7月31日に放送されたCBCテレビ『ゴゴスマ -GO GO!Smile!-』(TBS系列)で、「令和8年熊本地震」の避難所における性被害防止策が紹介され、その内容が物議を醸している。
番組内で専門家が「女性は肌を露出しすぎない」「黒やベージュなど目立たない服装を」と求めたことに対し、SNS上で「被害者の服装に原因を求めるのは誤り」との批判が相次いだ。
この問題の背景について、ハフポスト日本版は性暴力被害と服装の関係に詳しい上智大学の田中雅子教授に取材。「服装による自衛」の呼びかけが適切ではない理由や「被害者責任論を助長する」リスクなどについて聞いた。
防災士「男性から“違った被害”を受けない工夫をぜひ」⇨SNS「違和感」「誤った思い込み」
番組に出演した防災士の野村功次郎氏は、「本来震災なのに“違った被害”を受ける可能性があるので、とくに女性のかた、肌を露出し過ぎない!あとは一人で行動しない。トイレであったり人の死角となる所には、肌を露出した姿で移動することを避ける」など注意喚起した。
その上で「避難所では黒・ベージュなど比較的目立ちにくい服装で。男性のほうから、男性がすべて悪いとは言わないですが、“違った被害”を受けないような工夫を是非是非していただきたい」と対策を勧めた。
SNSでは放送内容に対する批判や疑問が数多く投稿された。
「ちがうよ、どんな服を着てようと女性を見て欲情して強姦する男が問題なんよね。女性の服装云々に言及すんのは違うでしょ」
「露出が多いから性暴力の被害に遭いやすいというのは昔から繰り返されてきた誤った思い込みだ」
「荷物の持ち出しもおそらく最低限になるだろう避難生活で、異常者の視線のために、わざわざ女性が柔軟な服選びや着替えができるような状況なのでしょうか」
加えて、災害時の性被害防止のために報道されるべきアナウンスへの意見も見られた。
「はっきり男性に『非常に卑劣な犯行』『厳罰に処する』『周りの男性も加害が起きないように協力して』『怪しい人物はすぐ通報して』と呼びかけてほしい」
「違和感しかない報道。なぜ災害用テントでプライバシーを保護したり警備強化する等の事を国に求めない?」
こうした投稿の多くが引き合いに出していたのが、2023年に上智大学で開催された『そのとき、あなたは、何を着てた?〜What Were You Wearing?〜』展だ。性暴力被害者20人の証言を基に、被害に遭った時の服装を古着で再現し展示した。
“挑発的な服装をした若い女性が性暴力被害に遭う”という先入観をなくし、性暴力とその二次被害を防ぎ、「あなたは悪くない」というメッセージを届けることを目的として開催された。
この展示を企画したのは、上智大学総合グローバル学部の田中雅子教授。静岡大学の池田恵子教授(減災と男女共同参画研修推進センター共同代表)らと共に東日本大震災女性支援ネットワークで活動し、『こんな支援が欲しかった!~現場に学ぶ、女性と多様なニーズに配慮した災害支援事例集』の制作に携わった。
ハフポスト日本版は田中教授に、服装と性被害の関係、そして避難所で女性に自衛を求めることへの妥当性を聞いた。
なお、田中教授は当該の番組放送や個別のSNS投稿を直接確認したわけではなく、あくまで災害とジェンダーに関する専門的知見からの見解であることを前置きしておく。
露出の多い服装が性暴力の原因になる、あるいは、露出を控えていれば被害を防げるとすることは実証されていない
田中教授はまず、「露出の多い服装が性暴力の原因になる、あるいは、露出を控えていれば被害を防げるとは言えない」と指摘する。
「もし『露出の多い服装』が原因になるのなら、制服姿の女子学生が被害に遭っていることは説明できず、『性暴力に遭いやすいから制服は着るな』と指導しなくてはならなくなります。性暴力を性暴力たらしめるのは、被害者が何を着ていたかではなく、本人の同意のなしに性的行為がなされることです。露出度の高い服装を着ていることは、性的同意を意味しません」
上智大学で開催された展示『そのとき、あなたは、何を着てた?〜What Were You Wearing?〜』でも、被害時の服装として制服、仕事着、日常着、寝間着、子ども服が並んだ。
服装に関する研究で比較的明確に示されているのは、「服装が被害を発生させる」ことではなく、露出の多い服装だと説明された被害者に対して、第三者がより大きな責任を帰属させる傾向がある、つまり「服装が影響するのは、性暴力の発生段階より、被害者を見る側の偏見や被害者非難の段階」だという。
一見すると善意の「防犯アドバイス」に見える呼びかけの危うさもここにある。
女性に「露出を控える」「目立たない色を着る」と求めれば、裏返しとして「その指示に従わなかった人は被害を避ける努力をしなかった」というメッセージを生んでしまうからだ。
「被害が起きた後に『どんな服を着ていたのか』『なぜもっと注意しなかったのか』と問われれば、被害者は自分にも責任があったのではないかと考え、相談や被害申告をためらう可能性があります。性暴力の責任はどんな場合でも加害者にあり、被害者がどのような服装をしていたとしても、その責任が被害者に移ることはありません」(田中教授)
