免疫の「司令塔」が、自ら敵を攻撃するようになる
今回の研究を理解するには、まず私たちの免疫について簡単に知っておく必要があります。
私たちの体内では、細菌やウイルス、異常な細胞などから体を守るために、多くの免疫細胞が働いています。
その中心的な存在の一つがT細胞です。
T細胞にもいくつか種類がありますが、大まかに考えると、よく知られているのが「ヘルパーT細胞」と「キラーT細胞」です。
ヘルパーT細胞は主にCD4 T細胞と呼ばれ、他の免疫細胞に働きかけて免疫反応全体を調整します。
一般向けにいえば、免疫部隊の「司令塔」に近い役割です。
一方、俗に「キラーT細胞」と呼ばれるのは主にCD8 T細胞です。
こちらはウイルスに感染した細胞や異常な細胞を見つけると、自ら攻撃して破壊します。
いわば実際に前線で戦う「戦闘員」です。
ところが今回注目されたCD4 CTL(CD4 cytotoxic T lymphocyte)は、その常識から少し外れています。
もともと司令役であるはずのCD4 T細胞の一部が、グランザイムなどの攻撃用の分子を持つようになり、自ら標的細胞を殺せるようになった特殊なT細胞だからです。
つまりCD4 CTLとは、
「司令官だったヘルパーT細胞が、自ら武器を持って戦うようになった細胞」
と考えるとわかりやすいでしょう。
通常、CD4 CTLは血液中では珍しく、T細胞全体の5%未満程度です。
しかしこれまでの研究では、ウイルス感染だけでなく、肺がんや膀胱がん、メラノーマ、大腸がんなどでも、CD4 CTLが腫瘍細胞を攻撃することが報告されていました。
研究チームは以前から、110歳以上の長寿者では、このCD4 CTLが非常に多いことに注目していました。
そこで今回、日本人28人から採取した血液を使い、T細胞を1個ずつ詳しく解析しました。
対象となったのは、70~90代の8人、100歳以上の10人、そして110歳以上の10人です。
すると、T細胞全体に占めるCD4 CTLの割合の中央値は、70~90代では4.0%だったのに対し、100歳以上では9.6%、110歳以上では17.6%となっていました。
つまり、100歳前後からCD4 CTLが目立って増えていたのです。
さらに研究チームは、1500以上のサンプル、合計500万個を超える細胞を含む公開データも解析しました。
その結果でも、若い年代ではCD4 CTLの割合は低い一方、非常に高齢になると割合が大きくなることが確認されました。
しかも研究では、CD4 T細胞がいきなり別の細胞になるのではなく、CD27、CD28という細胞表面の目印を順番に失いながら、徐々に攻撃能力を獲得していく様子も見つかっています。
つまり実際に、「ヘルパー役から攻撃役へ」という段階的な変化が起きていると考えられるのです。






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