
2024年9月8日、ニューヨークにある国立9.11記念博物館の反射池の一つに赤いバラが供えられた。(AP通信/テッド・シャフリー撮影)
By Sean Salai – The Washington Times – Wednesday, September 9, 2026
米国の小中高校に通う児童・生徒は、25年前の2001年9月11日に起きた同時多発テロを誰一人として経験していない。事件から四半世紀を迎える中、米国の学校現場では、9・11が「いつ、誰によって、どのように」起こされたかだけでなく、「なぜ起きたのか」をどう教えるかで苦慮している。
米国の理念についての教育に取り組むフィラデルフィアの財団、ジャック・ミラー・センターによると、多くの米国史の授業では、年度末に外交政策の問題として9・11を扱うとみられる。ただし、扱いは教師の裁量に任せられている。
9・11では、ハイジャックされた旅客機が世界貿易センターと国防総省、ペンシルベニア州シャンクスビル近郊に墜落し、計2977人が死亡した。ハイジャック犯は19人だった。事件の犠牲者を追悼するため、今年の25周年に合わせて黙祷を行う学校もある一方、特に予定を設けていない学校もある。
同センターの公民教育部門のローレン・アルトベリ執行責任者は「9・11への対応は、州や学校、教室によってそれぞれ異なる」と指摘する。
フロリダ、メリーランドなど一部の州では、教師に事件の事実を教えるよう詳細な教育基準を定めている。一方、マサチューセッツ、ワシントンなどには具体的な指針がない。
メリーランド州教育委員会の広報担当者シェリー・デュバルジョーンズ氏によると、高校の米国史教育課程には「国内外のテロ、9月11日、対テロ戦争」に関する明確な指導項目が盛り込まれている。ただ、実際の授業内容には幅があるという。
同氏は「各地域の教育制度が、こうした基準を満たすために使用するカリキュラムを決める」と説明。「9月11日が次第に歴史上の出来事になるにつれ、授業も、現在起きている事件として生徒に理解させることから、歴史的な出来事として分析させる方向に変わってきた」と述べた。
AP通信が最近まとめたところによると、少なくとも40州が公立学校で9・11を扱うことを義務付けるか、推奨している。このうち25州は授業を法律で義務付け、13州は任意の教育基準を設けている。ペンシルベニアなど一部の州では、事件当日に黙祷することを義務付けているものの、教室での授業は義務付けていない。
今年、犠牲者を追悼する行事を予定している学校には、首都ワシントンの公立学校や、イリノイ州南部2郡を管轄するレッドバッド第132学区などがある。
ワシントンの公立学校では、国防総省に突入したアメリカン航空77便に搭乗し死亡した教師3人と生徒3人を追悼する恒例行事を続ける。SNSへの投稿に加え、校内放送を通じて黙祷を行う。
同校の広報担当者によると、レッキー教育キャンパスとケッチャム小学校では、犠牲者の写真や壁画、銘板を設置して追悼している。レッキー教育キャンパスには恒久的な追悼庭園があり、生徒や職員、家族、地域住民が静かに集い、思いを巡らせることができるという。
キッズ・ディスカバーやホートン・ミフリン・ハーコートなどの教科書出版社が発行する米国史の教科書は、9・11を扱う単元まで授業が進めば、事件がいつ、誰によって、どのように起こされたのかを説明している。しかし、「なぜ起きたのか」については十分に踏み込んでいない。
米国史家でアリゾナ州立大学米国制度センター所長のドナルド・クリッチロー氏は「高校の歴史教科書を調べると、9・11の出来事についてはかなり適切に扱っている」と指摘する。その一方、「大半に欠けているのは、イスラム過激思想についての十分な議論だ」と述べた。
教科書では、ウサマ・ビンラディンと国際テロ組織アルカイダが反西側、反イスラエルだったと触れる程度にとどまっているという。
クリッチロー氏は、公立学校がイスラム教徒への不合理な恐怖をあおっていると受け取られることを懸念し、こうした問題を避けていると指摘した。その上で、イスラム過激思想について議論することは「現在の米国のイランへの関与が正しいか間違っているかを含め、米国の関与について生徒がよりよく理解することにつながる」との見方を示した。
9・11の25周年を迎える中、多くの学校や学区、州教育委員会はほとんど、あるいは全く発信していない。共和党議員らは、こうした状況を懸念している。
米下院教育労働力委員会のティム・ウォルバーグ委員長(共和党、ミシガン州)は「教室で何を教えるかは州や地域社会が決めることだが、国家の歴史を保存し、9・11の犠牲者と英雄をたたえ、後世の世代があの日の長期的な影響と、託された自由を守る責任を理解できるようにすることの重要性を決して忘れてはならない」と述べた。
