
『ぬるい毒』(新潮社)著者:本谷 有希子
主人公の強烈な内省的意識
先週行われた芥川賞の選考は残念な結果に終った。「該当作ナシ」。本谷有希子は本作で候補になっていた。高校の頃はさしてパッとしたところのなかった主人公・熊田由理は地元の短大に進み、垢(あか)抜けた感じになっている。
ある正月。帰省中の、高校時代にお金を借りたという向伊が電話をかけてくる。向伊は東京の大学に通っている。ほとんど記憶にない男からの電話にうろたえるけれど、正月にしかかかってこない電話に過剰な思いを抱いていく主人公。二人は付き合うことになるのだが……。ここまでのトーンが後半になるや激変する。向伊という男がまったく信頼に足らぬ人間だということが判明し、地獄へまっさかさま……。
本谷さんの小説を特徴づけているのは、主人公の強烈な内省的意識である。基本的に一人称が用いられている本作でもそれは変わらない。
相手を嫌悪し、憎み、同時に愛し、いとおしむ。感情のデパートのような女性の内面を描かせたら、本谷さんの右に出る者はいない。表題の「毒」は他ならぬ自分の吐く毒である。充分に愉(たの)しめる小説に仕上がっていると確信した。
【初出メディア】
日本経済新聞 2011年7月20日
http://www.nikkei.com/

1 時間前
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