内閣府も、痴漢被害について、服装や乗車時間を理由に被害者を責めることは、申告をためらわせ、泣き寝入りや二次被害につながると明記している。
「女性の自衛は泥棒に対して鍵をかけることと同じ」論があてはまらない理由
今回の放送内容について、SNS上では「女性に自衛を呼びかけるより男性に性加害するなと注意するべきだ」という批判がある一方、「泥棒に対して『鍵を掛けよう』と言う声掛けが被害を減らすように、現実的に被害を減らすための自衛の声掛けは有効だ」など、女性への自衛の呼びかけを肯定する意見も一部見られた。
田中教授は「泥棒に対して鍵をかけることと同じだ」という例えは、性暴力にはあてはめることができないと語る。
「鍵は建物や物品への侵入を物理的に妨げるために設計された設備ですが、女性の服装は、性暴力を物理的に防止する装置ではないからです」(田中教授)
東日本大震災後、田中教授が共に活動し、防災とジェンダーを専門とする静岡大学の池田恵子教授らの指摘によれば、災害時の性暴力には大きく2つのパターンがあるという。
1つは、雑魚寝や暗く人目につかないトイレ、更衣室の欠如などから生じる「環境不備型」の暴力。もう1つは、避難所の運営者や支援者が、その立場や物資を利用して性的な見返りを求める「対価型」の暴力だ。
「より重要なことは、災害時の性暴力には、見知らぬ人による犯行だけでなく、家族、知人、他の避難者、運営者、支援者など、被害者が知っている人や、支援・権限を持つ人による行為も含まれるという事実です。服装ではなく、その人が置かれた力関係によって、起きるのです」(田中教授)
女性だけに服の色や露出度を管理するよう求めること自体、現実的ではない。「環境整備」への転換を
さらに、夏の避難所という過酷な環境下において「黒やベージュの服」「露出を控える」ことを女性に強いるのは、健康上のリスクも伴う。空調の停止や過密状態の中では熱中症の危険が高まるため、「肌を露出しないように」という呼びかけは、通気性を推奨する公的な熱中症対策と矛盾しかねない。
すでに被災による不安を抱える人に対し、さらに「服装への自己監視」という緊張を強いることにもなるという。
では、災害時のアナウンスとして、メディアや行政は何を発信すべきなのか。田中教授は、少なくとも以下の点を明確にする必要があると提言する。
- 「性暴力やDVは犯罪・人権侵害であり、避難所でも決して許されない」
- 「被害者は悪くない」
- 「目撃した人は傍観せず、運営者や警察などに知らせる」
- 「被害を受けた場合の相談先と支援先」
- 「運営者や支援者による立場の悪用を許さない」
内閣府の災害対応ガイドラインでも、求められているのは女性の服装制限ではなく「男女別のトイレ・更衣室、十分な照明、防犯ブザー、男女ペアによる巡回、女性相談員の配置、女性の避難所運営への参画」といった構造的な環境整備だ。
「必要なのは、『女性が自衛する暴力防止』から、『避難所の運営者、支援者、避難者、行政などが暴力を許さない環境をつくりあげる体制』への転換だと考えます。男性一般を潜在的な加害者として排除するのではなく、男性も女性も安全な避難所をつくり、暴力を止める担い手になることが重要です」(田中教授)
最後に田中教授は、被災地外からのSNS発信についてもこう警鐘を鳴らした。
「被災地域から遠く離れたところにいる人も、SNSなどでの被害者バッシングが二次被害を起こしていることを自覚し、無責任なリアクションをしないでほしいです」
なお、上智大学での展示『そのとき、あなたは、何を着てた?〜What Were You Wearing?〜』の展示協力者のうち、同意が得られた人の経験を再現した服装のセットは、貸し出しを行っている。詳細は「開催ガイド」参照。
CBCテレビ「被災された方々に思いを寄せる内容を番組としてお届けすることができませんでした」
番組を制作したCBCテレビはハフポスト日本版の取材に対し、今回の放送内容について、「野村氏のコメントは、避難所という日常とは異なる状況下にある方々に向け、少しでも身を守っていただく一助になれば、との思いから注意喚起させていただいたもので、被害の責任を被害を受けた側に押し付ける意図はありませんでした」と説明した。
一方で、「しかし、結果として、連日の厳しい暑さの中で避難生活を送られている被災された方々に思いを寄せる内容を番組としてお届けすることができませんでした」と部分的に問題を認めた。
放送内容への反響については、「視聴者の方々からSNS等に寄せられているご意見も真摯に受け止め、被災された方々に寄り添えるよう、今後の番組制作に活かしてまいります」とコメントした。番組内での説明や訂正、検証などを行う予定について質問したが、回答はなかった。

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