ジョージ・W・ブッシュ政権の元顧問で、事件当日にホワイトハウスにいたティム・ゴーグライン氏は、若者の間で9・11周年を愛国的に捉える風潮が薄れていると指摘した。若者の関心が社会主義や、米国のイラン攻撃への反対に向いているためだという。
保守派の福音派団体フォーカス・オン・ザ・ファミリーの副会長を務めるゴーグライン氏は「9・11が単なる一日として扱われている。戦没者追悼記念日が、国家と自由のために究極の犠牲を払った男女をたたえる日ではなく、バーベキューや夏の始まりの日になっているのと同じだ」と述べた。
同氏は、学校で9・11を「宣戦布告のない攻撃」であり、米国を一つにした出来事として扱うよう求めた。1941年の日本による真珠湾攻撃と同様に教えるべきだとの考えだ。
米国では、憲法上、教育は主に州と地方自治体の責任とされている。マイク・ローラー下院議員(共和党、ニューヨーク州)は昨年、全米50州で9・11の出来事と教訓を教えるよう促す拘束力のない決議案を提出したが、委員会で審議が止まっている。
米教育省当局者は、小中高校の社会科授業で9・11を教える連邦政府の統一カリキュラムは存在しないと説明した。一方、25周年を迎えるに当たり、公立学校には愛国的な立場で事件を扱うよう促した。
教育省のサバンナ・ニューハウス報道官は「子供たちに米国の自由について学ばせなければ、自由を守ることを期待することはできない」と述べた。
さらに「階段を駆け上がった初動対応要員や、二度と帰宅できなかった愛する人たち、そして次の世代が決して忘れないよう、団結して立ち上がった普通の米国市民に対し、米国人は集団として責任を負っている」と訴えた。
ただ、今年の公立学校での授業や追悼行事は控えめなものになると予想する専門家も多い。教師がユダヤ教徒とイスラム教徒の間の緊張をあおることを避けようとしているためだ。
ノースカロライナ州の長老派系大学、リーク・マクレー大学のマイク・デービス教授(米国史)は「教師は一般的に、生徒との関係で論争を招くことを避ける。最も自己中心的で、左派的な被害者意識を持つ人々でさえ、この問題は避けて通る」と述べた。
■授業用教材
保守派は、9・11の攻撃を説明するには、女性や少数派、さまざまな宗教の人々が享受する米国の自由に対し、イスラム原理主義の過激派が抱く憎悪について論じる必要があると主張している。
ユタ、フロリダなど共和党の強い州のいくつかは、保守系デジタルメディア「PragerU(プレーガーユー)」が教師向けに歴史の補助教材を提供することを認めている。同団体の9・11に関する動画や保護者向けガイドでは、6~12年生の生徒に対し、テロ攻撃と米国の対テロ戦争を「善と悪の戦い」として考えるよう促している。
PragerUのマリッサ・ストライト最高経営責任者(CEO)は「何世代もの若者が、なぜツインタワーが崩壊したのか、そして自由な国で自由な人々が暮らす中、なぜそれが重要だったのかを学ばないまま成長している。われわれが目にしているのは、学校が9月11日に言及するかどうかではなく、起きたことを今も『悪』と呼んでいるかどうかだ」と語った。
一方、25周年を扱う教師向けの別の教材には、より批判的な視点を促すものもある。
社会的責任教育に取り組むモーニングサイド・センターの社会・情動学習ガイドは、教師に対し、「イスラム教徒が多数を占める国々など、世界の人々がなぜ時に米国に怒りを感じるのか」を生徒が理解できるよう指導することを求めている。
米イスラム関係評議会(CAIR)は最近、学校の新学期向けガイドから、アルカイダ指導者ウサマ・ビンラディンが2002年に発表した「米国民への手紙」の写しを掲載したリンクを削除した。同文書では、米国のイスラエル支援が9・11の攻撃を招いたとしている。
このリンクを含む授業計画は、CAIRのニュージャージー支部と、支援団体「ティーチング・ホワイル・ムスリム」が共同で作成したものだった。授業計画では、ハイジャック犯を「アフガニスタンの山岳地帯を拠点とし、アルカイダを名乗る集団」とも説明していた。
CAIRはガイドを公表した翌日、インターネット上で抗議が広がったことを受け、リンクを削除した。
同評議会のエドワード・アハメド・ミッチェル全国副理事長は、若年層の生徒には教材が不適切と判断したと説明。ガイドは主に教師に「何をしてはいけないか」を助言する内容だと強調した。
