「イカのおしり」にまぎれた、ひときわ太い化石
「イカのおしり」にまぎれた、ひときわ太い化石 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部ベレムナイトは、今のイカと同じように腕をもつイカやタコの仲間で、体の中に硬い芯のような部分をもっていました。
「ロストルム(鞘)」と呼ばれるこの部分が、私たちが目にするベレムナイトの化石の正体です。
ワイオミングで見つかるロストルムは、ふつう長さ5〜10センチ、太さ1〜2センチほどしかありません。
化石が眠っていた地層には、かつてアメリカ西部の一部をおおっていた内陸の海の跡が残されています。
最初の変わり者は1990年代の終わりに、ワイオミング恐竜センターの創設者ブルクハルト・ポール博士が見つけたものでした。
しかしこの化石は研究されないまま、何年も博物館の引き出しで眠り続けます。
化石収集家のクリフ・リンスターさんが同じ州でもう1つを見つけ、2019年にセンターへ寄贈したことで、ようやく2つを見比べられるようになりました。
2つの化石は、長さこそ約10センチと普通なのに、太さが約6センチもある樽のような形をしていました。
これは、これまで知られているどのベレムナイトよりも太いロストルムです。
腕まで含めると、生きていたころの体長はおよそ60センチあったと考えられています。
研究チームはこれを新しい属の新しい種とし、属には「ワイオミングのイカ」を意味する「ワイオテウティス」という名前をつけました。種の学名は「ワイオテウティス・リンステロルム(Wyoteuthis linsterorum)」です。
そして研究チームは、この太い化石の「中身」に、正体を解く手がかりを探しました。
ずんぐりイカの「意外な正体」とは?
ずんぐりイカの「意外な正体」とは? / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部研究チームはCTスキャン(化石を切らずに内部を見られる方法)を使い、化石を傷つけずに中を調べました。
さらに、ロストルムの形や内部のくぼみの位置と角度、先端の溝や細かな筋といった特徴を一つひとつ確かめていきました。
その結果、この化石は「メガテウティス科」というベレムナイトの一族に属することが分かりました。
メガテウティス科は、ジュラ紀の中ごろまで栄えた一族です。
ところが「バトニアン」(ジュラ紀の中ごろの一時期)と呼ばれる時代にほとんど姿を消し、それより新しい地層からは、ごくまれにしか見つかっていませんでした。
今回の化石は約1億6000万年前のもので、この一族が消えたと思われていた時代から数百万年もあとに生きていたことになります。
つまりワイオテウティスは、仲間がほとんどいなくなった後もひっそり生き延びていた「生き残り」の枝だったのです。
研究チームは、その祖先が、北アメリカからすでに報告されていた「ブレビベルス」という仲間だった可能性が高いと考えています。
この発見は、北東太平洋に、これまで知られていなかったメガテウティス科の「避難場所」があったことを示しています。
実は同じ地域からは、見た目の似たロストルムが以前にも報告されていましたが、それらはこの地域でよく見つかる「シリンドロテウティス科」という別の一族のものでした。
この時代のアメリカ北西部で知られていたベレムナイトの一族は、これまでそのシリンドロテウティス科だけだったのです。
では、なぜこれほど太い体つきになったのでしょうか。
研究者は一つの可能性として、体が大きいことで、同じ海にいた小型のベレムナイト「パキテウティス」を狩るのに有利だったのではないかと考えています。
今のイカも、ほかのイカやタコの仲間、ときには同じ種の仲間まで襲うことがあるからです。
ただし、なぜこれほど太いロストルムが進化したのかは、まだ確かめられていません。
ワイオミングでは何百万本ものベレムナイトの化石が見つかっているのに、この種はたった2つしか見つかっていません。
その珍しさは、当時の環境に合わせて限られた暮らし方に特化していたせいかもしれない、という見方もあります。
見慣れた「イカのおしり」の山の中には、消えたはずの一族の生き残りが、たった2本だけ静かにまぎれていたのです。
スマートなイカばかりが海の人気者というわけではなかったのかもしれません。






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