後、想定を大きく上回る反響を集め、販売計画比160%を達成した。発売直後は品切れが相次ぎ、生産体制を急きょ強化したという。発売前から予約で店舗在庫が完売するケースもあった。

THE ZEBRAには、ゼブラがこれまで培ってきた技術と開発の知見が結集している
THE ZEBRAには、ゼブラがこれまで培ってきた技術と開発の知見が結集している

misaki hashimoto / HuffPost Japan

また、当初は50〜60代の富裕層を主な購入層として想定していたが、実際には30〜40代や若い文具ファンからも支持を集めている。

中田さんは「効率が最優先される時代だからこそ、人は自分と向き合う静かな時間を求めているのではないか」と分析する。その思いを象徴するのが、ボールペンとしては異例の10年保証だ。

「使い捨てではなく、人生をともに歩む一本であってほしいですね。ブランド自体も、このペンのように時間をかけて大切に育てていきたいと考えています」(中田さん)

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