ミッチェル氏は電話取材に「イスラム教徒の生徒に9・11や、テロに対するイスラムの見解について説明させてはならない」と述べた。「毎年、事件の時期になると、同級生からいじめを受けたり、教師から特別扱いされたりするなど、あたかも攻撃に関与したかのように偏見を向けられた生徒から苦情が寄せられる」とした。
ニューヨーク・マンハッタンの9・11の現場「グラウンドゼロ」にある国立9・11記念博物館の学年別デジタル授業計画は、事件当時の映像など、一次資料を中心に構成されている。
同博物館を運営する非営利団体は6月、「決して忘れない」を掲げたキャンペーンを開始した。9・11をきっかけとした奉仕活動の物語を紹介する大型展示を開設し、「新たな世代の来館者と学習者に届ける」ほか、2000万人の生徒を教育し、10万人の専門家を育成することを目指している。
保守系シンクタンク、ヘリテージ財団の教育アナリスト、ジョナサン・ブッチャー氏は、同博物館の取り組みを評価した。
「生徒には、あの日の惨劇と、テロリストが米国の自由を奪おうとしたことを教えなければならない。そして、あの日と、その後の数カ月、数年にわたり、米国を守るために命を懸けた勇敢な男女の決意についても学ばせる必要がある」と述べた。
非営利メディア「ホームランド・セキュリティー・トゥデー」の「9・11後の米国」と題するガイドは、政策立案者の証言を通じ、9・11を受けて議会が国土安全保障省を創設し、全国的な監視、サイバーセキュリティー、空港の安全対策を拡充した経緯を説明している。
2001年9月のテロ攻撃の生存者の一部は、学校で9・11を「理不尽なテロ行為」として教えるよう求めている。連邦法ではテロを、民間人を威嚇したり、政府の行動を強要したりする目的で計画された暴力行為と定義している。
インドからの移民で、世界貿易センターの崩壊時に81階分の階段を駆け下りて生還したスージョ・ジョン氏は「米国と、この国が掲げるものを憎む19人のテロリストが、罪のない人々を攻撃した。それ以上、何を求めるのか。この脅威について語ることは重要だ。そうしなければ、9・11のようなことが再び起こり得る」と訴えた。
学校で9・11をどのように教え、教師がどの教材を使用しているかを全国的に追跡している組織はない。
アフガニスタンでの戦闘経験を持つ退役軍人で、テネシー州中部で軍事史ツアーなどを主催する歴史家ポール・ホイッテン氏は、若者に9・11を重要な出来事として受け止めてもらうことが、ますます難しくなっていると語った。
「最近ますます、子供だけでなく大人まで9・11について具体的な知識を持たなくなってきている。9・11の事実をどう伝えるべきかを考えなければならなくなっている」と述べた。
■食い違う9・11認識
教育専門家の間では、学校で9・11について統一した説明をすべきかどうかで意見が分かれている。
ペンシルベニア大学のジョナサン・ジマーマン教授(教育史学)は「9・11について単一の解釈を押し付けるのではなく、異なる視点の教材を示し、生徒にその違いを理解させるべきだ。それこそが、民主主義社会で活躍できる市民になるために必要な能力だ。自分自身で考えることだ」と語った。
教育専門誌「エデュケーション・ウィーク」が2011年にまとめた報告書によると、9・11から10年を迎えた際、社会科の教室では事件がほとんど、あるいは全く取り上げられていなかった。研究者は、過密なカリキュラム、教師が十分な準備をできていないこと、政治的な論争を招く議論への懸念などを要因として挙げた。
レーガン政権時代に教育省に勤務したジーン・アレン氏によると、2022年に発表された報告書では「攻撃についての記述は極めて短く、教科書は9・11を首尾一貫した歴史的文脈の中に位置付けるのに苦労している」と指摘されていた。
教育改革センターのアレン最高経営責任者(CEO)は「研究では、9・11の扱いが不十分だという結果が繰り返し示されている」と述べた。
同センターの「ワイ・アメリカ」プログラムは、これを改善するための主要な教材として、国立公文書館、国立憲法センター、権利章典研究所、公共教育用のデジタルプラットフォーム「iCivics」の一次資料集、「コンスティテューティング・アメリカ」を教師に紹介している。
保守系学生の全国組織「ヤング・アメリカズ・ファウンデーション」の関係者は、イスラエルに対する暴力的な言辞が、教師にとって9・11を「ますます議論しにくい問題にしている」と批判した。
同財団の広報担当、ロブ・タンディ氏は「生徒には2001年9月11日に何が起きたのかを知る権利がある。攻撃の動機となったイスラム過激思想についても率直に議論する権利がある」と語った。

1 日前
1







English (US) ·
Japanese (JP) ·