
『迪子とその夫』(草場書房)著者:飯田 章
職人の手仕事のように書き継ぐ
文芸誌だけで月に四冊出ている。季刊の雑誌を入れると、五冊出る月もある。最近の新人賞受賞作は、一時に比べれば数篇(へん)まとめて単行本になる可能性が増大したが、それでも、作品が一冊の本にまとまることなく、雑誌に掲載されただけで顧みられなくなる例は、かなりの数にのぼる。飯田章は「第十七回群像新人文学賞」を受賞した。今年が四十九回だから、実に三十二年前の受賞である。その受賞作を中心にこの単行本は出来ている。
今の時代に人の目を引くほど、刺激的な小説が入っているわけではない。寡作だが長く書き続けてきた著者の近作が入っているわけでもない。だが、コツコツと職人の手仕事のようにして書き継がれてきた小説が、ここにはある。
恥ずかしい話だが、私は飯田章という作家の小説を初めて読んだ。迪子(みちこ)と弘志と麻子の家庭の話を興味深く読んだ。タイガースに田淵がいて、JRが国鉄だった頃の話である。だが、不思議と古びた感じがなかった。そして、昔、こんな職人気質を思わせる小説が文芸誌にはいっぱい載っていたような気になるのは、私だけだろうか。
【初出メディア】
日本経済新聞 2006年5月31日
http://www.nikkei.com/

5 時間前
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