『「神様」のいる家で育ちました』で、宗教2世の苦悩を描いた漫画家・菊池真理子さん。その最新作『同意なんかしていない―性被害者たちに何が起きたのか―』(文藝春秋)が大きな反響を呼んでいます。
本作は、19歳の時に性被害にあった菊池さん自身の経験をはじめ、さまざまな性被害の当事者たちの声を丁寧に拾い上げたノンフィクションエッセイ漫画です。
第1話では自身の若い時の被害経験から「おばさんになっても夜道が怖い」、また性加害問題について「目をそらしているのは怖いから」「直視したら思い出すから」という菊池さんの思いが語られます。
そこから出発して、サバイバーである著者が8人の当事者・支援者たちと出会い、対話を通じ、著者の心にもたらされたものが描かれています。なぜ今、このテーマに向き合う必要があったのか。作品に込めた想いを聞きました。
自身の性被害経験をマンガに描こうと思った理由
――ご自身の性被害経験をマンガに描こうと思った理由として、「どんな性暴力も根本の問題は性的不同意というところで共通している」と気づかれたそうですね。
菊池真理子さん(以下、菊池):以前は、報道する価値があるのは、組織が権力を使って性暴力を隠蔽している場合のみだと思っていました。しかしフェミニズムに興味を持ち、学んでいくにつれ、権力は大きな組織だけが持っているものではないと気づきました。
どんな性暴力にも、社会的な力の差が関係していて、それは自分に起こったことにも言えそうだと感じ、描くことを決めました。
マンガで「不同意ということは共通している」という表現を使ったのは、特に「不同意性交」にまつわる誤解が多いことを感じていたからです。特定の出来事やニュースがきっかけになったわけではなく、フェミニズムやジェンダーに関心を持つようになって、だんだんと心境に変化が起きたという感じです。
宗教2世を描いた前作。バッシングや誤解ばかりが目についた性暴力、意を決して描く
――『「神様」のいる家で育ちました』は、安倍晋三元首相銃撃事件で宗教2世へ社会の関心が高まった後に作品が出ました。一方、今作ではすでに社会に文脈がある中での執筆となりました。描きやすさや、逆に難しさはありましたか?
菊池:宗教2世に関しては社会が同情的であったので、発表することにためらいはありませんでした。味方の方が多いだろうと予想していたので、描きやすかったです。
一方、性暴力に関しては、バッシングや誤解ばかりが目についていたので、意を決して描くという感覚はありました。どう描いても理解してくれない層は一定数いるだろうと、開き直ってもいました。なので、特に「描きにくい、描きやすい」ということはなかったです。
加害者が有名人の場合、被害者へのバッシングが大きいことも
――本作のエピローグで、自身の経験を今まで描かなかったのには、社会からのスティグマやバッシングが怖かったが、社会が変わってきて後に続こうと思ったと明かしていました。また作中に登場する、有名人男性からの性被害をメディアで報道された滝澤さん(仮名)のエピソードは印象的です。
今は反発している人たちも、いつかわかってくれたら、と思いながら描いていました。
ただ、作中に登場する滝澤さんの立場だったら、そんな心境にもなれなかったと思います。滝澤さんや旧ジャニーズの性加害問題の被害者の方々は、性暴力被害者だというだけでなく、相手が有名人だという理由でのバッシングが大きいと思うので、違うつらさもあるだろうと感じています 。
――連載前に担当編集さんの紹介でさまざまな支援者や当事者の方と繋がったことが支えになったそうですね。
菊池:活動家や記者さんたちとのグループと定期的に食事会をして、つながっていられたのが本当に支えになりました。
連載前、自分のトラウマケアはできているつもりでいたのですが「描いているうちに絶対に調子を崩すから」と、ピアサポ(当事者同士の支え合い)を紹介されたことも、とても大きいです。今も継続して参加しています。
そこでの話は守秘義務があるので書けないのですが、安全な場所で、気持ちをわかりあえる当事者とつながれたことが、作品だけではなく人生にとってすごくプラスになりました。
「騙す女への対処を考えろ」「男を悪者に」といった反応も…
――作品発表後どのような声が届いていますか?
菊池:AC(アダルトチルドレン)や宗教2世のことを描いた時は、当事者からの反響が大きかったのですが、今回は当事者からのダイレクトな反響はさほどありません。X(旧Twitter)をフォローしてくれたり、いいねしてくれたりといった反応を、そっと受け取っているという感じです。
一方「後から不同意といって騙(だま)す女への対処を考えろ」「表紙に女しか描かれていない。また男を悪者にしている」といった反応は、一定数ありました。
<菊池真理子>埼玉県出身。2017 年にアルコール依存症の父について綴った『酔うと化け物になる父がつらい』が大きな話題に。同作は松本穂香主演で 2020 年に映画化。著書に『神様のいる家で育ちました〜宗教2世な私たち〜』『アラフィフひとり おためし山暮らし』など。

3 時間前
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